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ベッドのある部屋を出るとテーブルと椅子が置いてある居間兼食堂のような部屋だった。
正方形のテーブルを囲んで四脚の椅子があり、ステファンは椅子を引いてアイリスを座らせると、自分はアイリスの向かい側に座る。
「ちょっと待っててね」
ルイーザがベッドのある部屋とは反対側にある扉の方へと行く。その扉の向こうは台所のようだ。
「あの、お手伝いします」
アイリスが立ちあがろうとすると、ステファンが
「一応アイリスは客人なんだから座っておけ」
と言った。
「そうよ。ここは私の家で、ファンもアイリスちゃんもお客様なんだから、堂々と座ってて」
ルイーザが楽しそうにそう言って台所へ消えると、ステファンは小さく息を吐く。
「客、ね」
私の家って事は、駆け落ちをしたお相手の方とここに住んでるのかしら?
「ここは銀山の東国へ抜ける山道の、道が狭まって馬車が通れなくなる手前にある集落よ」
紅茶のカップをアイリスの前に置きながらルイーザが言った。
「あ…」
ウォルター殿下に「険しい山道に入る前に平地があり、そこに小さな集落がある」って説明していただいた、ここがその集落なんだ…
「私はデリスとずっとここに住んでいるの。もう六年…七年かしら?ああ、デリスと言うのは私が駆け落ちした相手よ」
ステファンの前と、自分の前にもカップを置き、椅子に座ると、ルイーザはそう言いながら、壁側に置いてあるチェストの方へ視線をやる。
チェストの上には小さな姿絵が一つ置いてあり、紺の髪の優しそうな男性がルイーザと寄り添っている絵が描かれていた。
「デリスは東国ではなく、この国の出身なのよ。子爵家の四男で、東国へ医学を学ぶために留学していたの。留学生が王へ成果を報告する機会があって、その後の晩餐会で隣の席になったの」
懐かしそうに話すルイーザ。
ステファンはテーブルに肘をついてルイーザを見ている。
コンコン。
ノックの音がすると、ステファンはすっと席を立つと寝室へと消えた。
「アイリスちゃんはそのまま座ってて」
ルイーザはそう言うと「はーい」と返事をしながら扉の方へ行く。
一応、私、攫われた、のよね?
今更ながら、呑気にお茶とか飲んでで良いんだろうか?
「よう。ルウ。馬を預かってくれよ」
玄関から男性の声が聞こえる。
アイリスの位置からは居間兼食卓から出た短い廊下の奥にある玄関扉の前に立つルイーザの背中だけが見えた。
そうか。ウォルター殿下が、東国へ抜ける険しい山道に入る前に馬車から馬や徒歩に切り替えるって言ってたっけ。そこで乗ってきた馬車や馬を預かったり、東国から山を超えて来た者に馬車や馬を貸したりしているって。
ルイーザ様はここでそういう仕事をしてるって事?
「自宅じゃなくて馬小屋の方に受付があるからそっちへ行ってよ」
「受付の野郎は愛想がなくてつまらん。じゃあルウが受付してくれよ」
「私の仕事じゃないわ」
「まあまあ、そうつれない事を言うなよ。お互い寂しい独り身じゃないか。少しくらい仲良くしてくれたっていいだろう?」
ん?独り身?
いや、それよりこの男の人ルイーザ様に迫ってるんじゃない?
どうしよう。邪魔をしに行く?
「私は寂しくないわ」
「ああ…あの男、ファンだったか?親戚とか言ってたけどやっぱりあの男とデキてるのか?」
ねちっこくて嫌な言い方。やっぱり邪魔しに行った方が良いかも。
「ファンは関係ないわ。とにかく馬なら受付へ行ってよ」
「つれない事言うなって」
「やめてよ!」
手首を掴まれたか、身を捩るルイーザが見えて、アイリスはガタンッと音を立てて椅子から立ち上がる。
と、同時にバタンッと音を立てて寝室の扉が開き、ステファンが飛び出して来た。
あれ?髪が黒い。
「ルウに触るな」
ステファンがルイーザの手を引き自分の身体の後ろへと庇う。
「いたのかよ…」
男性が低い声で苦々しく言う。
「受付なら俺が行く。ほら、馬を預かるんだろう?来い!」
「相変わらず偉そうだな!」
ステファンは男性を押して外に出ると扉を後ろ手で閉じた。
「ふう…」
ルイーザが閉じた扉を見ながら息を吐く。
「あの…ルウさん…」
アイリスがルイーザに近付くと、ルイーザは困ったように笑った。
「女の一人暮らしだとああ言う手合いが多くて困るわね」
「……」
一人暮らし?
