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嘘だと思いたかった
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可憐なジュリエラ。戦争に心を痛め、何としても祖国を止めると決死の覚悟で敵国に嫁ぐ程の気概もあった心根の強いジュリエラ。花を愛で、甘味が好きで、少しだけお転婆な所もあって。小さな体に大きな活力を秘めていた。
――それが今。
「おい、ここで合ってんのか」
鈴を転がすような、という形容がぴったりなジュリエラと真反対の低音ボイス。じと、っと振り向けばロメリオの胸より下に頭があった筈のジュリエラは逆に俺が見上げないとダメなくらいの大男。でも魂がこれはジュリエラだって叫んでるから間違いなく俺がずっと探していたジュリエラなんだ。
でも……でも……。ぽろり、と涙が零れる。
「嘘だ……本当にこんな……ジュリエラが……」
「俺はネイビスだ」
俺とか言う!ジュリエラが俺とか言うーー!
また滂沱の涙を流すと呆れたため息と共に顔面に何かの布を投げられた。
「痛……!何!?……っていうか臭!!油臭……!」
「あ、悪ぃ。ハンカチなんてねぇから剣の手入れする時の布」
こ、このやろーー!!俺の顔が油まみれになるだろうが!!
顔に張り付いてた布を引っ剥がしてジュリエラ……ネイビスに投げ返す。こんな悪逆な奴がジュリエラなもんか!魂の声?んなもん知らん!!
ムス、と唇を尖らせて改めて依頼のあった屋敷を見上げる。
蔦の絡まった門扉は既に来訪者を拒否しているようにしか見えない。奥に見える屋敷はそれなりの広さはありそうで2人で掃除するなんて無謀この上ないし、まだ朝だと言うのに屋敷の外に生えた木々が生い茂り過ぎて辺りは薄暗い。カーテンは良く見えないけれど多分元はクリーム色だったのではないか、って色合いをしているが最早破れ過ぎてカーテンとしての役割を果たしてなかった。
……うん、確かに幽霊屋敷なんて呼ばれても仕方ない様相だ。
人はもう住んでないんだけど、売ろうにもまずこの見た目で買い手がつかない。家貸し屋も何度か自分達での掃除を試みたけどその度に幽霊騒ぎ的な事が起こって結局何も出来ず、ギルドに依頼を出したらしい。で、ギルドでも同じ事が起こってもう何年も放置されてるわけなんだけど。
「う~ん、入りたくない」
「やる前から依頼放棄か?」
「そんな事しない!」
預かった鍵でまず門扉を開け……開け……
「開かないぃぃ……」
蔦が絡まり過ぎて鍵を開けても開かない門と格闘してたら、退け、って声と共に炎が放たれて慌てて飛び退いた。
「おい!俺まで燃やす気か!」
「退けって言っただろ」
「同時に火を放つとか意味ないし!」
しかもこいつ蹴り開けたよ!
「依頼は“掃除”だからな!?破壊じゃないんだから丁寧にやれよ!」
「はいはい」
うるさいな、と小声で言ったのも聞こえてるからな!
でも何だか生ぬるい風が不気味でそそそ、とネイビスの側に寄る。っていうかこいつも魔法使えるのか、なんて恐怖を紛らわす為に考えた。
この世界で魔法っていうのはそれなりに浸透してる物だ。だからと言って誰もが使えるわけじゃないんだけど。魔力を持っててもそれを放出出来ない人もいるし、俺みたいに魔力が多すぎてたまに体の中で暴走を起こしてしまう人もいる。どこかの国の半魔の王子がその魔力暴走で困ってるって話も聞いた事があるし、魔力が多くても良い事ばかりじゃない。俺の場合はしばらく熱が出て寝込んじゃうくらいなんだけど。大人になってからは頻度も減ったし。
ぎぎぎぎぎ、と重たい音を立てながら開いたドアを凝視して杖の先についた魔石に火魔法をかけてランプ代わりにする。
中も外と大差ない酷い状態だ。そこら中に蜘蛛の巣は張ってるし、長年降り積もった埃で真っ白。一応今まで来た人が何とかしようとしたらしい感じで椅子が一か所にまとめてあったりするけどそこも満遍なく埃と蜘蛛の巣まみれだ。
「これは……1日で終わらなくないかなぁ……」
1階だけでも結構な汚れ具合、そしてこの広さ。
元々は貴族の別邸だったらしいんだけど、その家の娘に恋した男がこの家に押しかけて来て勢い余って娘を殺してしまっただとか、逆に身分違いの恋に悩んだ2人がここで共に自害しただとか、いやいや強盗が入って家族全員皆殺しだったとか、出掛けにわざわざいらん情報を教えてくれた他の冒険者達を恨みつつとりあえず三角巾とエプロンを引っ張り出して口も布で覆う。
「何してんだお前?」
それから箒を片手に2階への階段を探そうとする俺をネイビスは訝し気に見て来た。
何って掃除だろ。掃除しに来たんだから。ちょっと動いた所為で舞ってしまった埃が収まるのを待っている間にネイビスが
「浄化」
の一言と共にパチン、って指を鳴らした瞬間。
……キラキラと輝く光と共にあっという間に積もりに積もった埃が消える。後に残るは無造作に積み上げられた古臭い椅子や家具だけ。
え、嘘でしょ。俺掃除する気満々で来たんですけど。浄化使えるなら初めから出来るって言ってくれたら良くない?あれ?でも修道士とか浄化かけたって言ってなかったけ?
