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75.アデルバート様の力

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「アデルバート様、氷狼の群れはここを真っ直ぐに行った先の、曲道付近です。………そうだわ。加護魔法を………」
「ああ、頼む」

私は、アデルバート様や戦闘に加わる魔法棋士たちに加護魔法をかける。
その様子を、アルヴァが少し離れたところでじっと見ているのに、私は気がついた。
何かを仕掛けてくる様子は、今の所全く無い。
ただ、移動中も何度か私達の方を見ていたのは知っている。
でも、敵意は感じられない。
まるで、アデルバート様や私の事を観察しているような、そんな雰囲気だった。
まぁ、敵陣の真っ只中で敵意を剥き出しにするような密偵もいないでしょうけれど。

「ドミニク、シャトレーヌを頼んだぞ!」
「はい。黒焔公爵様、ご武運を」
「アデルバート様、どうぞご無事で」
「ああ。必ず無事に戻る」

アデルバート様はひらりとスヴァルトに飛び乗ると、駆け出した。そしてそれに魔法騎士達が続いていく。
その後ろ姿を見送ると、私の心は急激な寂しさに襲われる。
………私にも、魔物討伐が出来たら良かったのに。そうすれば、ずっとアデルバート様と共にいられるのに。
私の中で、アデルバート様の存在がどんどん大きくなって、自分でもどうしょうもない程に気持ちが暴れる。
離れると、それだけで苦しくて、切なくなってしまう。
私は溢れ出そうな涙を、そっと拭った。

「奥方様?」
「………なんでもないわ」

声を掛けてきたドミニクに返事をし、私は無理矢理笑顔を作る。

「それにしても、アデルバート様は随分とドミニクを信頼しているのね」
「あぁ………まあ俺、これでも魔法騎士部隊の副隊長ですからね。魔法の腕は黒焔公爵様には敵いませんけど、剣の腕前ならほぼ互角に戦えますよ」

私はそれを聞いて驚いた。
だって、そんなの初耳だわ。

「でも、黒焔公爵様にはやっぱり及びません。剣も魔法も、スピードも、そして相手の急所を確実に捉える技も………あんな凄い人は見たことがないですよ。特に、火炎魔法を使うとき………俺、戦場で見惚れて、危うく死にかけたことがあります」

へへ、とドミニクは頭を掻いているけれど、それは笑い事じゃないわね………。
でも、気持ちは分かるわ。
昨日のあの火炎魔法を見たとき、私だって鳥肌が立ったもの。
あの炎によって命を終えるのなら本望だなんて思わせるような美しい炎は、アデルバート様そのものだと、私は思う。

「黒焔公爵様の力は、やっぱり特別なんだと思います」

ドミニクは、まるで幼い子どものように目を輝かせながら呟いた。
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