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番外編1
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「続編?」
エリザベスが目を見開くと、目の前に座った男性が頷く。
「同じ登場人物で続きでも良いし、まったく新しい話でも良いから、また連載してくれないかな?」
「あの登場人物は両想いになって結婚する事になった処で終わったから、もう完結だわ」
「じゃあ新作。とにかくまた書いて欲しいんだよ」
「…考えておくわ」
出版社のある建物を出ると、エリザベスは日傘を開いた。
あの物語は、パトリシア様は世間に思われている様な「性悪女」ではないし、アレン殿下も無責任で節操なしな方ではないと知らせたくて…男女を逆にして書いたけど、新作って…何を書けば良いのかしら?
通りを歩きながら考える。
主人公の双子の妹やその元婚約者を中心に物語を組み立てても良いけど…今度はアランや私の事だと思われるからやめた方が良いわね。
そもそも私、アランともロードとも恋人関係ではないし。
「リジー!こっちこっち」
車道を挟んだ通りの向こうからエリザベスを呼ぶ声がした。
「アラン」
帽子を被って眼鏡を掛けた男性が手を振っている。
髪と瞳を隠したアランだ。
アランは王位継承権を失くし薬学研究所に勤めているが、臣籍降下した公爵で第三王子である事には変わりないため、街中では王子とわからないよう変装している事が多いのだ。
「あ、待って。俺が渡るからリジーはそこに居て」
道路を渡ろうとしたエリザベスを手で制し、アランは馬車の行き交う道路を渡ってエリザベスの前に立った。
「出版社に行ったんだろ?早かったな」
「呼び出されたから何かと思ったら『新作を書け』ですって」
エリザベスとアランは並んで歩き出す。
「ああ…単行本が発売されて半年?だっけ。まだ売れてるらしいし、出版社としては次出したいよなあ」
「でも新作って何を書けば良いのかしらね」
「双子の妹と、姉の元婚約者の恋物語、書いてよ」
アランが目をキラキラさせてエリザベスを見る。
それはアランと私の恋物語って事よね?
「だめだめ。そこは姉の元婚約者と、姉に言い寄ってた恋敵の伯爵令息との恋でしょ」
エリザベスとアランの肩に後ろから手を置き、ピンクの髪の男性がニコニコとして声を掛けて来た。
「ロード」
エリザベスが振り向きながら名前を呼ぶと、ロードはますます笑顔になる。
「安易に妹とくっつくより話の展開が深まるよ?」
「安易じゃないだろ」
アランが不貞腐れた様に言った。
「もうその話は良いから。早く行きましょう」
エリザベスは自分の両側に立つ男二人を交互に見上げる。
「そうだな」
「時間がもったいないしね」
街角にあるカフェに三人で入ると、エリザベスの向かいの席にアランとロードが座る。
ロードが刑期を終えた後、三人はこうして定期的に会っている。短時間でお茶をしたり、夕食を共にしたり、アランが保養地へ行く時エリザベスとロードを呼んだりと、時間や場所は様々だ。
「今日は休みなの?二人とも」
紅茶を飲みながらエリザベスが言うと、ロードは頷いた。
「俺は休み。この春ようやく医療棟の医者になれて暫く休んでなかったからね」
「俺は半休だ。午前中は仕事だった」
アランはそう言うと、コホンと咳払いして姿勢を正した。
「アラン?」
「どうした?」
「俺な、西国へ行く事になったんだ」
「西国?」
エリザベスが首を傾げると、アランは「ああ」と頷く。
「西国には結構先進的な薬学の研究所があるから、今回この国から研究員を何名か派遣する事になったんだ」
「へえ」
「そこにアランが行く事になったの?」
「ああ。この国のためになるなら、俺は行って勉強したい」
真剣な表情で言うアラン。
「そうか。それにしても西国って遠いよな?」
「そうだな。海路と陸路で、片道二か月は掛かるな」
「二か月も…」
「いつから行くんだ?」
「来週には出発する」
「来週!?随分急なのね」
エリザベスが驚いて言うと、アランは苦笑いを浮かべる。
「それで、リジーとロードに言っておく事があるんだ」
「何?」
「何だ?」
アランはエリザベスの眼をまっすぐに見つめた。
「俺はリジーの結婚相手候補から、降りる」
「…!」
アランがそう言うと、エリザベスは息を飲んだ。
「アラン?どう言う事だ?」
ロードが隣に座るアランの方へ身体を向けると、アランは眉を顰めて薄く笑いながら言った。
「西国に、短くとも五年滞在するんだ。流石にそんなにリジーにもロードにも待って欲しいとは…言えない」
「続編?」
エリザベスが目を見開くと、目の前に座った男性が頷く。
「同じ登場人物で続きでも良いし、まったく新しい話でも良いから、また連載してくれないかな?」
「あの登場人物は両想いになって結婚する事になった処で終わったから、もう完結だわ」
「じゃあ新作。とにかくまた書いて欲しいんだよ」
「…考えておくわ」
出版社のある建物を出ると、エリザベスは日傘を開いた。
あの物語は、パトリシア様は世間に思われている様な「性悪女」ではないし、アレン殿下も無責任で節操なしな方ではないと知らせたくて…男女を逆にして書いたけど、新作って…何を書けば良いのかしら?
