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おえ
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国境越えの手続きは3日程かかるらしいし、今わかっている魔獣対策を急ぐ方が良いだろうと準備に取り掛かったのだけれど。
「どうしてまた女装が必要なんですか!」
「あら、敬語はダメよベリル」
ニコニコと楽しそうな公女様に転移魔法で連れて来られたのはクレル公爵家の屋敷だった。
呆然としている間にワラワラ集まって来たメイド達によって着ていた物を脱がされて、新たに着せられて、何が何だかわからない内に鏡の前にはまたいつぞやのご令嬢の姿があって。
今日のドレスは前回の妖艶さとは真逆の爽やかな淡い薄緑色。胸元は白のレースで飾られて、同じく二の腕まで隠せる白い手袋でヒールも白だ。前回はきっちり結い上げられた髪は耳の辺りの髪を編み込んで上半分だけ結って、下半分はそのまま背中に流してある。団子にしてある部分に淡い黄色の生花をさして、メイド達はさらにキャッキャと楽しそうに化粧を施してきた。
次に鏡を見た時にはツリ目がちな目尻は柔らかいラインでやや垂れ目がちに、控え目な緑のアイシャドウと桃色の口紅。どう見たって清楚なご令嬢が出来上がっていた。
「公女様!」
公女様の姿なら敬語なのは当然だろう。ガイストはお嬢と呼ばれる変わり者の商家の娘、という設定。でもマルガレートはれっきとしたクレル公爵家のご令嬢だ。本来ならば僕如きが会話出来る相手じゃない。
ない、けど!これだけは絶対納得できない!
「魔塔に入るには見学、という手を取るのが一番早いのよ。ガイストのような怪しげな冒険者が中に入れて、と頼んだところで良くて門前払い最悪逮捕されてしまうわ」
「それはそうでしょうけど、僕が女装する必要はないですよね!?」
「あるわ!」
予想以上に強い答えが帰って来てびっくりして追及の言葉を止めてしまう。
「私一人だと観光と言っても怪しまれるでしょう。学園で見学した事もあるもの。けれど、クレル公爵領の端から出てきた男爵家の娘に魔塔を一度見せてあげたい、と言えばそこまで怪しまれずに中に入る事が可能よ」
確かに魔塔の一部は物好きな貴族の観光地にもなっている。機密事項のある塔への出入りは勿論出来ないし、観光できるのもさして重要ではない魔塔の食堂とか元研究室とかその程度だ。元研究室では彼ら向けにもう一般でも出回っている魔法を派手に演出した物を見せてもらえる事もある。
尤も前の人生での僕は精霊師として魔塔には度々出入りしていたし、今更珍しい物なんてないけれど。
「……別に男爵家の息子でも良くないですか」
胡乱な眼差しを向けるけれど、公女様は素知らぬフリだ。
「それにアクア達は?どうやって連れて行くんですか」
「彼らは護衛騎士としてついてきて頂くわ」
その言葉が終わるかどうかの所で姿を現したのはクレル公爵家が所有する騎士団服を着たアクアとイグニスの姿だった。オーニュクスだけはいつもの従者服だけど、トイフェルの時と違ってきっちり前髪を固め堅苦しい眼鏡をかけている。微妙に軽薄そうな雰囲気のあったトイフェルとオーニュクスと並べても別人のようにしか見えないだろう。
(あの眼鏡も魔道具じゃないの)
微妙に疑いつつ、騎士服を着たアクア達に目を向けた。
しっかり首元まで覆うデザインの濃い青のサーコート、金の留め具。足元は真っ白なズボンと膝下まである黒のブーツ。腰に下げた剣も普段の使い慣れたものではない、少し華美な印象を受ける剣だ。騎士らしく後ろに撫で付ける様にセットされた髪が落ち着かないのかイグニスがたまに前髪を弄っている。二人共似合い過ぎていてちょっと腹が立つ。
「公女様、僕もあっちの服じゃダメなんですか」
「さっきも言ったでしょう?私一人が魔塔に行ったら怪しまれるわ」
「……女装じゃなくても良かったのでは」
「男爵家にご令嬢はいてもご令息はいないの」
「嘘ですよね知ってますよ伊達に皇妃をしてたわけじゃないですから国内の貴族の事なら大抵覚えています」
一息で文句を言うけれど公女様は素知らぬフリだ。
「まあまあ。今回も良く似合ってるじゃないか」
「似合ってたまるか!」
よしよし、と頭を撫でてくるアクアの手を今度は淡いクリーム色の扇で叩き落とす。
「ここは皇都だぞ?何の拍子にエゼルバルド伯爵や皇太子に会うかわからないんだから素のままで、ってわけにはいかないだろ」
「も、尤もらしい事言って……!なら前回テオドールに会ってるアクアだって女装すべきじゃないの!?」
「俺の女装見たいのか?やっても良いけど、より目立つと思うぞ」
言われて改めてアクアを見て、このスラリとした細身だけど実用的な筋肉がついた体に着せるドレスがあるだろうかと考える。いや、中には女性ながら騎士として働く人もいるからドレス自体はあるだろう。でもそれと目の前のアクアとが結びつかない。
「……おえ」
「失礼なやつだな!俺だって着飾ればそれなりに見えるぞ!多分」
「いや、無理でしょ。女性騎士もしっかり訓練して筋肉ついてるだろうけど、それでも女性の華やかさがあるからドレスも似合うんだよ。アクアにそんな華なんてある?」
「あるだろ?」
「ないでしょ」
「相変わらず仲良しね」
慈愛の微笑みを浮かべた公女様に言われて仲良くないです、といつものように返したけれど全然信じてくれない。公女様とはその内アクアとの事についてきっちり話をする必要があると思う。
「どうしてまた女装が必要なんですか!」
「あら、敬語はダメよベリル」
ニコニコと楽しそうな公女様に転移魔法で連れて来られたのはクレル公爵家の屋敷だった。
呆然としている間にワラワラ集まって来たメイド達によって着ていた物を脱がされて、新たに着せられて、何が何だかわからない内に鏡の前にはまたいつぞやのご令嬢の姿があって。
今日のドレスは前回の妖艶さとは真逆の爽やかな淡い薄緑色。胸元は白のレースで飾られて、同じく二の腕まで隠せる白い手袋でヒールも白だ。前回はきっちり結い上げられた髪は耳の辺りの髪を編み込んで上半分だけ結って、下半分はそのまま背中に流してある。団子にしてある部分に淡い黄色の生花をさして、メイド達はさらにキャッキャと楽しそうに化粧を施してきた。
次に鏡を見た時にはツリ目がちな目尻は柔らかいラインでやや垂れ目がちに、控え目な緑のアイシャドウと桃色の口紅。どう見たって清楚なご令嬢が出来上がっていた。
「公女様!」
公女様の姿なら敬語なのは当然だろう。ガイストはお嬢と呼ばれる変わり者の商家の娘、という設定。でもマルガレートはれっきとしたクレル公爵家のご令嬢だ。本来ならば僕如きが会話出来る相手じゃない。
ない、けど!これだけは絶対納得できない!
