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「アイリス~!」
部屋に入って来たセラフィナは、ソファに座っているアイリスに駆け寄ると、ガバリと抱きつく。
「セラ、来てくれたんだ」
「当たり前よ。本当はもっと早くアイリスに会いたかったんだけど…」
アイリスに抱きついたまま、セラフィナは部屋の隅に控えているガードナー家の侍女をチラッと見た。
「お茶を用意して参ります」
侍女が部屋を出て行くと、セラフィナは「はあ…」と息を吐いてアイリスの隣に座る。
「相変わらずこの家は居心地が悪いわ。でも怪我人のアイリスを呼び付ける訳にはいかないし」
「ごめんね」
「アイリスのせいじゃないもの。それで、怪我の具合はどうなの?」
「腫れてて今は歩けないけど大丈夫。来週からは学園へ復帰するつもり」
「来週?早くない?」
「足以外は元気だし、松葉杖で何とかなるわ。それに…」
家にいるより寮の方が良いわ。
と、アイリスが後半を声を小さくして言うと、セラフィナは納得したように頷いた。
「ただ、お姉様の事が気掛かりではあるんだけど…」
「今日で十日?」
「うん。全然意識が戻らなくて…」
「心配よね…お兄様は毎日ヴィクトリア様の様子を見に来られてるんでしょう?」
「ええ。学園が終わってから毎日。お姉様だけじゃなく、私の所にも顔を出してくださってるの」
「そう…」
セラフィナは口元に手を当てて何かを考えている様子で視線を下げる。
「セラ?どうしたの?」
「うん…お兄様って…」
侍女がお茶の準備をしてやってきたのでセラフィナはそこで口をつぐんだ。
-----
愛人の子アイリスと正妻の子ヴィクトリアの顔がよく似ているのは、父の祖母、二人にとっての曽祖母に似たからだ。
家に残る肖像画に描かれた学園生時代の曽祖母は、真っ直ぐな白金の髪に空色の瞳の美少女。現在同年代のアイリスとヴィクトリアは二度見するくらいそっくりだ。
真っ直ぐな白金の髪はアイリスに、空色の瞳はヴィクトリアに引き継がれ、紺色に近い濃い青色の瞳のアイリス、波打つ暗金色の髪のヴィクトリアが二人の大きな違いとなっている。
「アイリスには大変申し訳ないのだが、ヴィクトリアの振りをする時には髪を染めて、纏めて欲しいんだ」
授業が終わった後、いつものようにガードナー家にやって来たウォルターは、アイリスの部屋で苦渋の表情で言った。
「はい。わかりました」
アイリスは素直に頷く。
「アイリスの髪…とても綺麗なのに済まない」
ソファに座るウォルターは、腰を浮かせて向かい側に座るアイリスの方に手を伸ばすと、アイリスの顔の横の髪を一束手に取った。
「いえ…」
か、髪を触られるのってドキドキする。
目が覚めて「お姉様の振りをして欲しい」と言われた時、何だかわからないけどウォルター殿下に抱きしめられて…もちろんあれ以来そんな事はないんだけど、何か変に意識してしまって困る。
「来月、学園が夏期休暇に入るとすぐに、東国の王太子がこの国へ来るんだ。そこで歓迎のパーティーを初めとしたいくつかの行事が行われる。その行事には僕も婚約者を必ず伴い出席しなくてはならないんだ」
「はい」
ウォルターは手に取ったアイリスの髪を自分の手の平の上で毛先まで滑らせる。
ハラハラと髪の毛がウォルターの手を離れ、ウォルターは自分の手を握るとソファに座り直した。
お姉様が「東国の王太子の歓迎行事にウォルター殿下の婚約者として出席する」と言われてたのは聞いてるわ。
もしもそれまでにお姉様の目が覚めて、行事に出られるならそれに越した事はないけど、私がお姉様の振りをするなら、ボロを出さないように頑張らなきゃね。
「東国は王妃殿下の出身の国ですよね?」
アイリスが言うと、ウォルターは頷く。
「そう。僕とセラの母は東国の現国王の妹だな。来月やって来る王太子は母の甥、僕とセラにとっては従兄弟に当たる」
なるほど、だからウォルター殿下は必ず行事に出席しなくちゃいけないのか。
「ではセラも出席するんですか?」
「うん。ただセラには婚約者がまだいないから二番目の兄のエスコートで出席する事になる」
二番目の兄、第二王子のステファン殿下ね。
結構歳が離れてたと思うけど、ステファン殿下にもまだ婚約者がいなかったんだっけ?
