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セドリックと対峙したオリビアはとても落ち着いていた。
「一晩は保つかと思っていたのに、意外と早かったですわね…」

セドリック達はしばらく外から様子を窺い、屋敷には護衛や騎士、兵士などはいないと判断し、鍵も掛かってない正面の扉を開けて中に入る。
オリビアは応接室で、テーブルにランプを置いてソファに座っていた。
セドリックと二人の騎士は応接室の入り口に立つ。
オリビアはゆっくりと立ち上がった。
観念した、と言うよりは、こうなる覚悟をしていたようだった。
「…これでもう父の野望が叶う事はありませんわね」
抵抗する気はないようなので、セドリックはオリビアを連れ帰るべく拘束するよう騎士に指示をし、急いで応接室を出る。

廊下は騎士が明かりを灯して回ったらしく、明るかった。
セドリックは階段を駆け上がる。
二階の二つ目か三つ目の部屋。
当たりを付けていた部屋のドアを勢いよく開ける。部屋は暗いが廊下からの明かりで中の様子は見えた。
そこには壁側に数点家具があるだけのガランとした部屋だった。
「リネット…?」
念のため小さく呼んでみるが反応はない。
すぐに隣の部屋に向かう。
ドアを開けると、部屋の真ん中に天蓋付きのベッドがあった。
「…リネット?いるのか?」
呼ぶと「うう」と小さく唸り声が聞こえた。
部屋に飛び込み、天蓋ベッドのカーテンを開ける。
口を布で塞がれ、手首と足首を縄で拘束され横たわるリネットが目に入る。

…見つけた。

セドリックはベッドに乗り上げ、リネットを抱き締めた。

-----
 
「みぞおちに大きな内出血と、手首と足首に軽い擦り傷があるだけで、他は大丈夫みたい」
気を失ったままバーストン伯爵家の屋敷に戻って、医師の診察を受けたリネットの診断結末を、診察に立ち会ったリリアが報告すると、執務室で待機していたチャールズとセドリックはホッと息を吐いた。

オリビアは、その後エバンス邸で騎士によって拘束された侯爵と共に王宮の一室に監禁された。
バーストン家としては、この後どのようにこの事態を治めるかは、王家に一任する事とした。
きっとセルダはリネットの醜聞にならないよう、秘密裏に処理するよう望むだろう。リネットを娶る障害にならないように。
しかし他の王族や陛下がどのような処分を下すか、今はまだ分からない。

…セルダ殿下が何と言おうと、リネットを渡す気はない。

そもそもセドリックはセルダがリネットに求婚する機会を与える事すら許す気はなかった。セドリックの父であるゴルディ侯爵が王子からの頼みを断れなかっただけだ。
あの時のセドリックは、早く父から爵位を受け継いでおけば良かった、と心底思っていた。
セドリックは、セルダが立太子までリネットに返事をしないよう引き延ばした事も、その間あまりリネットに会うなと言われた事も、何もかも納得していない。

先程、リネットをエバンス家の別邸で見つけた時を思い出す。
ベッドの上に、床に、ドレスのデザイン画が散乱していた。
あれは、セルダがリネットにドレスを贈ろうとしているとしているという事だろう。
リネットは受け入れるつもりだったのだろうか?贈られたドレスでパーティーに出るという事は、セルダの求婚を受けるという事だ。

リネットはセルダ殿下を好きになったのか…?

そう考えると苦しくなるが、リネットはセドリックに抱き締められて安心していたようだし、抱き返してくれた。

「セドリック、リリアも、もう夜も遅い。部屋を用意するからこのまま泊まって行ってくれ」
後は明日にしよう。とチャールズが促す。
「チャールズ兄さん、俺はリネットに付いていたい」
「兄様それは…」
リリアがセドリックの袖を引く。
未婚の男女が二人きりでいるのは良くない事だ。しかも夜。
リリアは言外にそう嗜めるが、チャールズはため息混じりに頷いた。
「まあ、婚約者同士だし良いだろう。…セドリック、そうだな?」
チャールズはじっとセドリックを見据える。
セドリックはしっかりと頷く。
「リネットの婚約者は俺だ」

王子だろうと、譲る気はなかった。
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