ん?って首を傾げた瞬間開け放っていた筈のドアがバァン!と大きな音と共に閉まる。
「ぎゃあ!?」
流石のネイビスも驚いたのか背後を振り返ってドアノブを握るけど。
「開かねぇ」
しかもたった今浄化で綺麗になった筈の部屋は、あっという間に元の埃塗れの薄暗い部屋に逆戻りしてしまった。
「やだーー!!何でぇーー!!?」
ネイビスと少し離れてた距離を一気に詰めてその腰にしがみつく。おい、腹立つな。めちゃくちゃ腹筋硬いじゃないか!俺の鍛えても鍛えてもやわやわなままの腹筋が可哀想だろ!
いやそんな事よりも!
「もう一度!もう一度浄化かけて!」
もしかしたら今のは浄化具合が足りなかったのかも知れないし!
「浄化」
今度も一瞬綺麗になったのに、結果は同じ。そしてドアも開かない。とち狂った俺が杖で窓を割ろうとしたけど勿論強化魔法でもかかってんの?ってくらい硬くて割れないし、お前もやれぇぇぇ!と揺さぶったネイビスの一撃でも割れなかった。
つまりこれは――
「閉じ込められたな」
――それが今。
「おい、ここで合ってんのか」
鈴を転がすような、という形容がぴったりなジュリエラと真反対の低音ボイス。じと、っと振り向けばロメリオの胸より下に頭があった筈のジュリエラは逆に俺が見上げないとダメなくらいの大男。でも魂がこれはジュリエラだって叫んでるから間違いなく俺がずっと探していたジュリエラなんだ。
でも……でも……。ぽろり、と涙が零れる。
「嘘だ……本当にこんな……ジュリエラが……」
「俺はネイビスだ」
俺とか言う!ジュリエラが俺とか言うーー!
また滂沱の涙を流すと呆れたため息と共に顔面に何かの布を投げられた。
「痛……!何!?……っていうか臭!!油臭……!」
「あ、悪ぃ。ハンカチなんてねぇから剣の手入れする時の布」
こ、このやろーー!!俺の顔が油まみれになるだろうが!!
顔に張り付いてた布を引っ剥がしてジュリエラ……ネイビスに投げ返す。こんな悪逆な奴がジュリエラなもんか!魂の声?んなもん知らん!!
ムス、と唇を尖らせて改めて依頼のあった屋敷を見上げる。
蔦の絡まった門扉は既に来訪者を拒否しているようにしか見えない。奥に見える屋敷はそれなりの広さはありそうで2人で掃除するなんて無謀この上ないし、まだ朝だと言うのに屋敷の外に生えた木々が生い茂り過ぎて辺りは薄暗い。カーテンは良く見えないけれど多分元はクリーム色だったのではないか、って色合いをしているが最早破れ過ぎてカーテンとしての役割を果たしてなかった。
……うん、確かに幽霊屋敷なんて呼ばれても仕方ない様相だ。
人はもう住んでないんだけど、売ろうにもまずこの見た目で買い手がつかない。家貸し屋も何度か自分達での掃除を試みたけどその度に幽霊騒ぎ的な事が起こって結局何も出来ず、ギルドに依頼を出したらしい。で、ギルドでも同じ事が起こってもう何年も放置されてるわけなんだけど。
「う~ん、入りたくない」
「やる前から依頼放棄か?」
「そんな事しない!」
預かった鍵でまず門扉を開け……開け……
「開かないぃぃ……」
蔦が絡まり過ぎて鍵を開けても開かない門と格闘してたら、退け、って声と共に炎が放たれて慌てて飛び退いた。
「おい!俺まで燃やす気か!」
「退けって言っただろ」
「同時に火を放つとか意味ないし!」
しかもこいつ蹴り開けたよ!
