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27.暴挙

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「……何ですって?」

私の言葉に、モーリス侯爵令嬢の表情が変わった。
少し吊目がちな目が更に吊り上がった。頬に赤みがさしているのは、怒っているからなのだろう。
モーリス侯爵令嬢は、噂に違わずかなり気性の激しい方だわ。
でも、いくら貴族とは言っても、やっていい事と悪いことがある。


「伯爵令嬢ごときが、この私に指図する気?」
「指図ではありません。これは忠告ですわ。それに、私は正式にグロリオサ公爵夫人となっております」

事実を述べると、怒りのためかモーリス侯爵令嬢の青い双眸が燃え上がったように見えた。

「貴女みたいなみすぼらしい役立たずの聖女がアデルバート様に望まれる訳がないでしょう?そうやって使用人に媚を売ろうって魂胆かしら?考えることも浅ましいのねぇ」

モーリス侯爵令嬢はますます意地の悪い笑みを浮かべると、両手を頭上に掲げた。

「……何の真似です?」
「あら、そんな事も分からないの?頭まで弱いのね。話の通じない愚か者に少しお仕置きをするのよ」

モーリス侯爵令嬢がそう告げると、頭上に青い光が集まり始める。
………まさか。
私の予感は、最悪の形で的中した。

氷の刃リョート・リェーズヴィエ!」

モーリス侯爵令嬢が詠唱したのは、広範囲での使用に適した氷の攻撃魔法だった。
こんな狭い室内で、こんな強力な魔法を使われたら、大変なことになってしまう。
それくらいに信じられない暴挙だった。
守りの盾アムリェート・シチート!」

私は、必死に結界魔法を詠唱する。この部屋には、オーキッドとエブリン、それにメイドが三人。この範囲なら、何とか守れそうだ。

私は精一杯力を使い、皆の周りを結界で固めた。

「お嬢様!!」
「奥様!!」

エブリン達の悲鳴が聞こえた。
それとほぼ同時に、頬と両手に焼け付くような痛みを感じる。

「……っ!」

避けきれなかった氷が、私の皮膚を切り裂いたのだ。
傷口から鮮血が、迸る。
それよりも、エブリン達は………?
私はエブリン、それからオーキッドとメイド達の無事を確認する。
部屋の中は滅茶苦茶だけれど、とりあえず皆無傷のようだわ。良かった………。
安心した途端、私はその場にへたり込んだ。

「ほら、聖女のくせに自分の身もまともに守れないだなんて。本当に役立たずなのね。恥ずかしいと思ったことはないの?」
「聖女は、守らなければならない人たちのために力を使えと教えられました。私はそれに従ったたけです。無闇に人を傷付けるその行為の方がよっぽど恥ずかしいわ」

これ以上怒らせると何をしでかすか分からないのは分かっていたけれど、私は我慢できなかった。

「何ですって?!」

完全に激昂したモーリス侯爵令嬢が、私に掴みかかったその時だった。

「何の騒ぎだ」

サロンの扉が開け放たれる。
姿を見せたのは、アデルバート様だった。
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