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チャールズが王宮に出勤し、馬車を降りると、セドリックが入口の前で待ち構えていた。
今日も朝から黒いオーラを出している。
「セドリック?朝からどうした?」
チャールズが聞くとセドリックは低い声で言った。
「……最悪なんですよ」
セドリックの方が背が高いので、チャールズを見下ろすように睨む。
「何怒ってるんだ?」
黒いオーラを振り撒くセドリックの背中を押して、チャールズはとりあえず執務室へと向かった。

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つまり、シスコンが極まると…こうなるって事なのね。

リネットはセドリックの部屋から持って帰って来た本を閉じる。
何度も読み返したその本をベッドサイドのテーブルの引き出しに入れて鍵を掛け、そのままベッドへ腰掛けた。

その本には、身体が弱く療養のため領地に滞在する母と共に育った妹と、父の仕事の都合で王都の屋敷で育った兄は、年に数回顔を合わせるだけの兄妹だったが、丈夫になった母と妹が王都に戻った事で一緒に暮らすようになり、実の兄妹と知りながら、葛藤しつつも惹かれ合い、やがて一線を超えてしまう。
妹に想いを寄せていた隣の領地の令息が、兄妹の関係を知ってしまい両親に告げ口。妹はすぐにその令息に嫁がせるため領地へ送られ、兄の結婚も決められてしまい、二人は引き離される。
妹は諦めたように見せかけながら、実は兄以外と結ばれるくらいなら舌を噛んで死のうと思っていた。兄はどうしても妹を諦められず結婚相手との顔合わせを放り出し出奔。妹の結婚式の前夜、妹の前に現れ、互いに気持ちを確かめ合った二人はそのまま逃げる。その後、二人は遠い国で市井の一夫婦として暮らした。という物語だった。

実の兄妹の禁断の恋とはいえ、とても切ない物語で、リネットも読みながら何度か泣いてしまった。
官能部分は何ぶん何の経験もないリネットなので、赤面しつつも飛ばしながら読んだのだった。

「『俺はお前を妹だと思った事はない』か…」
リネットは小説の中の台詞を口にする。
手の平に乗せた引き出しの鍵を見つめる。何となく本と一緒にセドリックの「心」を持って帰ってしまったような気がした。

「好きなんだ…」ってとても苦しそうに言ってたな。
セドリックは…あんな風にリリアの事を好きなのかしら。
あんな風にリリアを抱き締めたいと…口付けたいと…思ってるのかしら。

そう思うと胸が痛い。

リリアの方はセドリックに対してそんな気持ちは微塵もない。
だからセドリックは気持ちを押し殺しているのだろうか。…いつものシスコンぶりを見るとあまり押し殺せてはいないけれど。

私とリリアは仲が良いから、例えば私とセドリックが結婚して、リリアがハリジュ殿下と結婚したとして、リリアが里下りして来ても私が小姑を嫌がる事はないし、何なら離縁して戻って来て一緒に暮らす事になっても私に遠慮はいらないもの。
セドリックのシスコンもよーく知ってるし、セドリックにとって結婚相手が私だって事は都合が良い事だったんだわ。

だから婚約しててもデートもした事ないし、手も繋いだ事もなかったんだ…セドリックは私を好きなわけじゃないから。

昔、5歳のリネットへまだ3歳になったばかりのリリアが勢いよく飛び付いて来て、二人とも転んでリリアが泣いてしまった事があったのを思い出す。
その時、もうすぐ10歳になるところだったセドリックは、泣いているリリアを大事そうに抱き上げて「リリアにケガさせないでよ」とリネットに言ったのだ。

あの時は「リリアが飛びついて来るから転んじゃったのに」ってセドリックに言ったのよね。
「わたしだってお尻打って痛いのに~」って泣いちゃって。
そうしたら、セドリックはばつが悪そうな顔してリリアを片手で抱っこして、もう片方の手で私の手を引いてくれたのよ。

セドリックと手を繋いだ覚えが、その時くらいしかなかった。

…道理でセルダ殿下の求婚もあっさり許すはずよね。

胸が苦しくなって涙が滲んだ。

セドリックが私を好きじゃない事なんて最初からわかっていたのに…何でこんなに苦しいの?

そうか、私は、セドリックを…好きだったのね。

リネットは胸元をギュッと握りながら他人事のように思った。


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