上 下
26 / 79

25

しおりを挟む
25

 ビビアンはライネルの居ない部屋へと入り、机の引き出しの奥から仕入れの明細を探し出した。
「これだわ」
 ライネルは、アランとロードに頼まれて外国にしかない薬草の種や苗を仕入れている。
 アラン殿下はともかく、ロードあの男がどんな薬草をライネルに頼んだのかが気になる。
「こんな奥に隠してるんだもの、きっと普通の薬草じゃないんだわ」
 ビビアンの幼なじみで恋人のライネルは、生徒会に入ってから変わってしまった。よそよそしく、ビビアンは疎まれているとさえ感じてしまう。
 生徒会に入ってから…?ううん。ロードと出会ってからよ。
 最初はアラン殿下とよく一緒に居ると思ってたけど、アラン殿下とは学園の薬草畑の世話を一緒にしてるだけみたいで。ライネルが寮で頻繁に会っていたのはロードで…

 男同士なのにライネルはロードと…あんな事…
 
 ビビアンは机の奥に白紙を押し込み、一見すると元通り、そこにあった明細が失くなっている事に気付かれないようにすると、取り出したそれを鞄に入れて立ち上がった。

「あら、ビビアンさん、帰るんですか?」
 廊下で家政婦と出会う。
「ええ。ライネルもまだ戻らないみたいだし。留守に押し掛けたなんて知られたら鬱陶しがられるかも知らないからライネルには私が来ていた事、内緒にしてくれる?」
 ビビアンはニッコリと笑って言った。

-----

 湖の側の保養地、レスターが王都に戻った後、入れ替わりで避暑に来ているアレンとアラン。
「あ、アレン、そう言えば学園の薬草畑でロードに会ったぞ」
 昼食を終え、それぞれ寛いでいた時、アランが言った。
「は?いつだ?」
「えーと、十日前かな」
「もっと早く言えよ」
「忘れてたんだ。ここへ来るために学園の薬草畑の世話当番をライネルに変わってもらったから負担掛けて悪いな~と思ってたら、そう言えばロードもライネルに変わってもらってたな、と思い出した」
 アランは見ていた本を閉じて言う。
「ちゃんと『パティが世話になったな』って言ったぞ」
「尊大に言ったか?ロードはどんな顔をしてた?」
 アレンも手にしていた本を閉じた。
 アランは自分の顎を上げる。
「こうして言ったぞ。ロードは真剣な顔をしてたな」
「そうか…」
「ロードにちゃんと言えたら、何故こんな事言わせたか教えてくれるんだろう?」
 ゲームの事、ヒロインの事、ロードが攻略対象者や悪役令嬢に手を出している事、兄上やフレデリック兄さんにも邪な思いを持って近付いているだろうし、パトリシアを舞踏会から連れ出した事…どう話せば良いだろうか。

「アレン殿下、アラン殿下、エリザベス様とパトリシア様がご到着されました」
 侍従のジェイがそう言って部屋に入って来る。
「あ、じゃあこの話はまたな」
 アランがソファから立ち上がる。
「ああ」
 アレンも立ち上がり、アランに続いて二人を出迎えるために部屋を出た。

 アランと並んで廊下を歩きながらアレンはアランに話し掛ける。
「アラン、言っておいたように…」
「ああ。『なるべく別行動』だろ?わかってるって。でも今までは四人でっていつも言ってたのに、最近別々が多いな。何でだ?」
 アランが不思議そうに言う。
「来春には俺たちが学園を卒業して、エリザベスと俺の婚儀の日取りなども決まってくるだろうし、パトリシアが卒業するまでの間にアランとの婚儀の話も具体的になって来るだろうから…」
 慣れておいた方が良いんだ。
 パトリシアがアランと二人で居るのを目にする事に。

「アレン殿下」
「遠くまでよく来たなエリザベス」
「いいえ。毎年ここにご招待いただくの、楽しみにしておりますから」
 にこやかに笑うエリザベスの手を取りながら、視線の端にパトリシアとアランの姿を写す。

「学園の薬草畑が気になって今年は行かないって言うのかと思ってたわ」
 膝下丈のワンピースにショートブーツのパトリシア。ああ、ブーツは茶色より白の方が夏らしくてパトリシアに似合うのにな。
 アレンは心の隅でそう思う。
「実は俺も少しそう思った」
「やっぱりね」
 笑い合うパトリシアとアラン。

「行こうか。疲れただろうから夕食まではゆっくりしていると良い」
 アレンはそう言うと、エリザベスに笑い掛けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝み屋一家の飯島さん。

創作屋
恋愛
水島楓はコンビニでアルバイトをする、 女子大学生。とある日、大学内で妙な噂を耳にする。それは俗にいう、都市伝説。 「コツコツさん」。楓は、このコツコツさんに心当たりがあった。アルバイトの帰り後ろからコツコツと音がする。毎日音は大きくなる。 そんなある日、アルバイト先のコンビニに 拝み屋の男、飯島がやってくる。 この事件をきっかけに 怪しくも美しい、そして残念な、 変人拝み屋「飯島」によって 楓は淫靡で悍ましい世界へと 引きずりこまれていく。 怪談×サイコデレ ⚠︎多少のグロ、性的描写がございます。 性的描写には*。グロには⚠︎。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

私、異世界で魔王に溺愛されてます

優羅
恋愛
気づくと知らない森の中にいた凛音 そこで出会ったのはモンスターでも、冒険者でもなく、魔王でした! イケメン嫌いの凛音が魔王城で、イケメン魔王とその他大勢に溺愛をされるお話です Rは保険です 亀より遅い更新ですが、気長に付き合って頂けると嬉しいです ※エロはありませんがキス等の愛情表現があります ※文脈が変だったり、誤字や脱字も多いいと思うので、気軽にご意見下さい

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...