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「ライネル…」
「アラン殿下。ああ、先程のアラン殿下とアレン殿下の遣り取りを外から見ていたので、誤魔化さなくて大丈夫です」
「ああ、いや…」
アランは困惑しながら近付いて来るライネルを見る。ライネルは目が赤く、少し頬が痩けていた。
「…あの草をロードが刈り取ったのを知っていたので、これ以上何かをしでかさない様に忠告しておこうかと思って来たんです。…こんなに早くこんな大事をしでかすとは思っていませんでしたが」
ライネルは「はあ」とため息を吐く。
「ライネル、お前…」
薬草畑を作った俺を恨んでいるんじゃないのか?
「話は後にしましょう。睡眠薬で眠らせて催淫剤が切れるまでの時間をやり過ごすのはどうですか?」
「そうだな」
これだけの人数だ、薬が切れるまでの時間にも個人差があるだろう。万一にでも、早く身体が動く様になった者が他の者を襲うような事があってはならない。
「睡眠薬なら寮の俺の部屋にある。ただ量が…それに経口でなく吸入でどこまで効くか」
「何もしないよりは、とにかくやってみましょう」
アランが寮へ行く間にライネルは、大きな扇風機の様な羽根で講堂へと風を流す装置の空気の取り込み口に向かう。
男子生徒が一人倒れていて、石造りのボウルの様な器に燃え尽きた草の灰があった。
ロードはこの生徒にあの薬を使ったんだな。と言う事は眠っているだけだから心配ないか。
ライネルは男子生徒を横目に見ながら器を手に取る。
燃え尽きてしまえばただの灰だ。
アラン殿下は、俺がアラン殿下を恨んでいるんじゃないかと思っているようだが、それは違う。
アラン殿下と薬草畑の手入れをするのは嬉しかったし、珍しい薬草を手に入れて育てるのも本当に楽しかったから。
それにアラン殿下は自らも危険なのを知っていてビビアンを助けようとしてくれた。結果は間に合わなかったが、あのままでは倒れたビビアンに何日も誰も近付けない状態になっていただろう。
俺は、ロードに会って、好きになって、それが恋だと思った。
ロードに嫌われたくなくて、好きになって欲しくて、違法な植物を輸入した。
そしてビビアンを遠ざけて…ビビアンの気持ちなど全く考えなかった。
だから、俺が恨むとすれば、俺自身だ。
「ライネル」
アランの声がして、紙袋と、舟形の薬研を持ったアランがライネルの隣に座る。
「粉薬だが更に細かくして空気に乗せたい」
「はい」
アランは紙袋から出した薬包を開き、薬研に入れ、薬研車でゴリゴリと擦った。
この方はきっと事情聴取でも自分はシミヒプノとは知らなかったとは言わずに、俺やロードと一緒に罪を背負おうとするんだろうな。
アランの真剣な表情を見て、扇風機を回す準備をしながらライネルはそう思った。
-----
「まあまあ上手く行きましたかね?」
「そうだな。催淫剤の効き目が切れるまであと十分、できればミッチェル嬢とエリザベス嬢を別室へ隔離したいんだが…」
風の出口から近い位置の生徒は睡眠薬が効き、苦しそうな呻き声が安らかな寝息に変わった。遠い生徒には水に溶いた睡眠薬を少しずつ飲ませた。睡眠薬の実効時間は短いだろうが、おそらく催淫剤の効き目が切れるまでは眠ったままでいられるだろう。
「ミッチェル・カークランド様とエリザベス・ボイル様ですか?」
講堂の裏の水場で、アランとライネルは使用した吸口を洗いながら話している。
「ああ、兄上とアレンの婚約者をあそこで眠らせておくのはさすがに忍びない」
「そうですね…遠くまでは無理ですが、せめて講堂の控室に運びますか?」
「そうだな」
「アレン!」
呼ぶ声に振り向くと、レスターが侍従と一緒に駆けて来た。
「兄上」
「お、王太子殿下!?」
ライネルが慌てて跪く。
「緊急だ。畏まらなくて良い。アレン、学園で生徒が皆倒れたと聞いたが、何があった?ミッチェルは?無事なのか?それにアランが目覚めて制服に着替えて出て行ったらしい。会ったか?」
冷静な表情でも慌てているらしいレスターが矢継ぎ早に言う。
「兄上、俺はアランです」
「は?」
「これは付け毛です」
ポカンとするレスターにアランは後ろで結んだ髪を示す。
「アランなのか?」
「はい。兄上、良い所へ来てくださいました。ミッチェル嬢はお任せします。ライネル、兄上をミッチェル嬢の所へお連れしてくれ」
「はい」
「?」
「詳しくは後ほど。俺はエリザベス嬢を…」
ライネルがレスターの侍従へ事情を話しながら講堂の入り口へと歩き出すと、レスターは先に行くように示すとアランの前に立つ。
「兄上?」
「…アラン、後で一発殴る」
レスターは拳を握って言う。
「はい」
俺は罪を犯した。兄上にもご迷惑をお掛けしたし、殴られて当然だろう。
「しかし…目が覚めて良かった」
レスターは、アレンの胸を拳でトンと突いて、踵を返した。
「ライネル…」
「アラン殿下。ああ、先程のアラン殿下とアレン殿下の遣り取りを外から見ていたので、誤魔化さなくて大丈夫です」
「ああ、いや…」
アランは困惑しながら近付いて来るライネルを見る。ライネルは目が赤く、少し頬が痩けていた。
「…あの草をロードが刈り取ったのを知っていたので、これ以上何かをしでかさない様に忠告しておこうかと思って来たんです。…こんなに早くこんな大事をしでかすとは思っていませんでしたが」
ライネルは「はあ」とため息を吐く。
「ライネル、お前…」
薬草畑を作った俺を恨んでいるんじゃないのか?
