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番外編 2
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ハリジュはリリアを王都の広場に来る遊戯団の公演に誘う手紙を送ってみた。令嬢をデートに誘うというより、父が子供を連れて行くような大道芸などの催しだ。
ハリジュはリリアが、観劇や夜会などでないとレディ扱いではないと怒るのか、それともこちらに合わせて来るのか、どんな反応を示すのかとても興味があったし、子供扱いすることで、こちらからは断れないこの婚姻話を向こうから断ってくれないか、とも思っていた。
【ジャグリングできるようになりたいのですが、あのボールは売られているのでしょうか?】
リリアからの返事を読んでハリジュは思わず吹き出した。
「殿下?」
ダドリーが横からリリアからの手紙を覗き込もうとする。ハリジュは手紙を伏せて机に置く。何となく誰にも見せたくなかったのだ。
「ジャグリングのボールって売られているものなのかな?」
クスクス笑いながらハリジュが言うと、
「買おうと思った事がないからわからん」
ダドリーは首を傾げながら言う。ハリジュは「そうだな」と、ますます笑った。
…もし、売られていたら買ってやろう。
ハリジュは笑いながらそう思った。
当日、リリアは実に楽しそうに一つ一つの出し物に反応していた。ハリジュは表情豊かなリリアを眺めて微笑ましい気持ちになった。
「ボールは売られていないようだな」
帰りに並んで歩きながらハリジュはリリアの顔を覗き込んで言う。
「残念です」
リリアは本当に残念そうに言う。
その様子にハリジュは笑い出す。
「ふふ、売られていたらぜひ買ってあげようと思っていたので、私も残念だよ」
リリアも笑って、こうなったら自作ですわ。と、素材が…重さが…大きさが…と話している。
ハリジュが立ち止まってリリアを見る。
ハリジュはかなり背が高いので、リリアが見上げるようにして二人の目が合った。
「リリア嬢は私に子供扱いされているって怒らないのかい?」
リリアと目を合わせたまま真顔になって問う。リリアはじっとハリジュを見ていたが、ふと目を逸らした。
「…私は本当にまだ子供なので怒る所ではありません」
リリアはふうっと息を吐くと、またハリジュを見る。
「殿下は私を怒らせようとなさってるんですか?…こちらからこのお話を…お断りするように?」
思わずハリジュは目を見張った。リリアの胸の前で握られた拳が小さく震えている。
「このお話は、殿下の方から断わる事はできないのですよね?」
「リリア嬢…」
リリアは大きな瞳を涙で潤ませながらも、にっこり笑った。
「ですから、こちらからはお断りしません」
-----
ハリジュは測りに粉を少しづつ乗せていく。
「よし、ピッタリ」
目盛りを確認し、満足気に頷くと、粉を篩にかけ始めた。
ハリジュの趣味はお菓子作りだ。
正確には、好きなのは「お菓子を作る事」ではなく、材料を測ったり混ぜたり、冷やしたり焼いたり、材料によっての変化を予想したり、その予想が正しかったか確認したりする事、つまり仕事である薬学の研究にも通じる作業が全般的に好きなのだ。
そしてお菓子は材料を正確に測るレシピが多いので、ハリジュの嗜好に合致していたのだった。
自室から繋がる小さな厨房で、今ではもうレシピを見なくても作れるクッキーの生地を作っていく。
小さな厨房は、それでも庶民の家の台所ほどの広さがあり、保冷庫やオーブンも設置されている。
「女性」の表情だったな。
ふと、遊戯団を見に行った日のリリアを思い出す。潤んだ瞳で笑ったリリア。
あれから気不味くなるかと思ったが、変わらない様子で手紙の遣り取りが続いている。
リリアからの手紙に、ボールを自作しようと色々な布で試していると書かれており「兄様の上着の裏地は滑るので不向きだった」と書かれていた時には、ハリジュはまた笑ってしまった。
リリア嬢にクッキーを贈ったら驚かせるかな。最初はお茶会のお菓子に混ぜて出してみようか。
また子供扱いと思われるだろうか。男性がお菓子を作るなんてと呆れられるだろうか。
ハリジュはそう考えたが、すぐ思い直す。
