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「…アイリス?」
水色の瞳が忙しなく上下し、ヴィクトリアに被さるようにして身体を揺すっていたアイリスを見た。
「お姉様!」
アイリスはヴィクトリアの身体から手を離すと、ヴィクトリアの手を両手で握る。
「…夢?」
「いいえ!お姉様が今まで見ていたのが夢です。私は生きています!こっちが現実です!」
「げん…じつ…?」
「そうです」
「……」
ウロウロと彷徨うヴィクトリアの瞳が、一点で止まる。
「!」
ヴィクトリアは真っ直ぐにアイリスの後ろに立つジェイドを見ていた。
「ジェイ…ド…?」
「お姉様?」
ヴィクトリアはジェイドを見つめながら片手で口元を覆う。
「…死んだのよ。ジェイドも、アイリスも。わ…私のせいで」
小刻みに震えながらヴィクトリアは言った。
「俺も生きています。ヴィクトリア様」
ジェイドが一歩前に出て、アイリスの横に並んで言うと
「やめて!」
とヴィクトリアが叫ぶ。
「ヴィクトリア様」
「お姉様」
「やめて!やめてやめて!こちらが現実なんて嘘よ!生き残ったのは私だけなの。ジェイドもアイリスも死んでしまったわ!」
そう叫ぶように言うと、ヴィクトリアはゼイゼイと荒い息をした。
「お姉様、急にそんな大きな声を出しては…長い間眠っていたから体力が落ちてるんです」
アイリスはヴィクトリアを落ち着かせようと、両腕に手を添える。
細い。
腕がこんなに細くなってしまって…
「……」
何度も絶望的な「今日」を繰り返して、やっと「明日」が来て…でもお姉様が苦しむなんて、望んでなかった。
少し息が整ったヴィクトリアが、アイリスを見ながら呟いた。
「…どうしてアイリスが泣くの?」
アイリスの頬を涙が伝う。
「だって…お姉様が苦しんでる」
「私が苦しいのは当たり前よ。だって、私のせいでアイリスとジェイドが死んだのだもの」
ヴィクトリアが眉を寄せて言った。
「私は生きてます。ほら、生きてるでしょう?」
ヴィクトリアの手を握ると、アイリスは自分の胸にヴィクトリアの手を当てる。
トクトクと打つ拍動がヴィクトリアの手に伝わった。
「…生きてる?」
「そうです。こっちが現実です」
「ジェイドも…?」
「はい」
ヴィクトリアがジェイドに視線をやると、ジェイドは大きく頷く。
「良かった…」
ヴィクトリアの瞳から大粒の涙が溢れた。
-----
あの忌々しい女、オリビエが死んで、あの女の娘が我が家に入り込んで来た。
ヴィクトリアにそっくりで、でもオリビエと同じ濃い青の瞳の娘。
ヴィクトリアの婚約が決まる時、旦那様は
「ヴィクトリアが嫁げば、アイリスが婿を迎えてこの家の後継となる事になるが、本当にいいのか?」
と仰った。
ヴィクトリアがウォルター殿下に輿入れしたら、このガードナー伯爵家をアイリスが継ぐ事になる。
泥棒猫の娘にこの家を継がせる?それではこの家を、旦那様と私のこの家を、あの女に乗っ取られるようなものじゃない。そのような事、許せる訳がない。
でも、だからと言ってヴィクトリアの婚約は…
「私がもう一人子どもを産みますわ」
そう私が言うと、旦那様は仰った。
「そうなればその子に後を継がせるが、アイリスが十六歳になるまでに子ができなければジェイドを我々夫婦の養子に迎え、アイリスと婚約させる」
「ジェイドと…」
私の年齢や身体の事もある。期限があるのは仕方がない。
でも、ジェイドの父ニコラスは旦那様がオリビエを愛人にし、家を与え、子を産ませた事、私に隠して、旦那様にずっと協力していた裏切り者ではないか。
ああ、嫌だ。
泥棒猫と裏切り者にこの家を好きにされるだなんて。
いいえ、アイリスが十六になるまでにはあと七年あるわ。きっと大丈夫。
オリビエにこの家を乗っ取らせたり、しないわ。
-----
「お姉様は何故…私やジェイドが死んだのは自分のせいだと思われてたのですか…?」
恐る恐るアイリスが言うと、ヴィクトリアは目を閉じて眉を寄せて言った。
「知っていたの…私。お母様が、アイリスを…殺そうとしていた事」
「…アイリス?」
水色の瞳が忙しなく上下し、ヴィクトリアに被さるようにして身体を揺すっていたアイリスを見た。
