19 / 42
18
しおりを挟む
18
「それで、ここにリザ嬢が来ていないのか」
休日に、リザはクリストファーを伴って王宮に来た。ロイドに事情を説明し、サイモンに取次いでもらう。
ロイドとクリストファーがサイモンの執務室に行くのを、リザは応接室から見送った。サイモンにリザを憎らしいと思う気持ちがあるのなら、会わない方が良いだろうと考えたのだ。
「リザ嬢は優しい子だな、ロイド」
「ええ」
「何故ですか?」
クリストファーがそう問うと、サイモンは言った。
「リザ嬢は憎らしい相手と会っても顔に出さない私に負担を掛けまいとしているんだ」
暫くして、応接室にロイドが入って来る。
「リザ」
「ロイド殿下、クリス様とのお話は終わられましたか?」
「ああ。これからお茶にする。兄上がリザも一緒に、と言っている。行くか?」
「サイモン殿下が?」
「リザが行かないと言うなら二人きりでお茶できるから、俺としてはどちらでも良いぞ」
無表情で言うロイドの台詞に、リザは慌ててしまう。
「ロイド殿下!?何ですか急に」
「リザが『態度で示せ』と言ったから、示そうかと」
「あ…そう、言いましたね。確かに」
「耳が赤い」
「…急にそういう空気出すからですよ!もう!行きますよ」
リザはソファから立ち上がるとロイドの先に立って歩き出した。
-----
「リザ嬢、今日はクリスと話す機会を作ってくれてありがとう」
サイモンが微笑んで言う。
クリスは呆然としているようだ。
「あの、サイモン殿下…私が居て大丈夫ですか?」
リザが窺うように言うと、サイモンは頷いた。
「ああ。私が自分の感情を操るのは得意なのは知っているだろう?特にリザ嬢に感じる『憎悪』の様な物は、自分で分析し『根拠がない』と思えれば他人事のように隅に追いやる事ができるんだよ。つまり私の中にはリザ嬢を嫌う理由がない。だからこれは自分の感情ではない。と」
「隅に追いやる…ですか?」
「そう。だから無理矢理抑えている訳ではないからリザ嬢は心配しなくて大丈夫だ。…この方法が『恋慕』にも使えると良かったのだが…」
「違う物なのですか?」
「そうなんだ。その感情には理由がない。突き詰めて分析しても『しかし』『やっぱり』と思ってしまう。だから押さえつけて抑えるだけで、隅に追いやる事ができない」
人を好きになるのに理由はないって言うものね。まして「恋」は「する」ものじゃなく「落ちる」ものとか言うし。
「私の、この、ローズが好きと言う感情も、強制力…?」
クリストファーが俯いたまま独り言のように呟く。
「そうだ。姉であるオリーやリザ嬢を憎らしく思うのも、お前自身の真の感情ではないんだ」
サイモンが言うと、クリストファーは顔を上げる。
「クリス、お前は姉の事が大好きな弟だ。それが本当の事だ」
「サイモン殿下…」
クリストファーの目に涙が滲んだ。
お茶の後、ロイドが王宮の出入口までリザを送ってくれた。
「サイモン殿下は凄いお方ね」
「…確かに兄上は凄い。俺も感情の操作は幼い頃からしているが、自分の感情が本当の自分の感情ではないと、気付く事など…出来るだろうか?」
サイモンは転生者の存在もゲームの強制力の事も知らない内から自分の感情の違和感に気付いていたのだ。
自分で自分の感情を信じられないなんて、きっとすごく怖くてすごく不安だわ。
「…確かに兄上は凄いが」
ロイドが立ち止まる。リザも足を止めてロイドの方へ振り向いた。
「ロイド殿下?」
「リザは俺が幸せにするんだから、兄上には惚れないでくれ」
「なっ!」
ロイドは真面目な表情で言うと、頬を赤くするリザの手を取り指を絡めた。
「…態度で示してる」
「わかりましたから不意打ちはやめてください」
「予告をする方が難しいな、それは」
二人は王宮の出入口までそのまま手を繋いで歩いた。
「それで、ここにリザ嬢が来ていないのか」
休日に、リザはクリストファーを伴って王宮に来た。ロイドに事情を説明し、サイモンに取次いでもらう。
ロイドとクリストファーがサイモンの執務室に行くのを、リザは応接室から見送った。サイモンにリザを憎らしいと思う気持ちがあるのなら、会わない方が良いだろうと考えたのだ。
「リザ嬢は優しい子だな、ロイド」
「ええ」
「何故ですか?」
クリストファーがそう問うと、サイモンは言った。
