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105.忌まわしい男(アデルバート視点)

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シャトレーヌが何かに気がついたのはその時だった。

「アデルバート様、ドミニク。誰かいるわ」
「………シャトレーヌ、下がっていろ」

シャトレーヌを背中に庇いながら、剣を構えた。

「た………すけ………て………」

はっきりと、男の声が聞こえた。
シャトレーヌが目配せをしてくる。私は頷くと、剣に炎を纏わせて氷を砕くと、両足を氷塊に潰された、青年がいた。
村の、生き残りだろうか。

「待って!今助けるわ!」

シャトレーヌが、ドミニクの静止を跳ね除けて、青年に駆け寄ろうとしてするのを、慌てて捕まえる。

「無闇に飛び出すな」
「………はい、申し訳ありません」

シャトレーヌは必死になると周りが見えなくなるようだ。そんなシャトレーヌに付き添い、青年に近付いた。

「私が治すわ。だからあと少しだけ、頑張って頂戴」

シャトレーヌが、治癒魔法を使う。
あれほど酷かった怪我がみるみる元通りになるのを、不思議な気持ちで見つめていた。
ドミニクが、男に声をかけた。

「………は………」

男は意識が混濁しているようだった。
シャトレーヌが、今度は体力を回復させる治癒魔法を使うと、いくらか青年の呼吸が安定してきた。
ドミニクに男を野営に運び手当をするよう指示すると、他の生存者の捜索に当たったが、結局、小一時間捜索したが、見つかった生存者はあの男一人だけだった。
野営に戻ると、私は村の中を回りながら考えついたことを口にした。

「しかし、スネーストルムの奴等は一体、何処に潜んでいるのだ………。リーテの村が襲われたのは、三日前。だが、生存者がいたという事は、少なくとも今朝まではあの村に滞在していた可能性が高い。あの吹雪の中、そう遠くには行けまい。そうすると、この近くに潜んでいると考えるのが妥当だろう」

………私は揺らめく焚火を見つめた。

「奴等は、雪と共にやってくる。特に………ラーシュが来ているときは」

忌まわしい男の名を、口にする。

「ラーシュとは、どういう人物なのですか?」

シャトレーヌが、尋ねた。

「ラーシュは、私が公爵位を父上から譲り受ける直前にスネーストルムの首領となった男だ。非常に腕が立ち、殊に氷魔法に長けている。………その腕前は、吹雪でさえも操る事が出来ると噂されるほどだ。何度か剣を交えたことがあるが、一度も勝負がついたことはない。言うなれば宿敵だな」

私は、シャトレーヌに説明をした。
事実を述べたが、一番肝心の………奴が、私とは異父兄弟であるということは、優しいシャトレーヌが心を痛めるだろうと思うと、どうしても言い出せなかった。
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