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14.分からない

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「お嬢様、目が覚めましたか?」

気怠い体を起こすと、エブリンが朝食を運んできてくれた所だった。

「体調はいかがですか?朝食をお持ちしましたよ」
「ありがとう。さすがエブリンね」
「いえ、これは公爵様……旦那様のご指示です」
「アデルバート様の……?」
「ええ。まだ歩くのは辛いだろうから、午前中は極力体を休めるように、との事です。良かったですね、思ったよりもずっとお優しい方で」

エブリンはそう説明した。
私は目を瞬く。
仕方なく娶った妻なのに、どうしてそんなに気遣ったり優しくするのかしら?責任があるから?それとも、義務だからかしら。
そんな優しくされると、期待してしまうじゃない。
……期待?期待って何を?
私は心の中で、自問自答を繰り返した。
……アデルバート様が、分からない。

「お嬢様、まずお着替えを致しましょう。今日は、体調も万全ではありませんから、ゆったりしたワンピースをご用意いたしますね」

エブリンの指摘で、自分が何も身につけていなかった事を思い出した。
私の裸なんて、エブリンは見慣れているから気にもしていないと思うけれど、私からすると、初夜明けの姿を見られるのは何とも言えない恥ずかしさがあった。

朝食はライ麦パンと、ソーセージ。それにキャベのピクルスにスープか添えられた、至ってシンプルなもの。
やはり、この極北の地では生の野菜は夏の一時期しか口に出来ない貴重品。だから、冬の間は夏に採れた野菜をピクルスにして保存しておくらしい。
特に、干し肉と干魚で出汁を取ったスープは、何とも言えない美味しさが口に広がる絶品だった。

「今日はこのままゆっくりと過ごされますか?」

食後の薬草茶を淹れながら、エブリンが尋ねてくる。
思いの外、体調は悪くはなさそう。少し、動いたほうが余計なことを考えなくて済むかもしれないわね。

「ありがとう。でも、そんなに心配無さそうだわ。少し、城内を見てみようと思うのだけれど、だめかしら?」
「わかりました。では、執事長に話をして参りますね」

エブリンは、一礼をすると部屋を出て行った。
これから、黒焔公爵夫人としてこの城で生活をするのだから、オーキッド以外の使用人にも挨拶をしなければならないし、覚えなければならないこともたくさんあるわよね。
それに、聖女としての鍛錬も続けないと、悪い腕が更に鈍ってしまう。
他にも、やらなければならない事はたくさんあるはず。
私は、私に割り当てられた「役割」を果たすことを求められているだけよ。だから、その役割を精一杯頑張るしかない。
私は自分にそう言い聞かせた。
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