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「…その話、ゆっくり聞かせてくれるかな?」
 ロードはエリザベスに笑顔を向けて言う。
「……」
 エリザベスはゆっくりと頷いた。
「この部屋、人払いしてるから侍女とか近くにいなくてさ。お茶を用意させるから、ちょっと待ってて」
 ロードはそう言って立ち上がると開けたままの扉から部屋を出て行く。
 部屋に残されたエリザベスは大きくため息を吐いて、膝の上の手を握った。

 ロードが戻って来て、続いて侍女がワゴンを押して入って来る。
 お茶とお菓子をテーブルに置いて侍女が出て行くと、ロードは
「さて、パティを傷物にしろって、乱暴…端的に言えば強姦しろって意味?」
 とにっこりと笑って言った。

「ロード様が攫ったパトリシア様を助けたのは、アレン殿下ですわ」
 エリザベスは自分の手を握り合わせて言う。
「……それで?」
「パトリシア様の婚約者はアラン殿下ではないですか。…今は婚約解消されましたけど、あの時はまだそうでしたわ」
「そうだね」
「なのにアレン殿下は…パトリシア様を助けに行かれたんです。アラン殿下もその時には目覚めていて、助けに行く事ができたにも関わらず、敢えてアレン殿下が」
「そうだね」
「それで、実はアレン殿下は昔からパトリシア様を好きだったとか、だから私との婚約を解消したいとか…これは私に対する裏切りではありませんか?」
「そうだね」
「だから…」
 握り合わせた手にますますギュッと力を入れた。
「パティを辱めればアレン殿下の気持ちが冷めると思ったの?」
 笑顔のまま、ロードは言う。
「冷めるかどうかは重要ではありませんわ」
「どう言う事?ベスちゃんとの婚約解消を思い留まるのが目的なんじゃないの?」
「…私は、パトリシア様を許せないんです。パトリシア様は…アラン殿下も、私も、裏切ったのよ」
「……」
「汚されて、アレン殿下にもアラン殿下にも顔向けできなくなれば良い。それでアレン殿下のお気持ちが冷めてやはり私と婚姻したいと仰っても今更願い下げですけど」
 エリザベスは悪念を滲ませた表情で言う。
 ああ…この表情、ゲームで見たな。ロードを陥れようとする前にこんな表情をしてたっけ。
「じゃあベスちゃんはアレン殿下との婚約解消には応じるつもりでいるの?」
「もちろんですわ。アレン殿下は私を『要らない』と仰ったんです。そんな人に縋り付くような私ではありません」
 ツンッと顔を上げるエリザベス。
「婚約解消したら、その後は?アレン殿下から解消を言い出したんだから、王家の責任で良い縁談を世話して貰えるんじゃないの?」
「良い縁談?」
 エリザベスは頬を引き攣らせる。
 あれ?このワード地雷だったのかな?
「第二王子妃より『良い縁談』なんて、王太子妃くらいしかありませんわ」
「それはそうだね」
 自分が婚約解消されて、それまでの相手より格下に嫁ぐなんてプライドが許さないって事か。
 ものすごく悔しそうな表情なのがベスちゃんらしいな。

「それで、俺?」
「…ロード様は、でパトリシア様を攫ったんでしょう?ですから、今度こそ思いを遂げる事ができれば…」
「ああ…だから俺なら喜んでこの話に乗るだろうと思ったのか」
「パトリシア様も見ず知らずの輩よりは自分を思っている人の方が…幾分かは…」
 レイプされるのに「相手によって幾分かはマシ」とかないと思うけどね。ベスちゃんなりの気遣いなのか?俺にとってもパティにとっても優しいんだか酷いんだか。

「とにかく、私はパトリシア様がのうのうと幸せになろうとしているのが許せないんですわ」

 怒気を含んだ声でエリザベスは言う。ロードはピクリと肩を揺らした。

 …なるほど。

 ロードはソファから立ち上がると、向かい側に座るエリザベスの前に立った。
「…ロード様?」
 かがみ込んで、エリザベスの頭を挟む様に両手をソファの背に手を乗せた。
 顔を突き合わせる様に、グイッと顔をエリザベスに近付ける。
「なっ!何を!?」
「ベスちゃん。俺はね」
 ロードは唇が触れ合う程エリザベスに顔を寄せると、にっこりと笑った。
「パティが幸せになるのが見たいんだよ」
「…え?」
 困惑した表情のエリザベス。

「パティの幸せを邪魔するなら、俺はベスちゃんを許さない」

 ロードはにっこりと笑ったまま、エリザベスをソファに押し倒した。





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