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舞踏会や卒業パーティーでは、ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
舞踏会や卒業パーティーは学生らしく昼間の開催なので、寮は当日は朝から支度で大騒ぎだ。
女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、歩いて向かう事になる。
「アイリス?」
俯いているアイリスにセラフィナが話し掛け、アイリスはハッとして顔を上げた。
目の前の鏡に映るアイリスの髪は暗金色で、複雑な形に編み込まれている。
「お姉様…」
「ね。髪色が一緒だと本当にヴィクトリア様みたいだわ」
アイリスの横でセラフィナが感心したように言った。
「ヴィクトリア様、ガーゼをお貼りします」
ガードナー家からアイリスの支度のために寮へ来た侍女のケイシーは無表情で言う。
「…ん」
ここは寮のヴィクトリアの部屋だ。
怪我がまだ癒えないため学園に復帰はしていないが、夏期休暇中にある東国の王太子を迎える行事へは出席しなければならないヴィクトリアは、リハビリのため学園の舞踏会へ出ると言う設定になっているため、ケイシーはこの部屋に来てからずっとアイリスの事を「ヴィクトリア様」と呼んでいるのだ。
「ああ、そうね。私もヴィクトリア様って呼ばなきゃ」
「……」
セラフィナがそう言うと、アイリスは頷いた。
そうよね。私、今からお姉様になるんだもん。ケイシーだけじゃなく、セラやウォルター殿下にも「ヴィクトリア」って呼ばれるんだわ。
…何だろう、何となく胸が苦しい?
と、言うかザワザワして落ち着かない感じ。
でもお姉様とは言え、別人の振りをするんだから平常心ではいられなくて当然か…
「もうそろそろお兄様が迎えに来られる頃かしら?」
セラフィナが言う。
「いいか、アイリス。ウォルター殿下は他ならぬヴィクトリア様の婚約者なんだからな。アイリスはヴィクトリア様の代役に過ぎない事、よく弁えておけよ」
ジェイドに言われた台詞が頭に甦った。
コンコン。
ノックの音が部屋に響く。
「お兄様かしら」
セラフィナが言うと、アイリスの心臓がドキンッと鳴った。
ジェイドが変な事言うから、意識しちゃうじゃない。
アイリスは小さく首を横に振る。
ケイシーが扉を開けると、ウォルターが部屋に入って来た。
「ヴィクトリア…」
髪を染めて顔にガーゼを貼ったアイリスを見て、ウォルターは目を見開く。
「やはり、よく似ているね」
「はい。自分でもそう思いました」
アイリスがそう言うと、ウォルターは口角を上げた。
「ヴィクトリアはまだ療養中と言う事になっているし、今日は僕とダンスを一曲踊ったら退出しよう」
「わかりました」
「行こうか」
ウォルターがアイリスへ手を差し出し、アイリスはその手に自分の手を乗せる。
ウォルターにエスコートされて、寮を出て舞踏会の会場である講堂までの石畳の小径を歩いていると、アイリスの履いたパンプスのヒールが石畳の隙間に引っかかった。
「あっ」
「おっと」
ウォルターがよろけたアイリスの腰に手を回し、転けないように支える。
「も、申し訳ありません」
うひゃ~!会場内じゃなくて良かったけど…こしっ!腰に手が!
「もしかして足の怪我が痛い?」
アイリスの腰を抱くように支えながら、心配そうにウォルターが言った。
アイリスは顔をブンブンと横に振る。
「いえ、あの、靴が引っ掛かっただけです」
ウォルターは微笑みながら少し首を傾げた。
「そう?なら良かったけど、怪我はもう痛まない?」
「もうほとんど痛みはありません」
「そう…痕が残ったりは?」
「まあ、少しは…」
アイリスは苦笑いしながら言う。
本当の処、結構な痕が残るだろうけど、生きてるだけでも奇跡だもん。お姉様の事を思えば、足の傷痕なんてドレスやブーツに隠れちゃうし、気にしないわ。
「ガーゼのせいで視界が悪いんだろう?見える方の目を前髪で隠しているし。だからしっかり僕に掴まっていて」
ウォルターはアイリスの方へ腕を差し出した。
「ありがとうございます」
アイリスはウォルターの前腕へ手を乗せる。
するとウォルターはアイリスの手を握ると、アイリスの手が自分の腕の下側を通るように動かした。
「この方が咄嗟の時に捕まれるから」
これって、腕を組んでる状態よね?
