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2度目の人生の始まり 2

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 火の魔力持ちなら赤、土なら黄色、水なら青、風なら緑、って髪や瞳の色で大体の属性はわかるけれど、力の強さは見た目だけじゃわからないから6歳になると全ての子供が教会で能力測定を行う。そこで高い数値を出した平民の子供は名のある貴族の養子になれる可能性が高くなるし、元々貴族の生まれだった子供達はより高い教養を得、将来国の中枢を担う事を求められる。
 僕は一度目の人生で最高値の霊力を出してしまった。全ての悲劇はそこから始まったんだ。だから今回は微弱な土の魔力しかないカミラの血をこっそり持ち込んだ。
 
 赤子がみな白髪赤目の“色ナシ”で生れ落ちるこの世界において、3歳を超えても色を持たない者を“色持たず”と呼ぶ。色持たずの多くは全くの無能力か、もしくは全属性魔力を持つ為特定の色を持たない事が一般的だ。ただし全属性を持っていても力が強いとは限らず、能力の高さが評価されるこの国にとって色持たずは差別の対象となる事が多い。
 だけど色持たずの中には稀に魔力ではなく精霊を扱える力、霊力を有する者がいる。白を好む精霊の祝福を受けた精霊の愛し子もまた色持たずと同じ特徴を持って生まれるのは、研究者達の間でも長年議論されているが未だに答えは出ていない。

 そういうわけで、色持たずの“アレキサンドリート”は微弱な土の魔力はあったものの、魔法や精霊術として力を発動させる事が出来なくても多少の力が備わっているならば茶髪茶眼になるこの世界においてそれが髪もしくは瞳に反映されていない事から無事能力ナシの判定をもらい、その結果に激怒した父エゼルバルド伯爵から勘当されたのである。
 一度目の人生では歓喜したその日に激怒している父を見て内心嘲笑った。

 ――上位貴族の仲間入りする駒がなくなって残念でしたね。

 「お前のような色持たずが我が家門に生まれるなど許しがたい!出て行くがいい!」

 そう怒鳴り散らす父に、追い出すのであれば戸籍から僕の名を抜くよう執事が耳打ちした。この家の人間は魔力もそう高くなく、霊力の流れを読むことも出来ない。執事の肩にとまる闇の下級精霊フィンがにんまりと笑う。

(後々精霊師だってバレて戸籍を理由に連れ戻されたら困るからな)

 元々この家に長居するつもりはない。
 一度目の人生で“アレキサンドリート”を足掛かりに上位貴族の仲間入りを果たした伯爵の次の目的は、国母の父。精霊の愛し子が子を産むことがある、という文献を元に皇族へ取り入り皇太子の婚約者にされたのは確か9歳の頃。
 初めて連れて行かれた皇城で迷子になり泣いていた僕を見つけてくれたのはテオドールだった。
 綺麗で、優しくて、僕は愚かにも一目で恋に落ちた。それが父の狙い通りだとも知らずに自ら悲劇へと足を踏み入れたんだ。
 
 だけど今回そんな事は起こらない。テオドールには二度と会わないし、この家に戻る事も二度とない。
 フィンに操られた執事が言うがまま役所の人間を呼びつけ、親子の縁を切る手続きを完了させたのち父は僕を、母は子供の僕を一人に出来ないともっともらしい理由をつけてカミラを家から叩き出したのである。

(一人に出来ないなら、家から追い出す事を反対したらいいのに)
 
 わかっている。母は僕を愛していないから。
 そしてカミラの事も邪魔だと思っているから。

 カミラはおっとりしているが気立てが良い。小柄で、素朴な優しい雰囲気がその垂れがちな目元からも溢れている。
 男爵家の9人兄弟の四女で、嫁いだ旦那を馬車の事故で亡くし心の支えだった我が子すらも死産だったという。夫を亡くし、子を亡くし、失意のどん底だったカミラを雇ったのは父だ。
 僕の乳母として雇い、乳母を必要としなくなった後は使用人として雇うと言って連れてきた。
 しかしその実愛人として囲ってしまおうという魂胆が今となっては透けて見える。けれどもプライドが高く、傲慢な母がほぼ平民に近いカミラを煙たがり結果僕の前の人生では10歳の頃家を追い出されたのだ。
 それが少し早まっただけ。こんな家に使用人として残っていては母にいびり抜かれる事は必至。ここでもフィンを使いカミラには相応の退職金と次の雇用先の紹介状を渡すようにした。

 そして色持たずとして放り出された僕は自由を手に入れたのである。

 ◇◇

 カミラの息子、ベリルとして辺境の小さな村に住み着いて11年。カミラは5年前この地を治める小領主に見初められ嫁いでいった。僕も一緒に、と言ってくれたがもう二度と貴族と関わりたくない僕はそれを断って一人小さな家に籠っている。
 カミラと共に僕を引き取ってくれるつもりだった小領主である子爵は最後まで粘ってくれたけど、貴族籍を持ったら社交界に出なくてはならない。子爵は僕が訳ありなのをわかっていて養子に迎えようとしてくれたのは知ってる。だから優しい子爵と優しいカミラを巻き込まない為に断固として断った。
 カミラを襲った流行り病は一度目の人生で水質汚染が原因だったと聞いていたから、今世では小領主にかけあって汚水処理を徹底してもらったおかげでこの地では広まらなかった。
 
 村にやってくる魔獣退治で日銭も稼げるし、幸い僕の霊力は固めれば見目のいい宝石になり、大きな町にいけば良い額で売れる。昼間は外を出歩けないけれど、夜はこうして魚を釣ったり畑を耕し多少の野菜を作って食材を確保する事も出来る。
 夢にまで見た自由を満喫するには良い環境なのである。

 村の小さな食堂で作法も関係なく食事をして、祭りの夜には屋台で食べ物を買い、歩きながら食べた。
 読みたかった本を買い込んで外に出られない昼の時間を使って存分に読書をした。
 太陽の光が当たると火傷になってしまうこの体の所為でまだ旅には出られていないけれど、それもいつかは叶えるつもりだ。

「……ん?」

 今日は釣れそうにないな、と糸を上げた時、ふと背後の森で何かが動く気配がした。
 一瞬リーを呼んで探索してもらおうかとも思ったけれど、少し悩んでやめる。誰かに精霊師であると気付かれないように、極力精霊術は使わないようにしている。何の拍子に気付かれて表舞台に引きずり出されるかわからないからだ。――精霊達は所かまわず話しかけてくるけれど。
 しばらく待ってみたがそれ以上の動きはなく、目的の相手ではなさそうだともう一度釣り糸をたらそうとして、手を止めた。

 もし盗賊だったら?
 僕が住む村に盗むような物なんてないが、人攫いの可能性もある。
 村の男達は農業を営むだけあって屈強だ。少ない人数相手なら恐らく返り討ちに出来る。

(でも夜襲を仕掛けられたら被害は出るだろうし……)

 色持たずの僕を何の偏見もなく受け入れてくれた村の住人が怪我をするのは嫌だ。
 釣り竿を手に持って、被っていたフードを目深に被り直し森の奥へと足を向けて、森にほんの少し入った所で音の正体を見つけた。

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