「お姉様!」
アイリスはヴィクトリアの身体から手を離すと、ヴィクトリアの手を両手で握る。
「…夢?」
「いいえ!お姉様が今まで見ていたのが夢です。私は生きています!こっちが現実です!」
「げん…じつ…?」
「そうです」
「……」
ウロウロと彷徨うヴィクトリアの瞳が、一点で止まる。
「!」
ヴィクトリアは真っ直ぐにアイリスの後ろに立つジェイドを見ていた。
「ジェイ…ド…?」
「お姉様?」
ヴィクトリアはジェイドを見つめながら片手で口元を覆う。
「…死んだのよ。ジェイドも、アイリスも。わ…私のせいで」
小刻みに震えながらヴィクトリアは言った。
「俺も生きています。ヴィクトリア様」
ジェイドが一歩前に出て、アイリスの横に並んで言うと
「やめて!」
とヴィクトリアが叫ぶ。
「ヴィクトリア様」
「お姉様」
「やめて!やめてやめて!こちらが現実なんて嘘よ!生き残ったのは私だけなの。ジェイドもアイリスも死んでしまったわ!」
そう叫ぶように言うと、ヴィクトリアはゼイゼイと荒い息をした。
「お姉様、急にそんな大きな声を出しては…長い間眠っていたから体力が落ちてるんです」
アイリスはヴィクトリアを落ち着かせようと、両腕に手を添える。
細い。
腕がこんなに細くなってしまって…
「……」
何度も絶望的な「今日」を繰り返して、やっと「明日」が来て…でもお姉様が苦しむなんて、望んでなかった。
少し息が整ったヴィクトリアが、アイリスを見ながら呟いた。
「…どうしてアイリスが泣くの?」
アイリスの頬を涙が伝う。
「だって…お姉様が苦しんでる」
「私が苦しいのは当たり前よ。だって、私のせいでアイリスとジェイドが死んだのだもの」
ヴィクトリアが眉を寄せて言った。
「私は生きてます。ほら、生きてるでしょう?」
ヴィクトリアの手を握ると、アイリスは自分の胸にヴィクトリアの手を当てる。
トクトクと打つ拍動がヴィクトリアの手に伝わった。
「…生きてる?」
「そうです。こっちが現実です」
「ジェイドも…?」
「はい」
ヴィクトリアがジェイドに視線をやると、ジェイドは大きく頷く。
「良かった…」
ヴィクトリアの瞳から大粒の涙が溢れた。
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あの忌々しい女、オリビエが死んで、あの女の娘が我が家に入り込んで来た。
ヴィクトリアにそっくりで、でもオリビエと同じ濃い青の瞳の娘。
ヴィクトリアの婚約が決まる時、旦那様は
「ヴィクトリアが嫁げば、アイリスが婿を迎えてこの家の後継となる事になるが、本当にいいのか?」
と仰った。
ヴィクトリアがウォルター殿下に輿入れしたら、このガードナー伯爵家をアイリスが継ぐ事になる。
泥棒猫の娘にこの家を継がせる?それではこの家を、旦那様と私のこの家を、あの女に乗っ取られるようなものじゃない。そのような事、許せる訳がない。
でも、だからと言ってヴィクトリアの婚約は…
「私がもう一人子どもを産みますわ」
そう私が言うと、旦那様は仰った。
「そうなればその子に後を継がせるが、アイリスが十六歳になるまでに子ができなければジェイドを我々夫婦の養子に迎え、アイリスと婚約させる」
「ジェイドと…」
私の年齢や身体の事もある。期限があるのは仕方がない。
でも、ジェイドの父ニコラスは旦那様がオリビエを愛人にし、家を与え、子を産ませた事、私に隠して、旦那様にずっと協力していた裏切り者ではないか。
ああ、嫌だ。
泥棒猫と裏切り者にこの家を好きにされるだなんて。
いいえ、アイリスが十六になるまでにはあと七年あるわ。きっと大丈夫。
オリビエにこの家を乗っ取らせたり、しないわ。
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「お姉様は何故…私やジェイドが死んだのは自分のせいだと思われてたのですか…?」
恐る恐るアイリスが言うと、ヴィクトリアは目を閉じて眉を寄せて言った。
「知っていたの…私。お母様が、アイリスを…殺そうとしていた事」
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