きっと、リリアは喜んでくれる。と確信していた。
ハリジュはリリアを王都の広場に来る遊戯団の公演に誘う手紙を送ってみた。令嬢をデートに誘うというより、父が子供を連れて行くような大道芸などの催しだ。
ハリジュはリリアが、観劇や夜会などでないとレディ扱いではないと怒るのか、それともこちらに合わせて来るのか、どんな反応を示すのかとても興味があったし、子供扱いすることで、こちらからは断れないこの婚姻話を向こうから断ってくれないか、とも思っていた。
【ジャグリングできるようになりたいのですが、あのボールは売られているのでしょうか?】
リリアからの返事を読んでハリジュは思わず吹き出した。
「殿下?」
ダドリーが横からリリアからの手紙を覗き込もうとする。ハリジュは手紙を伏せて机に置く。何となく誰にも見せたくなかったのだ。
「ジャグリングのボールって売られているものなのかな?」
クスクス笑いながらハリジュが言うと、
「買おうと思った事がないからわからん」
ダドリーは首を傾げながら言う。ハリジュは「そうだな」と、ますます笑った。
…もし、売られていたら買ってやろう。
ハリジュは笑いながらそう思った。
当日、リリアは実に楽しそうに一つ一つの出し物に反応していた。ハリジュは表情豊かなリリアを眺めて微笑ましい気持ちになった。
「ボールは売られていないようだな」
帰りに並んで歩きながらハリジュはリリアの顔を覗き込んで言う。
「残念です」
リリアは本当に残念そうに言う。
その様子にハリジュは笑い出す。
「ふふ、売られていたらぜひ買ってあげようと思っていたので、私も残念だよ」
リリアも笑って、こうなったら自作ですわ。と、素材が…重さが…大きさが…と話している。
ハリジュが立ち止まってリリアを見る。
ハリジュはかなり背が高いので、リリアが見上げるようにして二人の目が合った。
「リリア嬢は私に子供扱いされているって怒らないのかい?」
リリアと目を合わせたまま真顔になって問う。リリアはじっとハリジュを見ていたが、ふと目を逸らした。
「…私は本当にまだ子供なので怒る所ではありません」
リリアはふうっと息を吐くと、またハリジュを見る。
「殿下は私を怒らせようとなさってるんですか?…こちらからこのお話を…お断りするように?」
思わずハリジュは目を見張った。リリアの胸の前で握られた拳が小さく震えている。
「このお話は、殿下の方から断わる事はできないのですよね?」
「リリア嬢…」
リリアは大きな瞳を涙で潤ませながらも、にっこり笑った。
「ですから、こちらからはお断りしません」
-----
ハリジュは測りに粉を少しづつ乗せていく。
「よし、ピッタリ」
目盛りを確認し、満足気に頷くと、粉を篩にかけ始めた。
ハリジュの趣味はお菓子作りだ。
正確には、好きなのは「お菓子を作る事」ではなく、材料を測ったり混ぜたり、冷やしたり焼いたり、材料によっての変化を予想したり、その予想が正しかったか確認したりする事、つまり仕事である薬学の研究にも通じる作業が全般的に好きなのだ。
そしてお菓子は材料を正確に測るレシピが多いので、ハリジュの嗜好に合致していたのだった。
自室から繋がる小さな厨房で、今ではもうレシピを見なくても作れるクッキーの生地を作っていく。
小さな厨房は、それでも庶民の家の台所ほどの広さがあり、保冷庫やオーブンも設置されている。
「女性」の表情だったな。
ふと、遊戯団を見に行った日のリリアを思い出す。潤んだ瞳で笑ったリリア。
あれから気不味くなるかと思ったが、変わらない様子で手紙の遣り取りが続いている。
リリアからの手紙に、ボールを自作しようと色々な布で試していると書かれており「兄様の上着の裏地は滑るので不向きだった」と書かれていた時には、ハリジュはまた笑ってしまった。
リリア嬢にクッキーを贈ったら驚かせるかな。最初はお茶会のお菓子に混ぜて出してみようか。
また子供扱いと思われるだろうか。男性がお菓子を作るなんてと呆れられるだろうか。
ハリジュはそう考えたが、すぐ思い直す。
きっと、リリアは喜んでくれる。と確信していた。
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