「依頼は“掃除”だからな!?破壊じゃないんだから丁寧にやれよ!」
「はいはい」
うるさいな、と小声で言ったのも聞こえてるからな!
でも何だか生ぬるい風が不気味でそそそ、とネイビスの側に寄る。っていうかこいつも魔法使えるのか、なんて恐怖を紛らわす為に考えた。
この世界で魔法っていうのはそれなりに浸透してる物だ。だからと言って誰もが使えるわけじゃないんだけど。魔力を持っててもそれを放出出来ない人もいるし、俺みたいに魔力が多すぎてたまに体の中で暴走を起こしてしまう人もいる。どこかの国の半魔の王子がその魔力暴走で困ってるって話も聞いた事があるし、魔力が多くても良い事ばかりじゃない。俺の場合はしばらく熱が出て寝込んじゃうくらいなんだけど。大人になってからは頻度も減ったし。
ぎぎぎぎぎ、と重たい音を立てながら開いたドアを凝視して杖の先についた魔石に火魔法をかけてランプ代わりにする。
中も外と大差ない酷い状態だ。そこら中に蜘蛛の巣は張ってるし、長年降り積もった埃で真っ白。一応今まで来た人が何とかしようとしたらしい感じで椅子が一か所にまとめてあったりするけどそこも満遍なく埃と蜘蛛の巣まみれだ。
「これは……1日で終わらなくないかなぁ……」
1階だけでも結構な汚れ具合、そしてこの広さ。
元々は貴族の別邸だったらしいんだけど、その家の娘に恋した男がこの家に押しかけて来て勢い余って娘を殺してしまっただとか、逆に身分違いの恋に悩んだ2人がここで共に自害しただとか、いやいや強盗が入って家族全員皆殺しだったとか、出掛けにわざわざいらん情報を教えてくれた他の冒険者達を恨みつつとりあえず三角巾とエプロンを引っ張り出して口も布で覆う。
「何してんだお前?」
それから箒を片手に2階への階段を探そうとする俺をネイビスは訝し気に見て来た。
何って掃除だろ。掃除しに来たんだから。ちょっと動いた所為で舞ってしまった埃が収まるのを待っている間にネイビスが
「浄化」
の一言と共にパチン、って指を鳴らした瞬間。
……キラキラと輝く光と共にあっという間に積もりに積もった埃が消える。後に残るは無造作に積み上げられた古臭い椅子や家具だけ。
え、嘘でしょ。俺掃除する気満々で来たんですけど。浄化使えるなら初めから出来るって言ってくれたら良くない?あれ?でも修道士とか浄化かけたって言ってなかったけ?
ん?って首を傾げた瞬間開け放っていた筈のドアがバァン!と大きな音と共に閉まる。
「ぎゃあ!?」
流石のネイビスも驚いたのか背後を振り返ってドアノブを握るけど。
「開かねぇ」
しかもたった今浄化で綺麗になった筈の部屋は、あっという間に元の埃塗れの薄暗い部屋に逆戻りしてしまった。
「やだーー!!何でぇーー!!?」
ネイビスと少し離れてた距離を一気に詰めてその腰にしがみつく。おい、腹立つな。めちゃくちゃ腹筋硬いじゃないか!俺の鍛えても鍛えてもやわやわなままの腹筋が可哀想だろ!
いやそんな事よりも!
「もう一度!もう一度浄化かけて!」
もしかしたら今のは浄化具合が足りなかったのかも知れないし!
「浄化」
今度も一瞬綺麗になったのに、結果は同じ。そしてドアも開かない。とち狂った俺が杖で窓を割ろうとしたけど勿論強化魔法でもかかってんの?ってくらい硬くて割れないし、お前もやれぇぇぇ!と揺さぶったネイビスの一撃でも割れなかった。
つまりこれは――
「閉じ込められたな」
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