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106.嫌な気配(アデルバート視点)

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加護魔法と治癒魔法を何度も使ったせいで体にも負担が掛かったらしく、顔色の悪いシャトレーヌを先に休ませると、私は例の男を保護しているテントへと向かった。

「様子はどうだ?」
「黒焔公爵様!………意識は戻らず、危険な状態かと………」
「ふむ………」

私は妙な違和感を覚え、横たわる男の元へ歩み寄った。
青白い顔の男は、浅い呼吸を繰り返している。だが、その弱々しい生命力の隙間に、嫌な気配を感じた気がした。………気のせいか?

「引き続き、手当を頼む」

私はそれだけ告げると、シャトレーヌの眠るテントへと向かった。
シャトレーヌは、私が横になっても身動ぎ一つせず、規則正しい寝息を立てていた。
よほど疲れたのだろう。
私は額に口付けをすると、彼女を抱きしめて眠りについた。

三時間ほど眠っただろうか。
私はやはり嫌な気配を感じ、目が覚めた。
ぞわり、と私の神経を逆撫でするような、そんな気配だ。だが、これはラーシュの気配ではない。
私は起き上がり、浄化魔法で身を清め、身支度を整えると野営の周りを見て回ったが、特におかしなところはなかった。

「シャトレーヌ、起きているか?」
「ええ、今参ります」

テントへ戻り、声をかけると、シャトレーヌか出てきた。
ゆっくりと休めたせいか、体調も良くなったようだ。

「シャトレーヌ、悪いがまたあの者に治癒魔法を施してやってほしい」
「もちろんですわ」

あの男の事が何となく気になり、シャトレーヌに治療を頼むと、快く引き受けてくれた。
早速シャトレーヌを伴って先程の、テントへと向かう。
シャトレーヌはゆっくりと傷口に治癒魔法を掛けていくが、やはり、男の意識は戻らなかった。
やはり、私の思いすごしか。

「残念ながら、私に出来るのはここまでですわ。あとは、本人の体力次第です」

悔しそうにそう告げたシャトレーヌだったが、そのまま少し考えた後、徐に男の胸に手のひらを当てた。
一体何をするのかと思った矢先だった。
シャトレーヌの手のひらが淡い金色に光り、テントの中を温かな、優しいそよ風が吹き抜けた。
そして、横たわる男の体を、彼女の手から溢れた金色の光が包み込んでいく。
しばらくすると、金色の光は徐々に小さくなって、やがて彼女の手のひらに消えていった。

「シャトレーヌ………?」

私は、驚愕の表情でシャトレーヌを見つめた。

「以前、温室で枯れてしまった花に触れたら蘇ったのを思い出しまして………。でも、やっぱり、それは偶然だったみたいです………」

シャトレーヌは慌てて男の胸から手を離し、立ち上がろうといた、その時だった。

「う………」

微かに、呻き声が聞こえた。
私は、シャトレーヌの隣へと寄り添い、男を覗き込んだのと同時に、僅かに男の瞼が動いた。

「おい、しっかりしろ!」
「ん………」

男の眉が顰められ、そしてゆっくりと瞼が開いていく。
私は、信じられない思いで、驚きの表情を浮かべるシャトレーヌを見つめていた。
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