転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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 冬期が始まった。
 卒業パーティーまではあと三カ月程だ。
「リザ、食堂行かないの?」
 午前の授業が終わり、教室を出ようとしたリザにステラが声を掛けた。
「うん。ジェイクと二人で行って来て」
「お昼食べないの?」
「うん…一食くらい抜いても平気でしょ」
「私は平気じゃないわ!」
 キッパリとステラが言い切ると、ステラの後ろでジェイクが「ぶふっ」と吹き出した。
「ジェイク?何か?」
 ステラが振り向いてジェイクを睨む。
「いや…俺が食堂で持ち出せる物買って行くから、二人は中庭のベンチに行ってなよ」
「ありがとうジェイク」

「リザが食堂へ行きたくないのは、ロイド殿下とローズさんがいるから?」
 廊下を歩きながらステラが言う。
 リザは首を傾げながら
「うーん。まあ…周りに噂されるのも面倒だしね」
 と言う。
 食堂に行けば、ロイドがローズが一緒にいるのだ。
 楽しそうに話すローズと、無表情のロイド。
「正直、見たくはないし」
「そうよね」
「とりあえず、私は国外追放されたくないから、二人には近付かない事にしたの」

-----

「リザ」
 図書室で本を読んでいたリザは、自分を呼ぶ男性の声がして顔を上げた。
「え?レイモンド?」
「リザ、久しぶり」
 レイモンドはリザを見て微笑んだ。

「いつ帰って来たの?冬期から復学?」
 図書室を出たリザとレイモンドは並んで廊下を歩く。
 レイモンドは公爵家の嫡男で、リザの兄の友人だ。リザと兄は三歳離れているので、兄はもう学園を卒業しているが、レイモンドは学園を休学し、他国へ留学していたのでまだ学園を卒業していない。
「そう。父上から『いい加減に卒業しろ』って言われたから、卒業に間に合うように帰って来たんだ」
「そうなのね。じゃあすぐに卒業しちゃうのね」
「そうだな」
「レイモンドが帰って来るなんて、兄様何も言ってなかったわ」
「リザ、何か大変だったんだろ?だから口止めしてた」
「ああ~」
 リザは殺害未遂のせいで、休暇は家から一歩も出ていなかったのだ。
「こうやって突然会って驚かせるのも楽しいしな」
 レイモンドは悪戯っぽく笑った。

 翌日、リザはレイモンドを伴って、中庭にあるテーブルセットで待っているステラとジェイクの元に行く。
「兄様の友達のレイモンドよ。二年間留学してたんだけど、この間復学したの。同級生はもう卒業してて知り合いがいないんで、お昼一緒に食べようと思って。良いかな?」
「レイモンド・ウィルフィスです。よろしく」
「ステラ・パーカーです。はじめまして。歓迎しますわ」
「ジェイク・モーガンです。よろしくお願いします」
「リザ・クロフォードです」
「「「知ってる」」」
 三人の声が重なって、笑い声が溢れた。

 その様子を二階の窓からロイドが見ていた。
 レイモンド・ウィルフィスか…
 ウィルフィス公爵家が進歩的な家柄なのは広く知られているが、嫡男が留学をする事を許すとは相当だ。しかも数カ月ではなく二年間も。何ヵ国も。
 幼い頃、王子や王女の遊び相手として歳の近い貴族令息令嬢が王宮に出入りしていた。その中にレイモンドやオリー、クリストファーもいたので、ロイドはレイモンドを知っていた。

 リザが楽しそうに笑っている。
 …この光景を遠くから見ていられたら、それで。

「ロイド殿下!」
 廊下の向こうからローズが駆け寄ってくる。
「早く食堂に行きましょう」
 ロイドの腕に絡みつくように腕を組んで来る。
 マークとゴヴァンは拘禁され、クリストファーは最近ローズと距離を置いている。そんな状況でも、ローズは何事もなかったかのような振る舞いだ。
 ロイドはそんなローズが恐ろしかった。
 ローズにとって、自分ローズ以外はゲームのキャラクターに過ぎないのだ。ロイドでさえもあくまで「ローズの一推し」のキャラクターであり、生身の人間という認識は持っていないと感じる。
 だからこそ、自分にとって都合が悪いと思えば、今度こそリザの命を奪ってしまう。
 俺さえ、ローズの思い通りに動けば、リザは国外追放になる事はあっても、殺されてしまう事はないんだ。
 リザの、リサコの、青白い顔が目蓋に浮かぶ。
 二度と俺のせいであんな目には合わせない。
「殿下?」
 ローズが上目遣いにロイドを見る。
「…行こう」
「はい!」
 ロイドは視線の端に楽しそうなリザを写しながら歩き出した。

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