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番外編11

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「会う度、マールさんの表情に出さない感情を感じられる様になっている気がします」
「それはただの思い込みなんじゃないかしら?そんな事言われる程の頻度で会ってもいないわ」
「そうですね。でもだったら、答え合わせをして欲しいです」
「答え合わせ?」
「はい。私の感じたマールさんの感情はこうかな、と言うのを話すので、それが合っているのか、違っているのか、本当はどうなのか教えて欲しいです」
「ええ?」
 何で私がそんな事を…
「今は嫌そうに見えます」
「それは合ってます」
 マールはぶっきらぼうに言う。
 そもそも、そもそもよ?ジョーさんはミッチェル妃を好きなんでしょ?何で「結婚するならマールさん」なの?
 あ、そうか。ミッチェル妃には手が届かないから、身近な所で手を打とうとか、そういう事?
 それとも私と結婚すればパトリシア様を通じてミッチェル妃に連絡取れる可能性があるとか、万に一つでも会えるかも知れないとか、そういうの狙い?
「違いますよ」
「え?」
「私は別にミッチェル様に近付こうとしてマールさんと結婚したいと言っている訳ではありません」
 え?私、口に出してないわよね?何で…
「マールさんが考えていた事、当たってますか?」
「……」
 上目遣いにジョーンズを睨む。
「当たってるんですね?」
 無表情のジョーンズ。でもマールの目には少し嬉しそうにしているように見えた。
「…でもジョーさんはミッチェル妃のこと今も好きでしょ?だったら本当はそれを狙ってると思われても仕方ないじゃない」

「マール?」
 屋敷の方からやって来たアレンに声を掛けられる。
「アレン殿下。パトリシア様はエリザベス様からのお手紙をあちらで読まれています」
「ああ。パティはいつもエリザベスからの手紙を楽しみにしているからな。俺たちは少し庭を散歩してから戻るから、マールは先に戻っていてくれ」
「はい」

「パティ」
 手紙を読み終わったパトリシアをアレンが呼ぶと、顔を上げたパトリシアはニッコリと笑う。
 パトリシア様は何年経ってもアレン殿下を大好きで、アレン殿下もパトリシア様を大好きで、本当にあのお二方は微笑ましいわ。
「戻りますか?」
 ジョーンズが言う。
「戻るわ。パトリシア様とアレン殿下が戻られるまでにお茶の準備をします」
 マールは屋敷の方に身体を向けて足を踏み出した。
「私がマールさんと会う度にミッチェル様の事を聞くのはもう癖の様なもので…後はマールさんに話し掛ける話題が欲しいからで、ミッチェル様に恋愛的な感情がある訳ではありません」
 マールの後ろに付いて歩きながらジョーンズは言う。
「……」
「先程の様にマールさんが笑うと、それを見逃したくない気持ちと、他の人には見せたくない気持ちが湧きます」
「…何故?」
「はい?」
「何故今日急にそんな事を言い出すんですか?」
 恋愛的な感情がないって、本当なのかどうかもわからない。
 本当だったとしても私には関係のない事。
「いつもは一週か二週しかこちらに滞在されませんが、今回はパトリシア様がご出産されて、お身体が落ち着くまで、どんなに短くとも三か月はこちらにおられる。つまりマールさんと顔を合わせる機会もそれだけあるので、この機会を逃す手はないと思いました。そして、マールさんが先程『ジョーさんと結婚なんてあり得ない』と言ったのでどうしても反論したくてこの様な会話になっております」
「……」
「『鉄面皮』と『仮面』は案外お似合いだと思いますよ?」
「ふっ。鉄面皮、やめてください」
 思わず吹き出すマール。
「鉄面皮と言うと笑うんですね。これは良い事を知りました」
「ジョーさんが真顔で言うからですよ」
 
「ほら、意外と明るい家庭が築けそうな気がしませんか?」
 あくまで無表情でジョーンズは言う。
 ああ、何だか楽しそうな表情に見えるわ。
「それに、マールさんがパトリシア様の側にいたいなら、私は別居婚になっても良いですよ」
「別居婚?」
「マールさんは王都、私はこちらに住んで、互いの休暇などに王都やここで会う生活です」
 休暇と言っても、王都とここは馬車で三日離れているわ。一週間くらいの休みがないと会う事はできないから…会えても年に二~三回、頑張っても五回くらい、日数にしたら十日もないんじゃない?
 そこまでして結婚って、したいものかしら?
「それ、ジョーさんにとって結婚する利点がありますか?」
「利点とかではなく、長い休みに、私はまずマールさんに会いたいと思いますし、マールさんにとっても、私に会う事が休暇の過ごし方の優先選択事項になると良いと思っているだけです」
「はあ」
 …よくわからない。わからないけど、何か面白い気がする。

「わかりました。では前向きに検討しますわ」
「…!よろしくお願いいたします」
 互いに無表情で礼をし合う。
 それでもジョーンズにマールが何かこの状況を面白がっているのが伝わるし、マールにもジョーンズが喜んでいるのがわかっていた。

-----

 結局マールは、二か月王都でパトリシアに仕え、次の一か月は領地でジョーンズと過ごす、と言う結婚生活を送る事になる。

 パトリシアとアレンの子供たちと、マールとジョーンズの子供たちが揃うと領地屋敷はとても賑やかだ。
 マールとジョーンズも子供相手に無表情ではいられず、怒ったり笑ったり、思い掛けず表情豊かな人生を送る事となったのだ。
 


          ー 完 ー

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