「リザ嬢は憎らしい相手と会っても顔に出さない私に負担を掛けまいとしているんだ」
暫くして、応接室にロイドが入って来る。
「リザ」
「ロイド殿下、クリス様とのお話は終わられましたか?」
「ああ。これからお茶にする。兄上がリザも一緒に、と言っている。行くか?」
「サイモン殿下が?」
「リザが行かないと言うなら二人きりでお茶できるから、俺としてはどちらでも良いぞ」
無表情で言うロイドの台詞に、リザは慌ててしまう。
「ロイド殿下!?何ですか急に」
「リザが『態度で示せ』と言ったから、示そうかと」
「あ…そう、言いましたね。確かに」
「耳が赤い」
「…急にそういう空気出すからですよ!もう!行きますよ」
リザはソファから立ち上がるとロイドの先に立って歩き出した。
-----
「リザ嬢、今日はクリスと話す機会を作ってくれてありがとう」
サイモンが微笑んで言う。
クリスは呆然としているようだ。
「あの、サイモン殿下…私が居て大丈夫ですか?」
リザが窺うように言うと、サイモンは頷いた。
「ああ。私が自分の感情を操るのは得意なのは知っているだろう?特にリザ嬢に感じる『憎悪』の様な物は、自分で分析し『根拠がない』と思えれば他人事のように隅に追いやる事ができるんだよ。つまり私の中にはリザ嬢を嫌う理由がない。だからこれは自分の感情ではない。と」
「隅に追いやる…ですか?」
「そう。だから無理矢理抑えている訳ではないからリザ嬢は心配しなくて大丈夫だ。…この方法が『恋慕』にも使えると良かったのだが…」
「違う物なのですか?」
「そうなんだ。その感情には理由がない。突き詰めて分析しても『しかし』『やっぱり』と思ってしまう。だから押さえつけて抑えるだけで、隅に追いやる事ができない」
人を好きになるのに理由はないって言うものね。まして「恋」は「する」ものじゃなく「落ちる」ものとか言うし。
「私の、この、ローズが好きと言う感情も、強制力…?」
クリストファーが俯いたまま独り言のように呟く。
「そうだ。姉であるオリーやリザ嬢を憎らしく思うのも、お前自身の真の感情ではないんだ」
サイモンが言うと、クリストファーは顔を上げる。
「クリス、お前は姉の事が大好きな弟だ。それが本当の事だ」
「サイモン殿下…」
クリストファーの目に涙が滲んだ。
お茶の後、ロイドが王宮の出入口までリザを送ってくれた。
「サイモン殿下は凄いお方ね」
「…確かに兄上は凄い。俺も感情の操作は幼い頃からしているが、自分の感情が本当の自分の感情ではないと、気付く事など…出来るだろうか?」
サイモンは転生者の存在もゲームの強制力の事も知らない内から自分の感情の違和感に気付いていたのだ。
自分で自分の感情を信じられないなんて、きっとすごく怖くてすごく不安だわ。
「…確かに兄上は凄いが」
ロイドが立ち止まる。リザも足を止めてロイドの方へ振り向いた。
「ロイド殿下?」
「リザは俺が幸せにするんだから、兄上には惚れないでくれ」
「なっ!」
ロイドは真面目な表情で言うと、頬を赤くするリザの手を取り指を絡めた。
「…態度で示してる」
「わかりましたから不意打ちはやめてください」
「予告をする方が難しいな、それは」
二人は王宮の出入口までそのまま手を繋いで歩いた。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
万年二番手令嬢の恋(完結)
毛蟹葵葉
恋愛
エーデルワイスは、田舎に領地を持つ伯爵令嬢だ。
エーデルは幼馴染で婚約者候補でもあるリーヌスと王立学園通っていた。
エーデルの悩みは成績で、いつもテストの総合成績で二位以外を取ったことがなかった。
テストのたびに、いつも一位のミランダから馬鹿にされていた。
成績の伸び悩みを感じていたエーデルに、いつも絡んでくるのは「万年三位」のフランツだった。
ある日、リーヌスから大切な話があると呼び出されたエーデルは、信じられない事を告げられる。
「ミランダさんと婚約することになったんだ。だけど、これからもずっと友達だよ」
リーヌスの残酷な言葉にエーデルは、傷つきそれでも前を向いて学園に通い続けた。
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる