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番外編4
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「アイリス、ほら」
一台の馬車の前で立ち竦むアイリスの背中をウォルターが優しく押す。
「……ん」
アイリスは意を決したように頷いて、馬車に乗り込んだ。
王城の敷地内にある大きくて厳かな教会で、明日、セラフィナとアンドリューの婚姻の儀が執り行われる。
「そんな顔しないでアイリス。待ってるってヴィクトリアも言っていただろ?」
張り詰めた表情で馬車に揺られるアイリスの頬を、隣に座ったウォルターが手の甲で撫でる。
「お姉様とジェイドとお父様に会えるのは楽しみだけど…」
「セラの結婚式のための帰国のついでの里帰りなんだから、そんなに緊張しないで。アイリスが無理だと思ったらすぐにお暇すれば良いし」
「うん…」
「それにしてもセラは明日結婚式だと言うのに普段通りで全く緊張してなかったなぁ。アンドリューの方が緊張してたくらいだ」
ウォルターがそう言うと、アイリスは先ほどまで一緒にいた、いつも通りのセラフィナと、セラフィナの両親と兄夫婦たち…つまり国王と王妃、側妃と、王太子となったベンジャミン、王太子妃コルネリア、双子の王子と王女、更に東国で公爵位を賜った第二王子ステファン、その妻で東国の王女ルイーザに囲まれてガチガチに緊張していたアンドリューを思い出し、ふっと笑った。
そういえば、銀の連山での誘拐事件の時、ジェイドが王族ばかりの空間で緊張してたっけ。今日のアンドリュー様はあの時のジェイドより緊張しただろうなあ。
「セラはどうしてアンドリューと結婚する気になったのか、僕が聞いても笑って誤魔化してばかりだったけど、アイリスには話したんだろう?」
笑顔を浮かべたアイリスに安心したウォルターは、これから行くガードナー家から話を逸らすようにアイリスに問う。
「私も『何となく』とか『アイリスとお兄様が薦めてくれるなら間違いないだろうから』とかとしか聞いてなかったんですけど…」
東国へ留学してから六年ぶりの帰国になるアイリスは、ウォルターの婚約者として王宮に滞在している。そして昨夜はセラフィナとアンドリューを引き合わせた日のように、アイリスはセラフィナの部屋に泊まりに行き、夜中まで二人で語り合ったのだ。
「正直に言うとね、私、アンディの事を『救ってあげる』つもりで結婚するって決めたの」
ベッドに仰向けに寝て、口元まで毛布を引き上げたセラフィナが言った。
「救って?」
セラフィナの隣でうつ伏せで頬杖をついたアイリスが首を傾げる。
「そう。大学でもアンディに近付こうとした女性…男性もいたらしいわ。でも法学部まで追い掛けられる人はいなかったし、眼鏡と髪で顔を隠していたから大学生活は平和だったらしいけど、卒業して弁護士になったらある意味誰でも近付けちゃうじゃない。依頼人や関係者として」
「うん」
「それでこの国に来る事にしたけど、学園時代に常軌を逸した事をしたような人なら、国を超えてでも追いかけて来そうでしょ?昔、公爵令嬢とお付き合いをした時にはその彼女が虐められたりしたらしいし、こっちで誰かとお付き合いしたり結婚したりしようとしてもその相手が陥れられたりしそうだし…」
「あり得るわね」
頷くアイリス。
「実際、アンディがこの国に来て、私と婚約したと発表したら、脅迫文書が来たり、実際王城へ押し掛けて『婚約破棄しろ』って騒いだりした人がいたしね」
「ええ!?」
セラフィナは驚くアイリスににっこりと笑って言った。
「もちろん身元は洗い出してキッチリ落とし前をつけていただいたわよ?」
「当然よ」
アイリスは少し憤慨して言う。
「アンディの職場が王城の中で、私が王女だから、私にもアンディにも被害なく事を治められるの。私、こんな風にアンディの盾になってあげようと思ってたの」
「ああ…だから『救ってあげる』?」
「うん。でもね、そう話したらアンディが不機嫌になっちゃって」
「どうして?」
「セラフィナ様、私は確かに渡りに船だと言いましたが、救って欲しくて貴女と結婚しようとしているのではありませんよ」
そう、アンドリューはセラフィナに言ったとセラフィナは話した。
アンドリューは、ウォルターやアイリスの容姿や身分で態度を変える事のない人柄に好感を持ったと、そしてそのウォルターの妹で、アイリスの友人であるセラフィナにも同じ気質を感じたのだと言う。
「それに…初めてお会いした時、私の話に表情豊かに反応してくださって…その表情が…かわいいなぁと思ったんです」
