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番外編5
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「ロード、私ね、ロードとアランと私と、三人で過ごす時間が本当に好きだったの」
ああ、眠りが浅くて夢を見ているのかな…?これベスちゃんが「アランと一緒に西国へ行く」と俺に言いに来てくれた時だよね。
「だからどちらとも恋人にならずにいたけれど、私…本当はアランを好きだったみたい」
「みたい?」
「いつの間にか、一番好きな花がオーキッドになっていたの。オーキッドはアランを表すのよ。何故だか理由はわからないけど」
ああ、亜蓮が蓮で亜蘭が蘭なんだよね。俺にはわかる。
ベスちゃんが本当はパティとアレンに男の子が生まれるまで、俺ともアランともくっつくつもりはなかった事もわかってるよ。パティにプレッシャーを掛けたくなかったんだよね?
ベスちゃんはパティのために小説を書いたり、本当はものすごく優しい子なんだって、俺もアランもちゃんと知ってるんだよ。
「だから私、アランと西国に行くわ。ロード…ごめんなさい」
「ベスちゃんは何も悪い事なんてしてないんだ、謝る事はないよ。俺はベスちゃんが幸せになってくれるなら、何にも文句はないんだ」
本当だよ。
俺は、運命が変わってしまった攻略対象者にも悪役令嬢にもいつか幸せになってもらいたいんだ。
ベスちゃんの事は本気で好きになったから、俺が幸せにしたかったけど、ベスちゃんがアランと居るのが幸せだと言うなら、それで良いんだよ。
だからそんな泣きそうな顔をしないで、笑って欲しいんだ。
-----
あー久しぶりにベスちゃんの夢見たなあ。
「フェアリ先生、寝不足ですか?」
机で伸びをした時、若い女性看護師に声を掛けられた。
「ああ…昨夜薬を調合してたからちょっとね」
「薬ですか?薬って薬剤師しか作っちゃ駄目なんじゃなかったですっけ?」
「俺、薬剤師の資格も持ってるから」
「すごいですね」
アランがメモってくれた薬、王都から取り寄せた材料がようやく届いたから昨夜調合してみたんだよね。
色々な成分の解熱剤を何種類か。それでも足りない材料があって作れない物もあったけど。
早速今日処方してみたけど、どれかが少しは効くと良いけど…
「昼休憩して来る」
ロードは机の上のカルテをトントンと整えて、看護師に渡すと椅子から立ち上がる。
「今から休憩ですか?今日も患者さんが多かったですもんね」
「そうだね」
もう夕方か。もう昼食はどうでも良いけど、あれから三週経ったから、ベアトリスに会えるかも知れないし。
この間シーツを畳んでいた所へ行ってみるかな。
廊下を歩いていると、後ろからザワッと人々が騒めくのが聞こえた。
ん?何だ?
「おーい、ロード!」
俺?
ロードが振り向くと、紫の髪の男性が手を振りながら近付いて来るのが見える。
「アラン!?」
「ロード~」
紫の髪の後ろから赤い髪の女性。
「ベスちゃんまで!!」
-----
「薬のメモにこの国では手に入れるのに時間がかかる材料が要るものがあったから、その薬を作って持って来たんだ」
廊下のベンチにエリザベスを挟んで三人で座り、アランはエリザベス越しに薬の入った袋をロードに差し出した。
「わざわざ持って来てくれたんだ?」
袋を受け取る。
「わざわざと言うか…俺は一応王位継承権はなくても王子だろ?よその国に住んでる時に未婚のまま子供が生まれたりしては不味いらしくて、婚姻の許可が出たから、届けをしに帰って来たんだ」
アランが顎を掻きながら言うと、エリザベスは頷いた。
「え!?子供!?」
「あ、まだよ。私たちにはまだできていないわ」
ロードが驚いて言うと、エリザベスが間髪入れずに言う。
「何だ。…ん?私たちにはまだ?」
「そうなの。私たちも聞いたばかりなんだけど、パトリシア様がご懐妊されたんですって」
「パティが…」
「まだ安定期ではないから公表はされてないの。でもそれもあってアランの婚姻許可が出たらしいわ」
パティに赤ちゃんが。
ああ…何だか嬉しい。
「じゃあアランとベスちゃんも早く王都へ立った方が良いよ。疫病が流行ってる地域へ長居しない方が」
「ああ、明日には出発する」
「ロード様」
廊下の向こうでシーツを乗せたワゴンを押すベアトリスが呟く。
「え?ベアトリス様?」
エリザベスが言う。
「ああ。ベアトリスは近くの修道院から医療奉仕に来てて」
そう言った時、ワゴンにもたれる様にしてベアトリスがしゃがみ込むのが目に入った。
「ベアトリス!?」
ロードがベアトリスに駆け寄ると、ベアトリスは床に膝をつけ、自分の身体を抱くようにして震えていた。
「ベアトリス寒いのか?」
顔色が悪い。
流行っている疫病は熱が出る前に強烈な寒気が来るのだ。
「……ロードさ…」
ベアトリスの肩に腕を回すと、ベアトリスが身体を預けるようにして、ロードの白衣の袖をきゅっと掴んだ。
「どうした?」
アランが立ち上がってこちらに来ようとするので手で制する。
「移るから来ないで。誰か医師か看護師を呼んで来てくれないか?」
「わかった。リジーもこちらへ」
「はい」
アランとエリザベスが立ち去ると、ロードは目を閉じて震えているベアトリスをギュッと抱きしめた。
「ロード、私ね、ロードとアランと私と、三人で過ごす時間が本当に好きだったの」
ああ、眠りが浅くて夢を見ているのかな…?これベスちゃんが「アランと一緒に西国へ行く」と俺に言いに来てくれた時だよね。
「だからどちらとも恋人にならずにいたけれど、私…本当はアランを好きだったみたい」
「みたい?」
「いつの間にか、一番好きな花がオーキッドになっていたの。オーキッドはアランを表すのよ。何故だか理由はわからないけど」
ああ、亜蓮が蓮で亜蘭が蘭なんだよね。俺にはわかる。
ベスちゃんが本当はパティとアレンに男の子が生まれるまで、俺ともアランともくっつくつもりはなかった事もわかってるよ。パティにプレッシャーを掛けたくなかったんだよね?
