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44.朝の触れ合い

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「ん……」

重たい瞼を開くと、目の前にアデルバート様の寝顔があった。
……寝起きに、美形のアップは心臓に悪いわ。
私は乱れた呼吸を整える。
思えば、アデルバート様の寝顔を見るのは初めてかもしれない。いつも先に起きて、鍛錬に行かれてしまうから。
外は、雪が降っていて薄暗い。何時なのかは分からないけれど、おそらくお昼位になるだろう。
私はアデルバート様を起こさないように、そっと寝台を降りようとした。
と。
腰のあたりに長い腕が絡みついてきて私を捕えた。

「どこへ行くつもりだ?」
「まあ、アデルバート様。起きてらっしゃったのですか?」
「今、起きた。生物が動く気配には敏感なのでな」

私が起き出したせいね。お疲れなのに、申し訳ない事をしたわ。

「起こしてしまいましたわね」
「いや、寝過ぎると体が鈍るからな」

アデルバート様は見事に鍛えられた上半身を起こす。
黒衣を纏っているのも勿論お美しいけれど、何も身に纏わずともこんなに美しいなんて………。
ふと、自分の体に視線を移す。……そう言えば私も何も着ていなかったのだわ……。
いくら部屋の中が薄暗いとは言っても、昼間に裸を見られるのは恥ずかしい。
私はさり気なく腕で胸を隠した。

「……何故体を隠す?」

気が付かれないように隠したつもりなのに、アデルバート様は目敏くそれを見抜いたようだ。

「ええと、その……。は、恥ずかしいのです……」

消え入りそうな声で素直にそう告げると、アデルバート様は一瞬目を丸くし、それからふっと微笑んだ。

「昨夜は、もっと恥ずかしい行為を強いても恥ずかしがらなかったというのに、面白い奴だ」

そう指摘され、昨夜の自分を思い出して顔が赤くなる。……わざわざ口に出さなくても良いのに。

「しかし、やはりシャトレーヌを抱いているとよく眠れるな」

抱きまくらとしての効能でしょうか?
私は目を瞬いた。

「ええと、猫や犬と一緒に寝ると暖房代わりになって具合がいいというのと、同じですかね?」

実家では動物を飼っていたことはなかったけれど、聖女仲間たちが冬の暖を取るのに愛玩動物がうってつけだと話していたのを思い出して、口にしてみた。
するとアデルバート様は唖然とした表情をなさり、そして次の瞬間、笑いだしたのだ。
微笑んだ顔を見ることは何度もあったけれど、アデルバート様が声を出して笑ったのを見るのは、これが初めてだった。

「あ、アデルバート様?」
「……お前といると、心が落ち着くのだ。私の中の燃え盛る炎が、穏やかさを取り戻す。お前にはそういう力がある。犬猫と同等などとは考えていないから安心しろ」

笑いを含みながら、アデルバート様がそう告げた。
私が、アデルバート様の心を落ち着かせている?
……私、アデルバート様のお役に立てているということかしら。
そう思うと、私の胸の中がほんのりと温かくなった。
できる事ならばこの幸せな時が、長く続きますように……。
私はそう願うのだった。
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