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逃げた
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「ロロアが逃げた?」
翌朝ギルドに顔を出して聞かされたのは正直信じられない話だった。
だって犯罪者用護送車ってかなり厳重に作られてて、物理も魔法も効果がないって代物だ。多分ネイビスだって出られない。そこからあのロロアが逃げたって……。
「それは外部から手引きがあったって事か?」
フランツが眠そうなまま顔をしかめるという器用な表情をして訊く。
「わからん。今まで溜めた証拠と今回は完全に現行犯だったって事を実家に伝えたら、即離縁の手続きをしたくらいだ。実家が動いたとは思えん」
一応証拠集めはしてたのか。それだけロロアの悪名は高かったんだろう。正直俺の耳には入ってこなかったけど……というか言われても忘れてたんだけど。
「警備隊の地下牢番に引き渡そうとした時にはもう中はもぬけの殻だった」
護送車は壊れてないし、開いてもいなかった。窓はあっても勿論鉄格子がはまっててそこから出る事は出来ない。もしかして何か細工があって外せるのかと3人がかりで引っ張ってみたけどびくともしなかったそうだ。
最初にロロアが中にいるのを確認して護送してた警備隊も前後左右固めてたし、出てきたら絶対わかるはず。なのに開けてみたら中にいた筈のロロアはいなかった。それで今朝早く慌ててギルドに飛び込んできたらしい。
「またお前を狙う事はないと思うが……」
ギルドマスターが顔を曇らせて俺を見る。
確かにあれだけ思いっきりぶちのめしたから、俺が昔みたいな弱い獲物だとは思ってない……筈だけど。それにこの街で一度捕まってるんだから普通の犯罪者なら抜け出せたら別の街に逃げるだろう。
ただもうギルドは使えない。ロロアのギルド証には既に前科が刻まれて、今そこに脱走も刻まれた。もし他の場所でそれを提出しようものなら即刻警備隊送りだ。警備隊も姿絵を描いて指名手配を始めてるから普通の旅人を装って日雇いの仕事に従事するのも多少難しくなるだろう。中には気付かない人もいると思うけど、この手の犯罪者は再犯率も高めだ。
「また狙われたら今度は潰して使い物にならなくする」
前回は流石に同じ男としてちょっと手加減しちゃったから、今度俺を襲おうとしやがったら次こそはその節操のないお前の愚息を叩き潰してやるからな。
「この街からは出てないのか」
隣から聞こえたネイビスの声にドキっとする。
あの後寝てしまったネイビスにキスの記憶はあるんだろうか。朝ご飯を食べに出た時はいつもと変わらなかったし今も何1つ変わらないんだけど。
ドキドキモヤモヤしてるのは俺だけか?それならそれで何か腹立つな。
(お前もモヤつけ!)
えい!えい!とネイビスの背中にパンチする俺を訝しんだイツカに頭を握り締められて悲鳴を上げながら、呆れ顔のギルドマスターからさらに話を聞く。
街の関所は通っていない事。ロロアの実家はもちろん現在寝床にしてた宿屋にも戻ってない事。
つまりまだこの街のどこかに潜んでいるのは間違いない。
「デュナは出来るだけ1人になるなよ」
「だって。わかった?鳥頭。一度撃退したからって調子に乗って1人で何とか出来ると思うんじゃないよ」
「うぐぅ……」
思ってました。
「ロロア探しは警備隊に任せて俺達はギルドの仕事しようぜ」
ふあ、と欠伸をしながら言うフランツに全員が同意した。
確かにロロアとはもう関わりたくないし、そもそも向こうも俺が弱い獲物じゃないってわかったから寄って来ないんじゃないかな~、なんて希望的観測だけど。
さて、今日はどの依頼を受けますかね、なんてフランツとイツカが依頼板の前に立つからまたこっそりネイビスを見上げる。
腹立つくらい普段通りだ。お前あの後俺がちゃんと枕に寝かせて布団かけてやったの覚えてないのか?いやそもそも、あの……キ、キスした事も……!
「何だよ」
いつも通りの少し冷たい灰眼が見下ろしてくる。そこには、やらかした~、とか恥ずかしい!とかそんな感情一切なくて。
これは……こいつ酔っぱらうと記憶なくすタイプだな。別に良いんだけどな!俺1人だけドキドキしてモヤついてるとか!
「別に!……お前酔うと記憶なくすのか?」
「酔った事ない」
「いや昨日酔ってたから!バリバリ酔ってたから!誰が家まで連れて帰ってやったと思ってるんだ!?」
流石に昨日赤目を退治しただけあって、俺達もそんなに大物を狙うつもりはない。正直1週間くらいは休みたいって話になってたけど、朝イチでギルドマスターに呼び出されたからついでに依頼でも受けてくか、って話になったんだ。休みは明日からでも取れるしな。
そんなわけで浅部に逃げてた中部の魔物の間引き依頼を引き受けてその日は1日魔物退治で終わった。
胸にソワソワドキドキするネイビスへのほわほわした想いと、同じソワソワドキドキでも気分が悪くなる逃げたロロアへの思いを抱えたまま床につく。
疲れてたけどソワソワドキドキでなかなか眠りにつけなくて何度か寝がえりをうって、ネイビスの部屋がある方を向いた。
「本当にキスしたの忘れたのかよ、バカ」
鳥頭の俺に言われたくないかもだけど、お前も鳥頭か。バーカ!