ベスちゃんはパティのために小説を書いたり、本当はものすごく優しい子なんだって、俺もアランもちゃんと知ってるんだよ。
「だから私、アランと西国に行くわ。ロード…ごめんなさい」
「ベスちゃんは何も悪い事なんてしてないんだ、謝る事はないよ。俺はベスちゃんが幸せになってくれるなら、何にも文句はないんだ」
本当だよ。
俺は、運命が変わってしまった攻略対象者にも悪役令嬢にもいつか幸せになってもらいたいんだ。
ベスちゃんの事は本気で好きになったから、俺が幸せにしたかったけど、ベスちゃんがアランと居るのが幸せだと言うなら、それで良いんだよ。
だからそんな泣きそうな顔をしないで、笑って欲しいんだ。
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あー久しぶりにベスちゃんの夢見たなあ。
「フェアリ先生、寝不足ですか?」
机で伸びをした時、若い女性看護師に声を掛けられた。
「ああ…昨夜薬を調合してたからちょっとね」
「薬ですか?薬って薬剤師しか作っちゃ駄目なんじゃなかったですっけ?」
「俺、薬剤師の資格も持ってるから」
「すごいですね」
アランがメモってくれた薬、王都から取り寄せた材料がようやく届いたから昨夜調合してみたんだよね。
色々な成分の解熱剤を何種類か。それでも足りない材料があって作れない物もあったけど。
早速今日処方してみたけど、どれかが少しは効くと良いけど…
「昼休憩して来る」
ロードは机の上のカルテをトントンと整えて、看護師に渡すと椅子から立ち上がる。
「今から休憩ですか?今日も患者さんが多かったですもんね」
「そうだね」
もう夕方か。もう昼食はどうでも良いけど、あれから三週経ったから、ベアトリスに会えるかも知れないし。
この間シーツを畳んでいた所へ行ってみるかな。
廊下を歩いていると、後ろからザワッと人々が騒めくのが聞こえた。
ん?何だ?
「おーい、ロード!」
俺?
ロードが振り向くと、紫の髪の男性が手を振りながら近付いて来るのが見える。
「アラン!?」
「ロード~」
紫の髪の後ろから赤い髪の女性。
「ベスちゃんまで!!」
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「薬のメモにこの国では手に入れるのに時間がかかる材料が要るものがあったから、その薬を作って持って来たんだ」
廊下のベンチにエリザベスを挟んで三人で座り、アランはエリザベス越しに薬の入った袋をロードに差し出した。
「わざわざ持って来てくれたんだ?」
袋を受け取る。
「わざわざと言うか…俺は一応王位継承権はなくても王子だろ?よその国に住んでる時に未婚のまま子供が生まれたりしては不味いらしくて、婚姻の許可が出たから、届けをしに帰って来たんだ」
アランが顎を掻きながら言うと、エリザベスは頷いた。
「え!?子供!?」
「あ、まだよ。私たちにはまだできていないわ」
ロードが驚いて言うと、エリザベスが間髪入れずに言う。
「何だ。…ん?私たちにはまだ?」
「そうなの。私たちも聞いたばかりなんだけど、パトリシア様がご懐妊されたんですって」
「パティが…」
「まだ安定期ではないから公表はされてないの。でもそれもあってアランの婚姻許可が出たらしいわ」
パティに赤ちゃんが。
ああ…何だか嬉しい。
「じゃあアランとベスちゃんも早く王都へ立った方が良いよ。疫病が流行ってる地域へ長居しない方が」
「ああ、明日には出発する」
「ロード様」
廊下の向こうでシーツを乗せたワゴンを押すベアトリスが呟く。
「え?ベアトリス様?」
エリザベスが言う。
「ああ。ベアトリスは近くの修道院から医療奉仕に来てて」
そう言った時、ワゴンにもたれる様にしてベアトリスがしゃがみ込むのが目に入った。
「ベアトリス!?」
ロードがベアトリスに駆け寄ると、ベアトリスは床に膝をつけ、自分の身体を抱くようにして震えていた。
「ベアトリス寒いのか?」
顔色が悪い。
流行っている疫病は熱が出る前に強烈な寒気が来るのだ。
「……ロードさ…」
ベアトリスの肩に腕を回すと、ベアトリスが身体を預けるようにして、ロードの白衣の袖をきゅっと掴んだ。
「どうした?」
アランが立ち上がってこちらに来ようとするので手で制する。
「移るから来ないで。誰か医師か看護師を呼んで来てくれないか?」
「わかった。リジーもこちらへ」
「はい」
アランとエリザベスが立ち去ると、ロードは目を閉じて震えているベアトリスをギュッと抱きしめた。
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