羞恥心を隠すように眉を寄せてアンドリューは言った。
「アイリス、ほら」
一台の馬車の前で立ち竦むアイリスの背中をウォルターが優しく押す。
「……ん」
アイリスは意を決したように頷いて、馬車に乗り込んだ。
王城の敷地内にある大きくて厳かな教会で、明日、セラフィナとアンドリューの婚姻の儀が執り行われる。
「そんな顔しないでアイリス。待ってるってヴィクトリアも言っていただろ?」
張り詰めた表情で馬車に揺られるアイリスの頬を、隣に座ったウォルターが手の甲で撫でる。
「お姉様とジェイドとお父様に会えるのは楽しみだけど…」
「セラの結婚式のための帰国のついでの里帰りなんだから、そんなに緊張しないで。アイリスが無理だと思ったらすぐにお暇すれば良いし」
「うん…」
「それにしてもセラは明日結婚式だと言うのに普段通りで全く緊張してなかったなぁ。アンドリューの方が緊張してたくらいだ」
ウォルターがそう言うと、アイリスは先ほどまで一緒にいた、いつも通りのセラフィナと、セラフィナの両親と兄夫婦たち…つまり国王と王妃、側妃と、王太子となったベンジャミン、王太子妃コルネリア、双子の王子と王女、更に東国で公爵位を賜った第二王子ステファン、その妻で東国の王女ルイーザに囲まれてガチガチに緊張していたアンドリューを思い出し、ふっと笑った。
そういえば、銀の連山での誘拐事件の時、ジェイドが王族ばかりの空間で緊張してたっけ。今日のアンドリュー様はあの時のジェイドより緊張しただろうなあ。
「セラはどうしてアンドリューと結婚する気になったのか、僕が聞いても笑って誤魔化してばかりだったけど、アイリスには話したんだろう?」
笑顔を浮かべたアイリスに安心したウォルターは、これから行くガードナー家から話を逸らすようにアイリスに問う。
「私も『何となく』とか『アイリスとお兄様が薦めてくれるなら間違いないだろうから』とかとしか聞いてなかったんですけど…」
東国へ留学してから六年ぶりの帰国になるアイリスは、ウォルターの婚約者として王宮に滞在している。そして昨夜はセラフィナとアンドリューを引き合わせた日のように、アイリスはセラフィナの部屋に泊まりに行き、夜中まで二人で語り合ったのだ。
「正直に言うとね、私、アンディの事を『救ってあげる』つもりで結婚するって決めたの」
ベッドに仰向けに寝て、口元まで毛布を引き上げたセラフィナが言った。
「救って?」
セラフィナの隣でうつ伏せで頬杖をついたアイリスが首を傾げる。
「そう。大学でもアンディに近付こうとした女性…男性もいたらしいわ。でも法学部まで追い掛けられる人はいなかったし、眼鏡と髪で顔を隠していたから大学生活は平和だったらしいけど、卒業して弁護士になったらある意味誰でも近付けちゃうじゃない。依頼人や関係者として」
「うん」
「それでこの国に来る事にしたけど、学園時代に常軌を逸した事をしたような人なら、国を超えてでも追いかけて来そうでしょ?昔、公爵令嬢とお付き合いをした時にはその彼女が虐められたりしたらしいし、こっちで誰かとお付き合いしたり結婚したりしようとしてもその相手が陥れられたりしそうだし…」
「あり得るわね」
頷くアイリス。
「実際、アンディがこの国に来て、私と婚約したと発表したら、脅迫文書が来たり、実際王城へ押し掛けて『婚約破棄しろ』って騒いだりした人がいたしね」
「ええ!?」
セラフィナは驚くアイリスににっこりと笑って言った。
「もちろん身元は洗い出してキッチリ落とし前をつけていただいたわよ?」
「当然よ」
アイリスは少し憤慨して言う。
「アンディの職場が王城の中で、私が王女だから、私にもアンディにも被害なく事を治められるの。私、こんな風にアンディの盾になってあげようと思ってたの」
「ああ…だから『救ってあげる』?」
「うん。でもね、そう話したらアンディが不機嫌になっちゃって」
「どうして?」
「セラフィナ様、私は確かに渡りに船だと言いましたが、救って欲しくて貴女と結婚しようとしているのではありませんよ」
そう、アンドリューはセラフィナに言ったとセラフィナは話した。
アンドリューは、ウォルターやアイリスの容姿や身分で態度を変える事のない人柄に好感を持ったと、そしてそのウォルターの妹で、アイリスの友人であるセラフィナにも同じ気質を感じたのだと言う。
「それに…初めてお会いした時、私の話に表情豊かに反応してくださって…その表情が…かわいいなぁと思ったんです」
羞恥心を隠すように眉を寄せてアンドリューは言った。
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