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「お兄様、口元緩みすぎです」
 王宮の廊下を歩きながらパトリシアが呆れた様に言うと、フレデリックは自分の手で口を押さえる。
「顔が勝手にニヤけるんだ」
「…ジュリアナ様と仲直りできて良かったですね」
「まあね。ああ、そういえばジュリは卒業パーティーより早くロードへも気持ちは失くなっていたらしいぞ。俺は卒業パーティーが終わるまで気持ちは変わらないんだろうと思っていたから、ドレスは贈ったがエスコートはしなかったから…かわいそうな事をしてしまったな」
「そうなんですか?」

 先日、ジュリアナは会いに来たフレデリックへ
「フレデリック様にエスコートされない舞踏会や卒業パーティーは婚約してから初めてで…淋しかったですけど、アレン殿下がエリザベス様との婚約破棄を宣言されて、すごく驚いて。でもそこで『婚約破棄』という物が急に現実的になって……とても怖くなったんです」
 と話した。
 ロードを好きになったジュリアナをフレデリックは許してくれないのではないか。浮気者だと愛想を尽かされて、嫌われてしまったのでは?
 今更ジュリアナがフレデリックを好きだと言っても、ロードと結ばれなかったから仕方なく婚約者にそう言っているだけだと信じてもらえないかも知れない。
「信じていただけないかも知れないし、今更都合が良いと思われるかも知れませんけど…私、フレデリック様が本当に好きです」
 そうフレデリックに告白したジュリアナを、フレデリックは強く抱きしめた。

「パティ」
 フレデリックとパトリシアがレスターの私室に入ると、待っていたアレンがパトリシアに歩み寄る。
「アレン。俺も居るぞ」
 フレデリックが悪戯っぽく言う。
「フレデリック兄さん、いらっしゃい」
 アレンは苦笑いしながら言った。
「アレンは叶わぬ筈だった長年の想いが叶って、今はパトリシアしか眼に入らない状態なんだ。きっと結婚するまでずっとこんな感じだろうが許してやってくれ」
 ソファに座ったレスターが真顔で言う。
「な…」
 頬を染めたパトリシアの肩に手を置いたアレンも真顔で頷いた。

 ロードを好きな気持ちは夏期の始業式での事件の後、ゆっくりと失くなって行った、とジュリアナは言ったそうだ。
「それはゲームではあり得ないので、ロードがシナリオを逸脱したせいで登場人物の感情もシナリオを逸脱したと言う事なのかも知れませんね」
 アレンがそう言うと、レスターも自分の顎に手を当てながら言う。
「そうだな。俺も攻略対象者だが、始業式での事件以来ロードへの特別な感情は失くなったな。薬草畑の事件の時にはまだ有ったが」
「アランは最初にロードと会った時に少し惹かれただけで、恋愛感情を抱く事はなかったようです。これはロードの前々世がアランだったので、無意識の内にロードの方がと恋愛関係になるのを拒否したのかも知れませんし、アランに対しパティの婚約者としての敵対心があったからかも知れません」
 アレンの言葉にフレデリックは「なるほどな」と頷き、レスターはため息混じりに言った。
「いずれにせよ、ゲームは終わって、影響はあれど、登場人物たちも収まる処に収まってきていると言う事か」

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「は?俺にカークランド家のフットマンを引き取れとは、どういう事なんだ?レスター」
「今日フレデリックを呼んだのは、それを頼むためだ」
「ミッチェル様の家の?」
 パトリシアが言うと、レスターは頷く。
「そのフットマン…ああ、執事見習いかも知れんが、ミッチェルに俺が男色家で、本当に好きなのはロードだと吹き込んだのはその男だ」
「本当か?」
 フレデリックが眉を顰めて言う。
「証拠はないが間違いない」
「それで兄上はミッチェル嬢の側からその男を引き離そうと?」
 そうアレンが言うと、レスターは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「当たり前だ。そいつは間違いなくミッチェルに懸想している。そんな奴を側に置いておけるか?ミッチェルがそいつに靡くとは露ほども思ってはいないがな」
「まあ…婚約者の側にそんな男がいるのが嫌なのはわかるが…ミッチェル様が王宮に上がるまでの辛抱じゃないか」
 少し呆れた様にフレデリックが言うと、レスターはフレデリックをジロッと睨む。
「じゃあフレデリックならジュリアナ嬢の家にそんな男が居ても気にならないのか?ジュリアナ嬢が心変わりしなくても、万一にでも婚儀の前に実力行使に出られたらどうするつもりだ?」
 レスターの言葉にフレデリックはひゅっと息を飲んだ。
「アレンならどうする?もしデンゼル家にパトリシアに懸想する男が居たとしたら」
「抹殺します」
「アレン!?」
 アレンは即答し、パトリシアが驚きの声を上げる。
「そうだろう?抹殺しないだけ俺は優しい」
 うんうんと頷くレスター。
「えええ~?」
 パトリシアが困惑していると、フレデリックが膝に手を置いて
「わかった。そいつはデンゼル家の領地屋敷の執事にする」
 と言った。







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