転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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 ロイドがサイモンに「リザが会いたいと言っている」と使いを出すと、すぐにサイモンの執務室に来るように言われる。
 リザとロイドが執務室を訪れると、サイモンとオリーが待っていた。
「こちらも今日が定例茶会だったのよ。サイモン殿下からお話は聞いているわ」
 オリーは笑って二人をソファへと促した。

「つまり、転生者はゲームの強制力を受けない、と?」
 サイモンが顎に手を当てて言う。
「はい。私も、ロイド殿下も、…ローズさんも強制力の影響は受けておりません。それにおそらくアレクサンドラ辺境伯令嬢も」
「辺境伯令嬢?」
「ゲームでは、私ではなくアレクサンドラ様がロイド殿下と婚約しているのだそうです」
「え?」
 ロイドが大きく目を開く。
「ゲームではアレクサンドラ様が侯爵家に生まれ、ロイド殿下と婚約し、ヒロインと殿下が恋仲になるのに嫉妬をしてヒロインを虐め、卒業パーティーで殿下から断罪され婚約破棄の上、国外追放になる『悪役令嬢』なのです」
「悪役令嬢…」
 オリーが呟くように言う。
「アレクサンドラ様は前世でこのゲームをプレイしたのだと思います。だから辺境伯令嬢として生まれたのを幸いに王都へ来る事を避け、学園へも入学せず、ロイド殿下やヒロインと出会わないようにしておられるのだと」
「なるほどな」
 ふうっとサイモンが息を吐いた。
「…強制力を断ち切る方法ではなくて申し訳ありません」
 リザが言うと、サイモンはふっと笑った。
「少しでも何か分かれば良い。気にするな」

-----

「ゲームの強制力で兄上も先生も生徒会のメンバーもローズに『恋』をしているのか…」
 サイモンの執務室を退出し、リザとロイドはロイドの私室へと移動した。
 リザをソファに促し、向かいにロイドが座る。お茶を淹れて侍女が退出し、二人きりになった。もちろん扉は開いていて、外には侍従が控えているが。
「なるほど。だから皆のローズに対する気持ちが不自然だと感じるのか」
「不自然?」
「いくら好きな相手の幸せを祈るとは言え、まったく嫉妬する様子もなくただ応援するなど、不自然としか思えない」
「そうですね。生徒会のメンバーのように知性も教養もある人たちが証拠もなくヒロインのライバルを自分たちの敵と認定するのも不自然だし」
「…不正行為の件は本当に済まない。リザはそんな事はしないと言っても皆聞かなくて…」
「殿下が謝ることはないです。今度はガッツリ監視付きで考査を受けられる様にニューマン先生に頼みますから。それでも一位を取れると自分で証明して見せます」
 リザは拳を握る。
「リサコは進学校に通ってたし、地頭が良いんだな」
「そういえば、ロイド殿下は前世では何歳で亡くなったのですか?」
「あまり覚えていないが…三十歳くらいだったか…」
「結婚してました?自分の名前とかは?」
「結婚はしていなかったと思う。名前も分からない」
「リサコの他に覚えてる人は?」
「いないな」
「乙ゲー…恋愛シミュレーションゲームってした事ありました?」
「多分ない」
「なるほど…ローズさんはかなり前世の事を覚えていそうですけど…あ、殿下、今日はローズさんの乱入がありませんでしたけど、どうしたんですか?」
「男爵家へローズが王宮へ来るのを禁じる命を出してある」
「そうなんですか?」
「せめてローズを王宮に来させないようにしないと、リザに嫌われると言われた」
「私!?」
 ロイドはリザを見ると、ふっと笑う。
 今日はロイド殿下の笑顔を二回も見ちゃったわ。ロイド殿下、笑うとサイモン殿下と似ているわ…さすが兄弟ね。
「リザが侯爵令嬢に生まれたのは俺のせいかも知れないな」
「え?」
「俺が『リサコの側に』と願ったからリザを引き寄せ、アレクサンドラと入れ替わったのかも」
「じゃあ私の方がこの世界に先に生まれていたら、辺境伯家の方に殿下が引き寄せられていたかも?」
「そうかも知れん」
 なるほど、ゲームに登場しない辺境伯令嬢に生まれる予定だったから私はこんなに地味なのか。学園に来ていてもただのモブだったろうし。
 …でもそうなってたら、ロイド殿下の貴重な笑顔は見れなかったのね。




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