通りを歩きながら考える。
主人公の双子の妹やその元婚約者を中心に物語を組み立てても良いけど…今度はアランや私の事だと思われるからやめた方が良いわね。
そもそも私、アランともロードとも恋人関係ではないし。
「リジー!こっちこっち」
車道を挟んだ通りの向こうからエリザベスを呼ぶ声がした。
「アラン」
帽子を被って眼鏡を掛けた男性が手を振っている。
髪と瞳を隠したアランだ。
アランは王位継承権を失くし薬学研究所に勤めているが、臣籍降下した公爵で第三王子である事には変わりないため、街中では王子とわからないよう変装している事が多いのだ。
「あ、待って。俺が渡るからリジーはそこに居て」
道路を渡ろうとしたエリザベスを手で制し、アランは馬車の行き交う道路を渡ってエリザベスの前に立った。
「出版社に行ったんだろ?早かったな」
「呼び出されたから何かと思ったら『新作を書け』ですって」
エリザベスとアランは並んで歩き出す。
「ああ…単行本が発売されて半年?だっけ。まだ売れてるらしいし、出版社としては次出したいよなあ」
「でも新作って何を書けば良いのかしらね」
「双子の妹と、姉の元婚約者の恋物語、書いてよ」
アランが目をキラキラさせてエリザベスを見る。
それはアランと私の恋物語って事よね?
「だめだめ。そこは姉の元婚約者と、姉に言い寄ってた恋敵の伯爵令息との恋でしょ」
エリザベスとアランの肩に後ろから手を置き、ピンクの髪の男性がニコニコとして声を掛けて来た。
「ロード」
エリザベスが振り向きながら名前を呼ぶと、ロードはますます笑顔になる。
「安易に妹とくっつくより話の展開が深まるよ?」
「安易じゃないだろ」
アランが不貞腐れた様に言った。
「もうその話は良いから。早く行きましょう」
エリザベスは自分の両側に立つ男二人を交互に見上げる。
「そうだな」
「時間がもったいないしね」
街角にあるカフェに三人で入ると、エリザベスの向かいの席にアランとロードが座る。
ロードが刑期を終えた後、三人はこうして定期的に会っている。短時間でお茶をしたり、夕食を共にしたり、アランが保養地へ行く時エリザベスとロードを呼んだりと、時間や場所は様々だ。
「今日は休みなの?二人とも」
紅茶を飲みながらエリザベスが言うと、ロードは頷いた。
「俺は休み。この春ようやく医療棟の医者になれて暫く休んでなかったからね」
「俺は半休だ。午前中は仕事だった」
アランはそう言うと、コホンと咳払いして姿勢を正した。
「アラン?」
「どうした?」
「俺な、西国へ行く事になったんだ」
「西国?」
エリザベスが首を傾げると、アランは「ああ」と頷く。
「西国には結構先進的な薬学の研究所があるから、今回この国から研究員を何名か派遣する事になったんだ」
「へえ」
「そこにアランが行く事になったの?」
「ああ。この国のためになるなら、俺は行って勉強したい」
真剣な表情で言うアラン。
「そうか。それにしても西国って遠いよな?」
「そうだな。海路と陸路で、片道二か月は掛かるな」
「二か月も…」
「いつから行くんだ?」
「来週には出発する」
「来週!?随分急なのね」
エリザベスが驚いて言うと、アランは苦笑いを浮かべる。
「それで、リジーとロードに言っておく事があるんだ」
「何?」
「何だ?」
アランはエリザベスの眼をまっすぐに見つめた。
「俺はリジーの結婚相手候補から、降りる」
「…!」
アランがそう言うと、エリザベスは息を飲んだ。
「アラン?どう言う事だ?」
ロードが隣に座るアランの方へ身体を向けると、アランは眉を顰めて薄く笑いながら言った。
「西国に、短くとも五年滞在するんだ。流石にそんなにリジーにもロードにも待って欲しいとは…言えない」
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