私の視界が悪いのは一目瞭然だから誰も咎めたりはしないだろうけど、普通のエスコートより身体が近付いて…恥ずかしい。
でもお姉様とウォルター殿下は婚約者同士だもん。このくらいの距離は普通なんだわ。きっと。
舞踏会や卒業パーティーでは、ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
舞踏会や卒業パーティーは学生らしく昼間の開催なので、寮は当日は朝から支度で大騒ぎだ。
女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、歩いて向かう事になる。
「アイリス?」
俯いているアイリスにセラフィナが話し掛け、アイリスはハッとして顔を上げた。
目の前の鏡に映るアイリスの髪は暗金色で、複雑な形に編み込まれている。
「お姉様…」
「ね。髪色が一緒だと本当にヴィクトリア様みたいだわ」
アイリスの横でセラフィナが感心したように言った。
「ヴィクトリア様、ガーゼをお貼りします」
ガードナー家からアイリスの支度のために寮へ来た侍女のケイシーは無表情で言う。
「…ん」
ここは寮のヴィクトリアの部屋だ。
怪我がまだ癒えないため学園に復帰はしていないが、夏期休暇中にある東国の王太子を迎える行事へは出席しなければならないヴィクトリアは、リハビリのため学園の舞踏会へ出ると言う設定になっているため、ケイシーはこの部屋に来てからずっとアイリスの事を「ヴィクトリア様」と呼んでいるのだ。
「ああ、そうね。私もヴィクトリア様って呼ばなきゃ」
「……」
セラフィナがそう言うと、アイリスは頷いた。
そうよね。私、今からお姉様になるんだもん。ケイシーだけじゃなく、セラやウォルター殿下にも「ヴィクトリア」って呼ばれるんだわ。
…何だろう、何となく胸が苦しい?
と、言うかザワザワして落ち着かない感じ。
でもお姉様とは言え、別人の振りをするんだから平常心ではいられなくて当然か…
「もうそろそろお兄様が迎えに来られる頃かしら?」
セラフィナが言う。
「いいか、アイリス。ウォルター殿下は他ならぬヴィクトリア様の婚約者なんだからな。アイリスはヴィクトリア様の代役に過ぎない事、よく弁えておけよ」
ジェイドに言われた台詞が頭に甦った。
コンコン。
ノックの音が部屋に響く。
「お兄様かしら」
セラフィナが言うと、アイリスの心臓がドキンッと鳴った。
ジェイドが変な事言うから、意識しちゃうじゃない。
アイリスは小さく首を横に振る。
ケイシーが扉を開けると、ウォルターが部屋に入って来た。
「ヴィクトリア…」
髪を染めて顔にガーゼを貼ったアイリスを見て、ウォルターは目を見開く。
「やはり、よく似ているね」
「はい。自分でもそう思いました」
アイリスがそう言うと、ウォルターは口角を上げた。
「ヴィクトリアはまだ療養中と言う事になっているし、今日は僕とダンスを一曲踊ったら退出しよう」
「わかりました」
「行こうか」
ウォルターがアイリスへ手を差し出し、アイリスはその手に自分の手を乗せる。
ウォルターにエスコートされて、寮を出て舞踏会の会場である講堂までの石畳の小径を歩いていると、アイリスの履いたパンプスのヒールが石畳の隙間に引っかかった。
「あっ」
「おっと」
ウォルターがよろけたアイリスの腰に手を回し、転けないように支える。
「も、申し訳ありません」
うひゃ~!会場内じゃなくて良かったけど…こしっ!腰に手が!
「もしかして足の怪我が痛い?」
アイリスの腰を抱くように支えながら、心配そうにウォルターが言った。
アイリスは顔をブンブンと横に振る。
「いえ、あの、靴が引っ掛かっただけです」
ウォルターは微笑みながら少し首を傾げた。
「そう?なら良かったけど、怪我はもう痛まない?」
「もうほとんど痛みはありません」
「そう…痕が残ったりは?」
「まあ、少しは…」
アイリスは苦笑いしながら言う。
本当の処、結構な痕が残るだろうけど、生きてるだけでも奇跡だもん。お姉様の事を思えば、足の傷痕なんてドレスやブーツに隠れちゃうし、気にしないわ。
「ガーゼのせいで視界が悪いんだろう?見える方の目を前髪で隠しているし。だからしっかり僕に掴まっていて」
ウォルターはアイリスの方へ腕を差し出した。
「ありがとうございます」
アイリスはウォルターの前腕へ手を乗せる。
するとウォルターはアイリスの手を握ると、アイリスの手が自分の腕の下側を通るように動かした。
「この方が咄嗟の時に捕まれるから」
これって、腕を組んでる状態よね?
私の視界が悪いのは一目瞭然だから誰も咎めたりはしないだろうけど、普通のエスコートより身体が近付いて…恥ずかしい。
でもお姉様とウォルター殿下は婚約者同士だもん。このくらいの距離は普通なんだわ。きっと。
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