翌朝ギルドに顔を出して聞かされたのは正直信じられない話だった。
だって犯罪者用護送車ってかなり厳重に作られてて、物理も魔法も効果がないって代物だ。多分ネイビスだって出られない。そこからあのロロアが逃げたって……。
「それは外部から手引きがあったって事か?」
フランツが眠そうなまま顔をしかめるという器用な表情をして訊く。
「わからん。今まで溜めた証拠と今回は完全に現行犯だったって事を実家に伝えたら、即離縁の手続きをしたくらいだ。実家が動いたとは思えん」
一応証拠集めはしてたのか。それだけロロアの悪名は高かったんだろう。正直俺の耳には入ってこなかったけど……というか言われても忘れてたんだけど。
「警備隊の地下牢番に引き渡そうとした時にはもう中はもぬけの殻だった」
護送車は壊れてないし、開いてもいなかった。窓はあっても勿論鉄格子がはまっててそこから出る事は出来ない。もしかして何か細工があって外せるのかと3人がかりで引っ張ってみたけどびくともしなかったそうだ。
最初にロロアが中にいるのを確認して護送してた警備隊も前後左右固めてたし、出てきたら絶対わかるはず。なのに開けてみたら中にいた筈のロロアはいなかった。それで今朝早く慌ててギルドに飛び込んできたらしい。
「またお前を狙う事はないと思うが……」
ギルドマスターが顔を曇らせて俺を見る。
確かにあれだけ思いっきりぶちのめしたから、俺が昔みたいな弱い獲物だとは思ってない……筈だけど。それにこの街で一度捕まってるんだから普通の犯罪者なら抜け出せたら別の街に逃げるだろう。
ただもうギルドは使えない。ロロアのギルド証には既に前科が刻まれて、今そこに脱走も刻まれた。もし他の場所でそれを提出しようものなら即刻警備隊送りだ。警備隊も姿絵を描いて指名手配を始めてるから普通の旅人を装って日雇いの仕事に従事するのも多少難しくなるだろう。中には気付かない人もいると思うけど、この手の犯罪者は再犯率も高めだ。
「また狙われたら今度は潰して使い物にならなくする」
前回は流石に同じ男としてちょっと手加減しちゃったから、今度俺を襲おうとしやがったら次こそはその節操のないお前の愚息を叩き潰してやるからな。
「この街からは出てないのか」
隣から聞こえたネイビスの声にドキっとする。
あの後寝てしまったネイビスにキスの記憶はあるんだろうか。朝ご飯を食べに出た時はいつもと変わらなかったし今も何1つ変わらないんだけど。
ドキドキモヤモヤしてるのは俺だけか?それならそれで何か腹立つな。
(お前もモヤつけ!)
えい!えい!とネイビスの背中にパンチする俺を訝しんだイツカに頭を握り締められて悲鳴を上げながら、呆れ顔のギルドマスターからさらに話を聞く。
街の関所は通っていない事。ロロアの実家はもちろん現在寝床にしてた宿屋にも戻ってない事。
つまりまだこの街のどこかに潜んでいるのは間違いない。
「デュナは出来るだけ1人になるなよ」
「だって。わかった?鳥頭。一度撃退したからって調子に乗って1人で何とか出来ると思うんじゃないよ」
「うぐぅ……」
思ってました。
「ロロア探しは警備隊に任せて俺達はギルドの仕事しようぜ」
ふあ、と欠伸をしながら言うフランツに全員が同意した。
確かにロロアとはもう関わりたくないし、そもそも向こうも俺が弱い獲物じゃないってわかったから寄って来ないんじゃないかな~、なんて希望的観測だけど。
さて、今日はどの依頼を受けますかね、なんてフランツとイツカが依頼板の前に立つからまたこっそりネイビスを見上げる。
腹立つくらい普段通りだ。お前あの後俺がちゃんと枕に寝かせて布団かけてやったの覚えてないのか?いやそもそも、あの……キ、キスした事も……!
「何だよ」
いつも通りの少し冷たい灰眼が見下ろしてくる。そこには、やらかした~、とか恥ずかしい!とかそんな感情一切なくて。
これは……こいつ酔っぱらうと記憶なくすタイプだな。別に良いんだけどな!俺1人だけドキドキしてモヤついてるとか!
「別に!……お前酔うと記憶なくすのか?」
「酔った事ない」
「いや昨日酔ってたから!バリバリ酔ってたから!誰が家まで連れて帰ってやったと思ってるんだ!?」
流石に昨日赤目を退治しただけあって、俺達もそんなに大物を狙うつもりはない。正直1週間くらいは休みたいって話になってたけど、朝イチでギルドマスターに呼び出されたからついでに依頼でも受けてくか、って話になったんだ。休みは明日からでも取れるしな。
そんなわけで浅部に逃げてた中部の魔物の間引き依頼を引き受けてその日は1日魔物退治で終わった。
胸にソワソワドキドキするネイビスへのほわほわした想いと、同じソワソワドキドキでも気分が悪くなる逃げたロロアへの思いを抱えたまま床につく。
疲れてたけどソワソワドキドキでなかなか眠りにつけなくて何度か寝がえりをうって、ネイビスの部屋がある方を向いた。
「本当にキスしたの忘れたのかよ、バカ」
鳥頭の俺に言われたくないかもだけど、お前も鳥頭か。バーカ!
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