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冬期が始まってすぐの放課後、リネットはセルダに生徒会室へ呼び出された。
期末にある卒業パーティーの件についてサポートメンバーの引き継ぎもれがあった、という口実だ。

リネットが生徒会室へ入ると、リネットの代わりにサポートメンバーになった同級生の女生徒が応接セットのソファに座っており、セルダは生徒会長の机に着いていた。
リネットの代わりにサポートメンバーになったのは隣のクラスのエバンス侯爵家の令嬢オリビアだ。
セルダが目配せをすると、オリビアはお辞儀をして廊下へ出て行く。
「リネット、ごめんね。急に呼び出して。不自然にならないように手早く済ませよう」
セルダは生徒会長の机から紙の束を持って立ち上がると、リネットにソファに座るように促して、自分もその向かいに座る。
「長く二人きりで生徒会室にいたなんて噂になったら困るから、今日はリネットの紅茶は我慢するよ」
そう言って微笑みながら、リネットの前に紙の束を差し出す。
「何ですか?」
「ドレスのデザイン」
「ドレス?」
リネットが紙を手に取って数枚捲ると、確かに紙には女性用のドレスが描いてあった。ドレスに合わせる宝飾品のデザイン画も。
「殿下…これは…?」
リネットが紙から視線を上げてセルダを見ると、セルダはにこりと微笑んだ。
「卒業パーティーのドレスをプレゼントさせて?」
「えええ!?」
確かにセルダの求婚を受けるなら卒業パーティーにパートナーとして出席して欲しいとは言われていたが、ドレスを贈られるなんて初耳だ。
「とりあえず今日はこのデザイン画を持って帰って、どれが良いか見てみて。最終的にはリネットの好みのドレスをデザインさせるから」
言葉に詰まるリネットを見ながら、セルダは楽しそうに言った。
「色は決まってるからね。紫に」

セルダは生徒会室に残り、リネットはドレスのデザイン画の束を入れた封筒を持ち、教室へ鞄を取りに戻ろうと廊下を歩いて行く。
もうあまり人が残っていないようで、廊下は静かだった。

このままドレスを作っていただいたら…それはもう求婚を受けた事になるわよね。

それはだめだわ。リネットはぶんぶんと首を横に振る。
期限まで返事はしないで欲しいとセルダには言われていたが、ドレスの話が具体化するまでにお断りしなくては。
リネットはセドリックを好きだと気付いた。気付いた以上はセルダの求婚を受ける訳にはいかない。
例えセドリックがリリアを好きでも。

殿下にお話する前にお兄様に話さなくては。
今度のお休みには家に戻ろうかしら。あ、先にお手紙で知らせておいた方がが良いかしら。

早速、寮へ帰ったら手紙を書こう。
そう考えながら教室のドアを開ける。
すると、ドアの影から手が伸びて来て、後ろから首へ腕を回すと、リネットの口に布を押し当てた。

-----

バタンッ
セドリックが学園の事務室で事務員と話していると、ものすごい勢いで事務室のドアが開けられた。
「兄様!いた!!」
駆け込んで来たのはリリアだ。鞄を胸に抱えている。
事務員達が呆気にとられている間にリリアはセドリックに元に駆け寄りその腕を掴む。
「リリア?」
「兄様!リネットがいないの!」
「リネットが?何だって?」
「食堂に来なくて!部屋にもいなくて!鞄が!そのまま!」
必死に訴えるリリアの肩に両手を置いたセドリックは、落ち着かせるように敢えてゆっくり話す。
「リリア、順を追ってゆっくり説明してくれ」

リリアを事務室の椅子に座らせ、セドリックも隣の席の椅子に座る。
リリアの説明によると、寮の夕食の時刻にリネットが食堂に来なかったため、部屋を訪ねてみたが鍵がかかったまま戻った様子がなく、しばらく待ってみたが戻って来ない。
そこで、リネットの教室へ行ってみると、リネットの鞄だけが残されていた。
何か、嫌な事が起こっている気がして、リリアはリネットの鞄を持ち、セドリックがいないかと事務室に来た。とのことだった。
話を聞いたセドリックも、嫌な予感に胸がざわつく。
「…何かあったのかしら?」
青い顔をしてリリアが呟くと、セドリックは立ち上がった。
誰が?何処へ?何故?
「探そう」
セドリックが短く言えば、事務室にいた面々も一斉に立ち上がった。
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