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93.知りたい(アデルバート視点)
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鍛錬場では既に騎士たちが鍛錬に励んでいた。
私の姿を見ると、皆畏まって礼を取る。
私は、模擬刀を手に取ると肩慣らしの素振りを始めた。
余計なことを考えなくて済むように、一心不乱に剣を振るっていると、一人の若い騎士が声をかけてきた。
「こ、黒焔公爵様………ご指導願えませんか?」
確か、最近入隊したばかりの騎士だったか。
私は頷いた。
「いいだろう。ただし、途中で音を上げるなよ」
「ありがとうございます!」
若い騎士と向かい合い、打ち合いを始める。若いだけあって力はあるが、やはり太刀筋が甘く、隙だらけだ。
「踏み込みが甘い!」
私は片足で彼の足を払った。
「っ!」
若い騎士は倒れ込む。
「鍛え方が足りん!もっと足を鍛えろ!」
「はいっ!」
私が怒号を飛ばすと、近くにいた騎士たちが囁くのが聞こえた。
「黒焔公爵様………いつになく厳しくないか?まさに最恐将軍だぜ」
「昨日、奥方を迎えられたそうだが………気に食わなかったんじゃないか?」
普段なら、他人による私の評価など全く気にならないのに、その囁きがやけに耳障りに感じた。
「そこ!無駄口を叩く暇があるなら鍛えてやる。かかってこい」
「は、はいっ」
半分八つ当たりに近いような気持ちを、騎士たちにぶつけるのは間違っていると知りながらも、私はそうしてしまう。
「脇をもっと締めろ!攻撃を受けた時に剣が飛ばされるぞ!」
私は声を張り上げた。
と。あちらの方から、ドミニクと侍女を伴ったシャトレーヌの姿が見えた。
思いがけない来訪に、私は今朝方の彼女の態度などすっかり忘れたように胸が高鳴るのを感じた。
模擬刀をおくと、シャトレーヌの方へと向かった。
「シャトレーヌ、もう出歩いても大丈夫なのか?」
「鍛錬のお邪魔をしてしまい、申し訳ございません。私はこの通り、ご心配には及びませんわ」
「このような場所を見ても、面白くあるまい。あちらに、植物を育てる温室がある。そちらの方に行ってみるといい」
このような場所は彼女には相応しくない。もっと美しいものに囲まれているべきだと思い、私は嬉しい気持ちを飲み込むと、そう提案する。
「アデルバート様や騎士の皆様が、普段どのように過ごされているのかを見てみたいと思っただけですので、鍛錬にお戻り頂いて結構ですわ。私ももうお暇致しますので」
シャトレーヌはそう言って微笑んだ。
そうあっさり引き下がられてしまうと、名残惜しい気持ちが首を擡げた。
「………待て」
思わず、引き留めてしまう。
自分から立ち去るように提案しておいて引き留めるなど、一体私は何をしているのだ………。
「はい?」
戸惑ったようにシャトレーヌは目を瞬いた。
「そろそろ休憩の時間だ。もしよければ一緒に茶でも、と思ったのだ」
普段、鍛錬の最中に休憩など取ったことはない。シャトレーヌを引き留める為の咄嗟の口実だった。
「休憩?」
ドミニクが不思議そうに声を上げる。私はがギロリとドミニクを睨んだ。
「どうだ?」
「………ええ、喜んで」
シャトレーヌはまた微笑んだ。何故シャトレーヌの笑顔はこんなにも柔らかいのだろう。
「そちらに休憩室がある。シャトレーヌの侍女………エブリンと言ったか。すまんが茶を用意してくれるか?」
「は、はい!只今!」
茶など全くもってどうでもいいが、もっと多くの時間を共有して、シャトレーヌの事を知りたいと思う気持ちに、素直に従ったのだった。
私の姿を見ると、皆畏まって礼を取る。
私は、模擬刀を手に取ると肩慣らしの素振りを始めた。
余計なことを考えなくて済むように、一心不乱に剣を振るっていると、一人の若い騎士が声をかけてきた。
「こ、黒焔公爵様………ご指導願えませんか?」
確か、最近入隊したばかりの騎士だったか。
私は頷いた。
「いいだろう。ただし、途中で音を上げるなよ」
「ありがとうございます!」
若い騎士と向かい合い、打ち合いを始める。若いだけあって力はあるが、やはり太刀筋が甘く、隙だらけだ。
「踏み込みが甘い!」
私は片足で彼の足を払った。
「っ!」
若い騎士は倒れ込む。
「鍛え方が足りん!もっと足を鍛えろ!」
「はいっ!」
私が怒号を飛ばすと、近くにいた騎士たちが囁くのが聞こえた。
「黒焔公爵様………いつになく厳しくないか?まさに最恐将軍だぜ」
「昨日、奥方を迎えられたそうだが………気に食わなかったんじゃないか?」
普段なら、他人による私の評価など全く気にならないのに、その囁きがやけに耳障りに感じた。
「そこ!無駄口を叩く暇があるなら鍛えてやる。かかってこい」
「は、はいっ」
半分八つ当たりに近いような気持ちを、騎士たちにぶつけるのは間違っていると知りながらも、私はそうしてしまう。
「脇をもっと締めろ!攻撃を受けた時に剣が飛ばされるぞ!」
私は声を張り上げた。
と。あちらの方から、ドミニクと侍女を伴ったシャトレーヌの姿が見えた。
思いがけない来訪に、私は今朝方の彼女の態度などすっかり忘れたように胸が高鳴るのを感じた。
模擬刀をおくと、シャトレーヌの方へと向かった。
「シャトレーヌ、もう出歩いても大丈夫なのか?」
「鍛錬のお邪魔をしてしまい、申し訳ございません。私はこの通り、ご心配には及びませんわ」
「このような場所を見ても、面白くあるまい。あちらに、植物を育てる温室がある。そちらの方に行ってみるといい」
このような場所は彼女には相応しくない。もっと美しいものに囲まれているべきだと思い、私は嬉しい気持ちを飲み込むと、そう提案する。
「アデルバート様や騎士の皆様が、普段どのように過ごされているのかを見てみたいと思っただけですので、鍛錬にお戻り頂いて結構ですわ。私ももうお暇致しますので」
シャトレーヌはそう言って微笑んだ。
そうあっさり引き下がられてしまうと、名残惜しい気持ちが首を擡げた。
「………待て」
思わず、引き留めてしまう。
自分から立ち去るように提案しておいて引き留めるなど、一体私は何をしているのだ………。
「はい?」
戸惑ったようにシャトレーヌは目を瞬いた。
「そろそろ休憩の時間だ。もしよければ一緒に茶でも、と思ったのだ」
普段、鍛錬の最中に休憩など取ったことはない。シャトレーヌを引き留める為の咄嗟の口実だった。
「休憩?」
ドミニクが不思議そうに声を上げる。私はがギロリとドミニクを睨んだ。
「どうだ?」
「………ええ、喜んで」
シャトレーヌはまた微笑んだ。何故シャトレーヌの笑顔はこんなにも柔らかいのだろう。
「そちらに休憩室がある。シャトレーヌの侍女………エブリンと言ったか。すまんが茶を用意してくれるか?」
「は、はい!只今!」
茶など全くもってどうでもいいが、もっと多くの時間を共有して、シャトレーヌの事を知りたいと思う気持ちに、素直に従ったのだった。
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