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「パット、今日ロードがウチに来る」
 朝食を摂りながらフレデリックが言った。
「え?ロード様が?」
「ああ。先日レスターの所で会った時に約束したんだ」
 ロード様は、私がアランと一緒に予定より早く保養地から戻ったの、当然知ってるわよね?
 だとすると、今日ウチに来るのは、私が家に居るから?
 パトリシアはロードにキスマークを付けられた首筋に触れる。もう痕はないけど…
「なあパット、アレンの話によれば、俺もパットもロードにとっては言わば恋敵の『悪役令嬢』なんだろ?ロードがレスターに近付こうとするのはレスターが『攻略対象者』だからわかるが…何故ロードは俺たちにも近付こうとするんだろうな?」
「さあ…本当に何でなんですかね?」
 二人で首を傾げた。

 フレデリックの後に付いてデンゼル家の廊下を歩きながら
「パトリシアちゃんはお出掛けでしたっけ」
 とロードは言う。
「ああ。友人と約束があるとか」
「そうなんですか」
 俺が訪れる事を予告すればパトリシアちゃんが留守にするのは想定内。会いたかったけど、警戒されてるのは仕方ないしね。
 視線だけでキョロキョロと周りを見る。
 この扉がパトリシアちゃんの部屋。フレデリックの部屋はこの奥。
「俺の部屋はこの奥だ」
 フレデリックが廊下の奥を指差す。
 だよね。笑って頷く。

「…懐かしいなぁ」
 ロードは極小さな声で呟いた。

-----

「ない」
 ライネルは自分の机の引き出しを探り、呟く。
 そんな筈は…

 バサバサ。
 引き出しを引き抜き、中身を床にぶち撒けた。
 床に書類を広げながら中を確かめて行き、一通り確認した後で絶望的な表情を浮かべた。
「やっぱり…ない」
 極秘で仕入れた種と苗の明細と、が見当たらない。
 あの薬は、アラン殿下とライネルとで面白半分で作った物だ。
 催眠と麻酔の併さったような薬で、飲んだ人は麻酔にかかった様に頭がぼうっとし、最終的には意識を失うが、意識のある間は自由に身体が動く。
 周りの人間が、その薬を飲んだ人を立たせたり座らせたり歩かせたり、好きに動かす事すらできる。
 試しにライネルが飲んでみた時には、アランに連れられて寮の部屋から玄関まで歩く事ができた。
 ただ、資格のないアランや自分たちが「薬を作る」のは違法行為だ。五包できたその薬は、ライネルが一包を試し、残り四包は寮のライネルの部屋で保管していた。
 夏季休暇に入る時に家に持って帰った時には確かに薬包紙の包みは四つあったのに、今は一つしか包みがない。
 ライネルはその一つ残った薬包紙を開く。その中にある筈の粉末は無く、粉がほんの少し残り、そこに薄茶色の粉末があった事を示していた。

「ロードが…?」
 この薬について知っているのはアランと自分以外にはロードしかいない。
 そして夏季休暇になってからこの部屋を訪れたのもロードしかいない。
「もしかして、舞踏会の時に使ったのか?」
 舞踏会でアレンがパトリシアを探してアランに声を掛けた時、その前にパトリシアはロードとダンスをしていた。
 アレンはその後パトリシアを見つけたと言っていたし、パトリシアに何かあった様子でもなかったが…もしかしてロードはパトリシアにこの薬を飲ませて効き目を確認したのかも。

 もしかして、ロードはこの薬と、外国からあの薬草を仕入れるために…俺と関係を持ったのか?

 生徒会のサポートメンバーになってから、アラン殿下に「せっかく貿易商の跡取りが役員なんだから、珍しい薬とか取り寄せてもらえば良いのに」と言い出したのはロードだ。
 さすがに薬を取り寄せるのは不味いだろうと言うと、じゃあ薬草やハーブの種とか苗とかを仕入れて育ててみるのは?と提案したのもロードだった。
 アラン殿下には内緒で仕入れた種を育てて「アラン殿下にバレそうになったから早々に刈り取ったよ」と笑っていた。
 あの草は乾燥させてから使う物。もしかしたら、ロードは刈り取った物を使える状態にしているかも知れない。

 もう一種類、ライネルとロードが、アランには内緒で仕入れて育てている植物がある。
 厳密に言えばアランが育てていると思っている植物ヒプティとは、よく似ているが違う植物シミヒプノだ。
 どちらも国内にはない植物で、よく図鑑や薬学書に載っているヒプティと同じ様なギザギザの葉や茎を持ち、同じ様な実が生るシミヒプノだが、ヒプティとは色が少し違う、らしい。
 どちらとも実際に見た事がなければ、いやあったとしても見分けるのが非常に難しいと言われている植物なのだ。
「シミヒプノもそろそろ実が生る。あれもロードは利用するつもりなんじゃ…」
 とにかく、ロードに会いに行こう。
 ライネルは空の薬包紙をくしゃりと握り潰して立ち上がる。

 廊下へ出るとコーンウェル家の家政婦が駆け寄って来た。
「坊っちゃん!ビビアンさんが…」
 慌てた様子でライネルの腕を掴んだ。

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