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「ふう…」
もうすぐ秋期が終わる頃、リネットの部屋を訪れていたリリアは俯いて大きくため息を吐いた。
「リリア?」
「ねぇリネット、今セルダ殿下とどんな感じ?どの位会ったりしてるの?手紙は?どのくらいの頻度?」
がばっと顔を上げて正面に座るリネットに真剣な眼差しで迫るリリア。リネットとリリアの間では、セルダの話題は何となく避ける雰囲気だったので、急にその名が出た事にリネットは驚いた。
「ど、どうしたの?」
リリアはリネットから目を逸らすとボソッと呟く。
「…私の婚約の話」
「え?お話進んでるの?どなたと?」
リリアの新たな婚約の話は兄からもセルダからも聞いていない。
「…マルセル国の第三王子のレイモンド殿下と…ハリジュ殿下。だけど、まだ進んでいるというか、私の意思を尊重してくださるらしくて。それで、ハリジュ殿下とはこの間のお休みに、ちょっとお会いして…」
リリアはソファに置いてあったクッションで顔を隠しながら言う。顔は隠していても耳が真っ赤だ。
「え?それってお見合い?ハリジュ殿下?王弟の?」
「おおお、お見合いとか!大袈裟なのじゃないのよ!」
リリアが顔を隠していたクッションをぼすんと膝の上に置く。やはり顔も真っ赤だった。
「王妃様から息子が迷惑かけたからってお茶会にご招待いだだいて、そこにハリジュ殿下が来られてちょっとお話しただけなの」
息子が迷惑をかけたと言っても、セルダとリリアの婚約が解消されてから4ヵ月以上経っている。それはそういう口実でのリリアとハリジュの顔合わせであろう。

リリアとハリジュ殿下って二十くらい歳が離れてないかしら?親子と言っても良いような…?

ハリジュは前王の側妃の子で、白紫の髪に薄紫の瞳、全体的に色素が薄く、眼鏡を掛けたスラリと背の高い男性だ。
リネットの父とリリアの父は同級生で現在46歳なので、ハリジュが父のように見える訳ではないのだが。

「ハリジュ殿下っておいくつだったかしら…?」
「35歳だとおっしゃられてたわ。薬学や栄養学の研究などをされてるんですって」
「35」
本当に二十歳差だったと思いながらリネットが呟くと、リリアは慌てたように言う。
「でもそうは見えなかったわよ!若々しいと言うか…所作もお綺麗だし、大人の余裕と言うか…その………」
急にリリアが黙ってしまったので、リネットはリリアの顔を覗き込む。
「リリア?」
「………格好良かった…」
リリアはまたもやクッションに顔を押し付けながら言った。

つまり、好みだったと言う事ね。
顔合わせをしてみて、リリアが難色を示すようならマルセル国の王子へ婚姻の話を持って行く手順だったのかしら。

「それでね!」
リリアが急に顔を上げる。
「お会いしてからもう一週間経つのに、お手紙もカードもないの。それで世間一般ではどうなのかと思って」
「なるほど…でもリリア、私とセルダ殿下は世間一般には当てはまらないと思うの」
「それもそうね…」
リネットとリリアは互いに遠くを見つめ、また目を合わせて互いに笑い合った。

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チャールズは王宮の食堂で、またもや黒いオーラを漂わせるセドリックを見つける。
「セドリック…今度は何だ?」
セドリックの向かいに座りながら問いかける。
「どうして『殿下』と言う奴は誰も彼も俺の敵になるんでしょうか」
パリヤは廃太子となってセルダとリリアの婚約解消のきっかけを作り、セルダはリリアと婚約解消し、ハリジュはリリアの新しい婚約者候補となっている。
「ハリジュ殿下も?まだリリアと婚約した訳じゃないだろう?」
チャールズが呆れたように言うと、セドリックは自分の拳を握りしめる。
「二十も歳が離れた年寄りにリリアを嫁がせるなんて…」
「おいおい殿下を年寄り呼ばわりするなよ。それにハリジュ殿下は見た目は二十代だろ」
「いくら見た目は二十代でも、リリアが学園を卒業する頃には四十近いじゃないですか。すぐにリリアが未亡人になったらどうするんです!?いくらリリアが殿下を慕ってても、あちらから断ってくれても良いのに」
「リリアはハリジュ殿下を慕ってるのか?」
セドリックは眉間に皺を寄せながら無言で頷く。
リリアは年上好きだったのか…ファザコン?とは違うのかな。しかしシスコンとファザコンの兄妹か。なかなか難儀だな…とチャールズは口には出さず考えた。
「でもセルダ殿下もまだ敵なのか?リリアと婚約解消してくれたからセドリックとしては良かったんじゃないか?」
チャールズが揶揄うように言うと、セドリックはますます眉間の皺を深くし、黒いオーラを濃くする。
「セルダ殿下は…リリアを泣かせたし…」
それに…とセドリックは続けたが、声が小さくてチャールズには聞こえなかった。

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