「魔塔に入るには見学、という手を取るのが一番早いのよ。ガイストのような怪しげな冒険者が中に入れて、と頼んだところで良くて門前払い最悪逮捕されてしまうわ」
「それはそうでしょうけど、僕が女装する必要はないですよね!?」
「あるわ!」
予想以上に強い答えが帰って来てびっくりして追及の言葉を止めてしまう。
「私一人だと観光と言っても怪しまれるでしょう。学園で見学した事もあるもの。けれど、クレル公爵領の端から出てきた男爵家の娘に魔塔を一度見せてあげたい、と言えばそこまで怪しまれずに中に入る事が可能よ」
確かに魔塔の一部は物好きな貴族の観光地にもなっている。機密事項のある塔への出入りは勿論出来ないし、観光できるのもさして重要ではない魔塔の食堂とか元研究室とかその程度だ。元研究室では彼ら向けにもう一般でも出回っている魔法を派手に演出した物を見せてもらえる事もある。
尤も前の人生での僕は精霊師として魔塔には度々出入りしていたし、今更珍しい物なんてないけれど。
「……別に男爵家の息子でも良くないですか」
胡乱な眼差しを向けるけれど、公女様は素知らぬフリだ。
「それにアクア達は?どうやって連れて行くんですか」
「彼らは護衛騎士としてついてきて頂くわ」
その言葉が終わるかどうかの所で姿を現したのはクレル公爵家が所有する騎士団服を着たアクアとイグニスの姿だった。オーニュクスだけはいつもの従者服だけど、トイフェルの時と違ってきっちり前髪を固め堅苦しい眼鏡をかけている。微妙に軽薄そうな雰囲気のあったトイフェルとオーニュクスと並べても別人のようにしか見えないだろう。
(あの眼鏡も魔道具じゃないの)
微妙に疑いつつ、騎士服を着たアクア達に目を向けた。
しっかり首元まで覆うデザインの濃い青のサーコート、金の留め具。足元は真っ白なズボンと膝下まである黒のブーツ。腰に下げた剣も普段の使い慣れたものではない、少し華美な印象を受ける剣だ。騎士らしく後ろに撫で付ける様にセットされた髪が落ち着かないのかイグニスがたまに前髪を弄っている。二人共似合い過ぎていてちょっと腹が立つ。
「公女様、僕もあっちの服じゃダメなんですか」
「さっきも言ったでしょう?私一人が魔塔に行ったら怪しまれるわ」
「……女装じゃなくても良かったのでは」
「男爵家にご令嬢はいてもご令息はいないの」
「嘘ですよね知ってますよ伊達に皇妃をしてたわけじゃないですから国内の貴族の事なら大抵覚えています」
一息で文句を言うけれど公女様は素知らぬフリだ。
「まあまあ。今回も良く似合ってるじゃないか」
「似合ってたまるか!」
よしよし、と頭を撫でてくるアクアの手を今度は淡いクリーム色の扇で叩き落とす。
「ここは皇都だぞ?何の拍子にエゼルバルド伯爵や皇太子に会うかわからないんだから素のままで、ってわけにはいかないだろ」
「も、尤もらしい事言って……!なら前回テオドールに会ってるアクアだって女装すべきじゃないの!?」
「俺の女装見たいのか?やっても良いけど、より目立つと思うぞ」
言われて改めてアクアを見て、このスラリとした細身だけど実用的な筋肉がついた体に着せるドレスがあるだろうかと考える。いや、中には女性ながら騎士として働く人もいるからドレス自体はあるだろう。でもそれと目の前のアクアとが結びつかない。
「……おえ」
「失礼なやつだな!俺だって着飾ればそれなりに見えるぞ!多分」
「いや、無理でしょ。女性騎士もしっかり訓練して筋肉ついてるだろうけど、それでも女性の華やかさがあるからドレスも似合うんだよ。アクアにそんな華なんてある?」
「あるだろ?」
「ないでしょ」
「相変わらず仲良しね」
慈愛の微笑みを浮かべた公女様に言われて仲良くないです、といつものように返したけれど全然信じてくれない。公女様とはその内アクアとの事についてきっちり話をする必要があると思う。
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