「話は後にしましょう。睡眠薬で眠らせて催淫剤が切れるまでの時間をやり過ごすのはどうですか?」
「そうだな」
これだけの人数だ、薬が切れるまでの時間にも個人差があるだろう。万一にでも、早く身体が動く様になった者が他の者を襲うような事があってはならない。
「睡眠薬なら寮の俺の部屋にある。ただ量が…それに経口でなく吸入でどこまで効くか」
「何もしないよりは、とにかくやってみましょう」
アランが寮へ行く間にライネルは、大きな扇風機の様な羽根で講堂へと風を流す装置の空気の取り込み口に向かう。
男子生徒が一人倒れていて、石造りのボウルの様な器に燃え尽きた草の灰があった。
ロードはこの生徒にあの薬を使ったんだな。と言う事は眠っているだけだから心配ないか。
ライネルは男子生徒を横目に見ながら器を手に取る。
燃え尽きてしまえばただの灰だ。
アラン殿下は、俺がアラン殿下を恨んでいるんじゃないかと思っているようだが、それは違う。
アラン殿下と薬草畑の手入れをするのは嬉しかったし、珍しい薬草を手に入れて育てるのも本当に楽しかったから。
それにアラン殿下は自らも危険なのを知っていてビビアンを助けようとしてくれた。結果は間に合わなかったが、あのままでは倒れたビビアンに何日も誰も近付けない状態になっていただろう。
俺は、ロードに会って、好きになって、それが恋だと思った。
ロードに嫌われたくなくて、好きになって欲しくて、違法な植物を輸入した。
そしてビビアンを遠ざけて…ビビアンの気持ちなど全く考えなかった。
だから、俺が恨むとすれば、俺自身だ。
「ライネル」
アランの声がして、紙袋と、舟形の薬研を持ったアランがライネルの隣に座る。
「粉薬だが更に細かくして空気に乗せたい」
「はい」
アランは紙袋から出した薬包を開き、薬研に入れ、薬研車でゴリゴリと擦った。
この方はきっと事情聴取でも自分はシミヒプノとは知らなかったとは言わずに、俺やロードと一緒に罪を背負おうとするんだろうな。
アランの真剣な表情を見て、扇風機を回す準備をしながらライネルはそう思った。
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「まあまあ上手く行きましたかね?」
「そうだな。催淫剤の効き目が切れるまであと十分、できればミッチェル嬢とエリザベス嬢を別室へ隔離したいんだが…」
風の出口から近い位置の生徒は睡眠薬が効き、苦しそうな呻き声が安らかな寝息に変わった。遠い生徒には水に溶いた睡眠薬を少しずつ飲ませた。睡眠薬の実効時間は短いだろうが、おそらく催淫剤の効き目が切れるまでは眠ったままでいられるだろう。
「ミッチェル・カークランド様とエリザベス・ボイル様ですか?」
講堂の裏の水場で、アランとライネルは使用した吸口を洗いながら話している。
「ああ、兄上とアレンの婚約者をあそこで眠らせておくのはさすがに忍びない」
「そうですね…遠くまでは無理ですが、せめて講堂の控室に運びますか?」
「そうだな」
「アレン!」
呼ぶ声に振り向くと、レスターが侍従と一緒に駆けて来た。
「兄上」
「お、王太子殿下!?」
ライネルが慌てて跪く。
「緊急だ。畏まらなくて良い。アレン、学園で生徒が皆倒れたと聞いたが、何があった?ミッチェルは?無事なのか?それにアランが目覚めて制服に着替えて出て行ったらしい。会ったか?」
冷静な表情でも慌てているらしいレスターが矢継ぎ早に言う。
「兄上、俺はアランです」
「は?」
「これは付け毛です」
ポカンとするレスターにアランは後ろで結んだ髪を示す。
「アランなのか?」
「はい。兄上、良い所へ来てくださいました。ミッチェル嬢はお任せします。ライネル、兄上をミッチェル嬢の所へお連れしてくれ」
「はい」
「?」
「詳しくは後ほど。俺はエリザベス嬢を…」
ライネルがレスターの侍従へ事情を話しながら講堂の入り口へと歩き出すと、レスターは先に行くように示すとアランの前に立つ。
「兄上?」
「…アラン、後で一発殴る」
レスターは拳を握って言う。
「はい」
俺は罪を犯した。兄上にもご迷惑をお掛けしたし、殴られて当然だろう。
「しかし…目が覚めて良かった」
レスターは、アレンの胸を拳でトンと突いて、踵を返した。
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