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1.結婚という名の厄介払い
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「シャトレーヌ・スピラエラ伯爵令嬢。黒焔公爵アデルバート・グロリオサの許に嫁ぐ事を命ずる」
突然、我がスピラエラ伯爵家にやってきた国王陛下の勅使が読み上げた勅書に書かれていたのは、たったそれだけだった。
青天の霹靂とは、こういうことを言うのね。
王命による結婚。つまり当事者であるこの私、シャトレーヌ・スピラエラには拒否権などない。勿論お相手となる公爵様にも。
「スピラエラ伯爵。こちらは陛下からの祝金です。ご令嬢には支度が整い次第すぐに北方の公爵領へと向かっていただくように、とのことでございます」
祝金というよりも、身代金と言ったほうが正しいような気がいたします。
「か、かしこまりました」
お父様は呆然としている。
それは当然だわ。
何故なら、私の夫に指名されたのは黒焔公爵アデルバート・グロリオサ様。またの名を、最恐将軍。このエルヴァリグル王国の極北に位置する広大な領土を支配する公爵様で、エルヴァリグルの守護神。………と言えば聞こえはいいけれど、何でも極度の人嫌いで、滅多に人前に姿を現さないし、もしお出ましになられても、漆黒の甲冑をその身に纏い、素顔さえも晒さない。ちなみに私は一度もお会いしたことはない。
その性格は、一言で言えば残虐で、北方の異民族や雪山に住まう氷の魔獣討伐には嬉々として出掛け、彼が通った後には、得意とする火炎魔法によって焼き尽くされた焦土のみが残される………なんていう噂まである。ちなみに、黒を好んで身に着け、火の魔法を使うから黒焔公爵と呼ばれるのだそう。元々は通り名だったのだけれど、今では正式な爵位として認められているそうだ。
そんな方の花嫁にならなければいけないのね。
まあ、好いた殿方もいないですし、むしろこのまま一生独身を貫く予定だったから、親孝行くらいにはなるのかしら。
「黒焔公爵様ももう三十になられたました。我が国の守護神の血筋が絶えてしまうのを、陛下は憂慮してらっしゃる。公爵様に何度も身を固めるように促したのですがね、なかなか良い返事が貰えず困っていたのですよ。ところが遂に公爵様から『聖女なら迎え入れてもいい』というお返事を頂きまして。それで年頃の聖女の中から、貴族でもあるスピラエラ伯爵令嬢が適任という事で選ばれた訳です。伯爵令嬢が公爵夫人になれるのですから、大出世ですなあ」
勅使と共にやってきたおじ様(あとでお父様に聞いたら大臣をしている侯爵様だったのですが)が、お父様に金貨の入った袋を手渡したあとに、聞いてもいない理由を喋る。
なるほど。これはいわゆる厄介払い、もしくは追放と言えばいいのかしら?
私は、一応聖女。十歳の時に行われた魔法適正検査で光属性の魔法反応が出たため、貴族令嬢でありながら、聖女として働いているのだ。
でも、この国で必要とされる聖女の能力は、魔物討伐の為の強化魔法や魔物から街を守る結界魔法。
でも、私が得意とするのは病人や怪我人を治療する治癒魔法や、身を守るための加護魔法で、実のところ聖女ではあるけれど、あまり役に立たない。魔物も力でねじ伏せれば怪我もしないし、結界があれば加護はいらないという理屈だ。
沢山練習はしたけれど、強化魔法も結界魔法も、上手く行かなかった。
聖女を束ねる立場である大聖女様や他の聖女仲間が励ましてくださったけれど、きっと私は聖女として落ちこぼれなんだと思う。
「聖女を妻に」と望んで下さった黒焔公爵様には、詐欺まがいで申し訳ない気がするんだけど、少しでもお役に立てるように頑張ろう。……役立たずだと、追い出されなければ、ですけれどね。
突然、我がスピラエラ伯爵家にやってきた国王陛下の勅使が読み上げた勅書に書かれていたのは、たったそれだけだった。
青天の霹靂とは、こういうことを言うのね。
王命による結婚。つまり当事者であるこの私、シャトレーヌ・スピラエラには拒否権などない。勿論お相手となる公爵様にも。
「スピラエラ伯爵。こちらは陛下からの祝金です。ご令嬢には支度が整い次第すぐに北方の公爵領へと向かっていただくように、とのことでございます」
祝金というよりも、身代金と言ったほうが正しいような気がいたします。
「か、かしこまりました」
お父様は呆然としている。
それは当然だわ。
何故なら、私の夫に指名されたのは黒焔公爵アデルバート・グロリオサ様。またの名を、最恐将軍。このエルヴァリグル王国の極北に位置する広大な領土を支配する公爵様で、エルヴァリグルの守護神。………と言えば聞こえはいいけれど、何でも極度の人嫌いで、滅多に人前に姿を現さないし、もしお出ましになられても、漆黒の甲冑をその身に纏い、素顔さえも晒さない。ちなみに私は一度もお会いしたことはない。
その性格は、一言で言えば残虐で、北方の異民族や雪山に住まう氷の魔獣討伐には嬉々として出掛け、彼が通った後には、得意とする火炎魔法によって焼き尽くされた焦土のみが残される………なんていう噂まである。ちなみに、黒を好んで身に着け、火の魔法を使うから黒焔公爵と呼ばれるのだそう。元々は通り名だったのだけれど、今では正式な爵位として認められているそうだ。
そんな方の花嫁にならなければいけないのね。
まあ、好いた殿方もいないですし、むしろこのまま一生独身を貫く予定だったから、親孝行くらいにはなるのかしら。
「黒焔公爵様ももう三十になられたました。我が国の守護神の血筋が絶えてしまうのを、陛下は憂慮してらっしゃる。公爵様に何度も身を固めるように促したのですがね、なかなか良い返事が貰えず困っていたのですよ。ところが遂に公爵様から『聖女なら迎え入れてもいい』というお返事を頂きまして。それで年頃の聖女の中から、貴族でもあるスピラエラ伯爵令嬢が適任という事で選ばれた訳です。伯爵令嬢が公爵夫人になれるのですから、大出世ですなあ」
勅使と共にやってきたおじ様(あとでお父様に聞いたら大臣をしている侯爵様だったのですが)が、お父様に金貨の入った袋を手渡したあとに、聞いてもいない理由を喋る。
なるほど。これはいわゆる厄介払い、もしくは追放と言えばいいのかしら?
私は、一応聖女。十歳の時に行われた魔法適正検査で光属性の魔法反応が出たため、貴族令嬢でありながら、聖女として働いているのだ。
でも、この国で必要とされる聖女の能力は、魔物討伐の為の強化魔法や魔物から街を守る結界魔法。
でも、私が得意とするのは病人や怪我人を治療する治癒魔法や、身を守るための加護魔法で、実のところ聖女ではあるけれど、あまり役に立たない。魔物も力でねじ伏せれば怪我もしないし、結界があれば加護はいらないという理屈だ。
沢山練習はしたけれど、強化魔法も結界魔法も、上手く行かなかった。
聖女を束ねる立場である大聖女様や他の聖女仲間が励ましてくださったけれど、きっと私は聖女として落ちこぼれなんだと思う。
「聖女を妻に」と望んで下さった黒焔公爵様には、詐欺まがいで申し訳ない気がするんだけど、少しでもお役に立てるように頑張ろう。……役立たずだと、追い出されなければ、ですけれどね。
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