上 下
7 / 30

6

しおりを挟む
6

天気の良い夏の午後、リネットとリリアの滞在するゴルディ家の別荘へ、青い顔をしたセドリックと、王宮からの使者がやって来た。

「王都の侯爵家には別の使者がすでに向かいゴルディ公爵へのご説明をしております。私はリリア嬢へのご説明をいたしたく参上しました」
使者は跪き、リリアへ礼を取る。
「…わかりました。応接室へどうぞ。兄と、バーストン伯爵令嬢リネット様は同席を許されますか?」
リリアは使者を応接室に案内しながら聞く。
「お兄様…セドリック殿は宜しいですが、バーストン伯爵令嬢はご遠慮いただきたく」
「わかりました。リネットごめんね。私の部屋で待っていて」
「わかったわ」
応接室の前でリネットはリリアの両手をギュッと握った。何か言いたかったけれど、何も言葉は出てこなかった。

リリアとセドリックが使者と話している間、リネットが落ち着かずにソファを立ったり座ったりしていると、別荘の執事がリネット宛の手紙を二通部屋へ持って来た。
「一通はチャールズお兄様から。もう一通は…え?」
差出人を確認しようと封筒を裏返すと、王家の蝋封が目に飛び込んで来た。

ええ!?何、何、何!?

差出人の名は記されていない。

王家の蝋封のある手紙なんて王宮舞踏会の招待状くらいしか見た事はないわよ。それもバーストン伯爵家の当主である父や代替わりした兄に宛てた物しか…。

リネットは混乱しながらも、兄チャールズからの手紙を先に開けてみる事にした。

お兄様が私に手紙をくださるのだって珍しい事だし…それに今しがた使者が王宮から持ってきた話の内容が書いてあるかも。

兄からの手紙には、セルダが王太子となる事が正式に決まった事が書かれていた。
そして、セルダとリリアの婚約は解消される方向である事。
そこまでは想定内だったが…
「アリシア公爵令嬢が自家の執事と婚約した…って、どういう事?」
思わず声が出た。

手紙によると、アリシアは以前からウィルフィス公爵家の筆頭執事の息子で、第二執事として働いている青年に想いを寄せていたらしい。
しかし高位貴族の令嬢として、恋心は仕舞い込み、王太子の婚約者として王妃教育にも積極的に取り組み、王太子妃となる事も当然と受け止めていた。
なのに王太子が「真実の愛」に目覚め、婚約は破棄された…ならば、自分も好きな人と結ばれたい。と父に訴えたらしい。
父は当然反対したらしいが、アリシアが駆け落ちも辞さずという姿勢で、今にも既成事実を作りそうだったので、しぶしぶ婚約を許したそうだ。
ちなみにアリシアと第二執事は元々恋人同士だった訳ではなく、お互い想い合っていた事もアリシアが父に訴えてはじめて分かったらしい。

あれ?アリシア様が他の方と婚約したなら、何故リリアとセルダ殿下の婚約を解消する必要があるの?

そう考えた時、リリアの部屋のドアがノックもなく勢いよく開かれた。
「な!?え?セドリック?」
ドアの向こうに立っていたのは厳しい表情のセドリック。そしてその後ろでリリアが泣いていた。
「リネット」
セドリックが低い声でリネットを呼んだ。
そして、おろおろするリネットから目を逸らしながら絞り出すように言った。
「…今すぐ王都に帰れ」

-----


ゴルディ家が用意した馬車で王都に帰っているリネットはとても混乱していた。
セドリックはリネットに「王都に帰れ」と言った後、リリアを引きずるように連れて行ってしまって、リネットが別荘を出る時にもセドリックもリリアも顔を見せなかった。

使用人がまとめてくれた荷物を見ながらリネットはため息を吐く。

セドリックは怒っていたのかしら…?
あんなセドリック初めて見たわ。
何も説明してくれなかったし…私の顔を見もしなかった…。

リネットは悲しくなって膝に置いた手でドレスのスカートを握りしめた。
するとドレスのポケットに入れて持って出た二通の手紙がカサリと音を立てる。

王族の蝋封のある手紙はまだ読んでいないのだったわ。

泣きそうな気分を引き立たせるように顔を上げ、手紙を取り出す。
【リネット・バーストン伯爵令嬢へ】
封筒の表にある宛名の字を見て見覚えがあるなと思う。
リネットが字に見覚えがある王族と言えばセルダしかいない。

何故セルダ殿下が私に…?

ゆっくり手紙を開き、書かれた文字を読み、リネットは思わず手紙を取り落とした。

【リネット嬢が好きです】

そこにはたったそれだけが書いてあった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

処理中です...