でもさっきルイーザ様「デリスとずっとここに住んでる」って…
でもでもあの男も「独り身」って言ってた。
疑問に満ちた表情のアイリス。
それを見たルイーザは苦笑いを浮かべて言った。
「デリスは…駆け落ちして一年半後に亡くなったの」
ベッドのある部屋を出るとテーブルと椅子が置いてある居間兼食堂のような部屋だった。
正方形のテーブルを囲んで四脚の椅子があり、ステファンは椅子を引いてアイリスを座らせると、自分はアイリスの向かい側に座る。
「ちょっと待っててね」
ルイーザがベッドのある部屋とは反対側にある扉の方へと行く。その扉の向こうは台所のようだ。
「あの、お手伝いします」
アイリスが立ちあがろうとすると、ステファンが
「一応アイリスは客人なんだから座っておけ」
と言った。
「そうよ。ここは私の家で、ファンもアイリスちゃんもお客様なんだから、堂々と座ってて」
ルイーザが楽しそうにそう言って台所へ消えると、ステファンは小さく息を吐く。
「客、ね」
私の家って事は、駆け落ちをしたお相手の方とここに住んでるのかしら?
「ここは銀山の東国へ抜ける山道の、道が狭まって馬車が通れなくなる手前にある集落よ」
紅茶のカップをアイリスの前に置きながらルイーザが言った。
「あ…」
ウォルター殿下に「険しい山道に入る前に平地があり、そこに小さな集落がある」って説明していただいた、ここがその集落なんだ…
「私はデリスとずっとここに住んでいるの。もう六年…七年かしら?ああ、デリスと言うのは私が駆け落ちした相手よ」
ステファンの前と、自分の前にもカップを置き、椅子に座ると、ルイーザはそう言いながら、壁側に置いてあるチェストの方へ視線をやる。
チェストの上には小さな姿絵が一つ置いてあり、紺の髪の優しそうな男性がルイーザと寄り添っている絵が描かれていた。
「デリスは東国ではなく、この国の出身なのよ。子爵家の四男で、東国へ医学を学ぶために留学していたの。留学生が王へ成果を報告する機会があって、その後の晩餐会で隣の席になったの」
懐かしそうに話すルイーザ。
ステファンはテーブルに肘をついてルイーザを見ている。
コンコン。
ノックの音がすると、ステファンはすっと席を立つと寝室へと消えた。
「アイリスちゃんはそのまま座ってて」
ルイーザはそう言うと「はーい」と返事をしながら扉の方へ行く。
一応、私、攫われた、のよね?
今更ながら、呑気にお茶とか飲んでで良いんだろうか?
「よう。ルウ。馬を預かってくれよ」
玄関から男性の声が聞こえる。
アイリスの位置からは居間兼食卓から出た短い廊下の奥にある玄関扉の前に立つルイーザの背中だけが見えた。
そうか。ウォルター殿下が、東国へ抜ける険しい山道に入る前に馬車から馬や徒歩に切り替えるって言ってたっけ。そこで乗ってきた馬車や馬を預かったり、東国から山を超えて来た者に馬車や馬を貸したりしているって。
ルイーザ様はここでそういう仕事をしてるって事?
「自宅じゃなくて馬小屋の方に受付があるからそっちへ行ってよ」
「受付の野郎は愛想がなくてつまらん。じゃあルウが受付してくれよ」
「私の仕事じゃないわ」
「まあまあ、そうつれない事を言うなよ。お互い寂しい独り身じゃないか。少しくらい仲良くしてくれたっていいだろう?」
ん?独り身?
いや、それよりこの男の人ルイーザ様に迫ってるんじゃない?
どうしよう。邪魔をしに行く?
「私は寂しくないわ」
「ああ…あの男、ファンだったか?親戚とか言ってたけどやっぱりあの男とデキてるのか?」
ねちっこくて嫌な言い方。やっぱり邪魔しに行った方が良いかも。
「ファンは関係ないわ。とにかく馬なら受付へ行ってよ」
「つれない事言うなって」
「やめてよ!」
手首を掴まれたか、身を捩るルイーザが見えて、アイリスはガタンッと音を立てて椅子から立ち上がる。
と、同時にバタンッと音を立てて寝室の扉が開き、ステファンが飛び出して来た。
あれ?髪が黒い。
「ルウに触るな」
ステファンがルイーザの手を引き自分の身体の後ろへと庇う。
「いたのかよ…」
男性が低い声で苦々しく言う。
「受付なら俺が行く。ほら、馬を預かるんだろう?来い!」
「相変わらず偉そうだな!」
ステファンは男性を押して外に出ると扉を後ろ手で閉じた。
「ふう…」
ルイーザが閉じた扉を見ながら息を吐く。
「あの…ルウさん…」
アイリスがルイーザに近付くと、ルイーザは困ったように笑った。
「女の一人暮らしだとああ言う手合いが多くて困るわね」
「……」
一人暮らし?
でもさっきルイーザ様「デリスとずっとここに住んでる」って…
でもでもあの男も「独り身」って言ってた。
疑問に満ちた表情のアイリス。
それを見たルイーザは苦笑いを浮かべて言った。
「デリスは…駆け落ちして一年半後に亡くなったの」
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