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133.ラーシュの生い立ち

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暫くの間、ラーシュが攻撃を仕掛け、アデルバートさまがそれを受け流すという戦いが続いていた。
ラーシュは、アデルバート様に比べて細身だ。
おそらく長期戦になれば、スタミナのあるアデルバート様のほうが有利になっていくだろう。
それがわかっているのか、ラーシュの攻撃は少し性急にも見えた。
戦いについてはまるで素人の私がそう感じるのだからドミニクたちから見たら、よりそう感じるようだ。

「………何か、違和感を感じませんか?」

それを初めに口にしたのはアルヴァだった。

「………ラーシュの攻撃のことか?」
「はい。あまりに稚拙というか………いつものラーシュらしくない。………このような戦い方はしないはずですが………」

ラーシュの戦い方を、一番近くで見てきたであろうアルヴァが訝しげに眉を顰めた。

「まるで、ラーシュがラーシュでないような………」
「………そもそもラーシュがあそこまでアデルバート様に拘るのには、理由があるのよね?」

私は、ずっと気になっていた疑問を口にした。

「………ラーシュは………両親に愛されなかった。それが、彼の性格を大きく歪めてしまった」

ぽつりと呟くアルヴァは、戦うラーシュの姿を見つめながら、せつなそうに目を細めた。

「ご存知の通り、ラーシュは先代の首領と先代黒焔公爵夫人との間に生まれた子です。ラーシュの父親である先代の首領………イーヴォ様は、宿敵の妻であった女性に一目惚れをし、強奪したのです」
「え………?」

それは、意外な事実だった。
私はてっきり、ラーシュが私を連れ去ったの同様に、先代黒焔公爵様を苦しめるためだと思っていたからだ。

「イーヴォ様は、無理矢理想いを遂げられましたが、公爵夫人はそれは激しく抵抗したそうです。………そして運悪く、身籠ってしまった。それがラーシュでした。ラーシュが生まれるまでの間、イーヴォ様は夫人を軟禁し、大切にされていました。しかし、夫人は、衰弱し、遂には心を壊してしまったのです。………ラーシュが生まれると、イーヴォ様は夫人を解放しましたが………何故か生まれたラーシュには無関心でした。イーヴォ様の側近であった私の両親が、ラーシュの面倒を見ることになりましたが、私の記憶の中ではイーヴォ様がラーシュに話し掛ける所を見たのはほんの数回でした」

次第に雪が強まり、大気が鳴る音が不気味に響いた。
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