あ、違うわ。ステファン殿下と婚約していたのは東国の王女様だったような…
「アイリスにも僕たち兄弟の事を説明しておこうか」
「アイリス~!」
部屋に入って来たセラフィナは、ソファに座っているアイリスに駆け寄ると、ガバリと抱きつく。
「セラ、来てくれたんだ」
「当たり前よ。本当はもっと早くアイリスに会いたかったんだけど…」
アイリスに抱きついたまま、セラフィナは部屋の隅に控えているガードナー家の侍女をチラッと見た。
「お茶を用意して参ります」
侍女が部屋を出て行くと、セラフィナは「はあ…」と息を吐いてアイリスの隣に座る。
「相変わらずこの家は居心地が悪いわ。でも怪我人のアイリスを呼び付ける訳にはいかないし」
「ごめんね」
「アイリスのせいじゃないもの。それで、怪我の具合はどうなの?」
「腫れてて今は歩けないけど大丈夫。来週からは学園へ復帰するつもり」
「来週?早くない?」
「足以外は元気だし、松葉杖で何とかなるわ。それに…」
家にいるより寮の方が良いわ。
と、アイリスが後半を声を小さくして言うと、セラフィナは納得したように頷いた。
「ただ、お姉様の事が気掛かりではあるんだけど…」
「今日で十日?」
「うん。全然意識が戻らなくて…」
「心配よね…お兄様は毎日ヴィクトリア様の様子を見に来られてるんでしょう?」
「ええ。学園が終わってから毎日。お姉様だけじゃなく、私の所にも顔を出してくださってるの」
「そう…」
セラフィナは口元に手を当てて何かを考えている様子で視線を下げる。
「セラ?どうしたの?」
「うん…お兄様って…」
侍女がお茶の準備をしてやってきたのでセラフィナはそこで口をつぐんだ。
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愛人の子アイリスと正妻の子ヴィクトリアの顔がよく似ているのは、父の祖母、二人にとっての曽祖母に似たからだ。
家に残る肖像画に描かれた学園生時代の曽祖母は、真っ直ぐな白金の髪に空色の瞳の美少女。現在同年代のアイリスとヴィクトリアは二度見するくらいそっくりだ。
真っ直ぐな白金の髪はアイリスに、空色の瞳はヴィクトリアに引き継がれ、紺色に近い濃い青色の瞳のアイリス、波打つ暗金色の髪のヴィクトリアが二人の大きな違いとなっている。
「アイリスには大変申し訳ないのだが、ヴィクトリアの振りをする時には髪を染めて、纏めて欲しいんだ」
授業が終わった後、いつものようにガードナー家にやって来たウォルターは、アイリスの部屋で苦渋の表情で言った。
「はい。わかりました」
アイリスは素直に頷く。
「アイリスの髪…とても綺麗なのに済まない」
ソファに座るウォルターは、腰を浮かせて向かい側に座るアイリスの方に手を伸ばすと、アイリスの顔の横の髪を一束手に取った。
「いえ…」
か、髪を触られるのってドキドキする。
目が覚めて「お姉様の振りをして欲しい」と言われた時、何だかわからないけどウォルター殿下に抱きしめられて…もちろんあれ以来そんな事はないんだけど、何か変に意識してしまって困る。
「来月、学園が夏期休暇に入るとすぐに、東国の王太子がこの国へ来るんだ。そこで歓迎のパーティーを初めとしたいくつかの行事が行われる。その行事には僕も婚約者を必ず伴い出席しなくてはならないんだ」
「はい」
ウォルターは手に取ったアイリスの髪を自分の手の平の上で毛先まで滑らせる。
ハラハラと髪の毛がウォルターの手を離れ、ウォルターは自分の手を握るとソファに座り直した。
お姉様が「東国の王太子の歓迎行事にウォルター殿下の婚約者として出席する」と言われてたのは聞いてるわ。
もしもそれまでにお姉様の目が覚めて、行事に出られるならそれに越した事はないけど、私がお姉様の振りをするなら、ボロを出さないように頑張らなきゃね。
「東国は王妃殿下の出身の国ですよね?」
アイリスが言うと、ウォルターは頷く。
「そう。僕とセラの母は東国の現国王の妹だな。来月やって来る王太子は母の甥、僕とセラにとっては従兄弟に当たる」
なるほど、だからウォルター殿下は必ず行事に出席しなくちゃいけないのか。
「ではセラも出席するんですか?」
「うん。ただセラには婚約者がまだいないから二番目の兄のエスコートで出席する事になる」
二番目の兄、第二王子のステファン殿下ね。
結構歳が離れてたと思うけど、ステファン殿下にもまだ婚約者がいなかったんだっけ?
あ、違うわ。ステファン殿下と婚約していたのは東国の王女様だったような…
「アイリスにも僕たち兄弟の事を説明しておこうか」
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