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「今日ローズ様とリザ様の言い合いを見た侍女に聞いた処、リザ様はローズ様を嗜めただけで、言い方も冷たくも何ともなかったそうですよ」
侍従アベルが言うと、ロイドは執務机に突っ伏したまま
「そうだろうな」
と答える。リザがローズに冷たく酷い事を言ったなどと、ロイドは端から信じていなかった。
ローズは王宮を訪れてもロイドに会えない日は素直に帰っていたのに、以前リザとのお茶会に乱入してからは、毎日の様にロイドに会いに王宮へ来、アベルや侍女などからロイドの行事や予定を聞き出そうとしたり、執務室へ無理矢理入ろうとしたりするようになり、その傍若無人なふるまいに王宮の使用人からの評判は急激に悪化しているのだ。
「…殿下、そろそろ動かないと本当にリザ様に嫌われますよ?」
アベルは冷たく言う。
「動く?」
「ローズ様を諦めさせる。せめて王宮に押し掛けるのをやめさせないと。それからリザ様に『好きだ』ときちんと告げてください」
「す!?」
ロイドは慌てて顔を上げた。
「ロイド殿下の方から婚約を申し込んだくらいですから、リザ様をお好きなんだと思っていましたが…違うんですか?」
「…婚約を申し込んだのは、好きだからではない」
「そうなんですか?では、お茶会で会えなくても落ち込む必要ないですよね?」
アベルは意外そうに言う。
「それは…」
確かに、何故こんなに落ち込む?
ロイドは顎に手を当てて考え込む。
ただ、俺はあの子に…
-----
「リザ、考査の結果貼り出されてたわよ!リザが一位だったわ」
「ステラ」
昼休憩に図書室に行った帰りにステラと会った。
「最近すごく勉強してるもんね」
「婚約破棄に備えて手に職を付けようと思って」
「侯爵家の令嬢なのに?」
「第二王子に婚約破棄された令嬢に簡単に次の縁談が来るとも思えないし」
「まあね…」
話しながら歩いていると、教員室の前に考査の順位を貼り出した紙が見えた。生徒がざわざわと順位を見ている。
「四年生はいつも通り生徒会長のリード様が一位で、ロイド殿下が二位だったらしいわよ」
リザは自分の名前が一番上に書かれているのを眺める。
「今回ジェイクは何位?」
「見て、五位よ」
ステラが紙を指さす。リザは自分の名前から下に視線を動かした。確かに五位にジェイクの名前がある。
「すごいじゃない!春期の期末考査では三十位くらいだったのに」
「三十ニ位よ。まあ今回は頑張ったんじゃないかしら?」
「ステラが舞踏会で発破を掛けたからでしょ?ジェイクはステラのお婿さんになるために頑張ってるんだわ」
「…この成績を維持できるなら、考えても良いわ」
「ステラったら、余裕ねぇ」
リザとステラの後で人の気配がした。
「リザ・クロフォード」
「は…?」
呼び捨て?
リザが振り向くと、そこにはゴヴァンが立っていた。
「ニューマン先生?」
ゴヴァン・ニューマンは学園の教師で生徒会の顧問でもある。いつも朗らかで人好きする人物で、生徒を等しく「さん」付けで呼んでいる。
「…考査において君の不正行為を認めた。生徒会室へ来なさい」
ゴヴァンは低い声で言った。
生徒たちが一斉に騒めく。
「え?」
「不正行為とは?」
リザが驚いていると、ステラがリザの前に出てゴヴァンに問う。
「詳しい事は生徒会室で話す」
「リザはそんな事しないわ。リザは元々頭が良いし、最近すごく勉強していたんです!」
ステラが言い返すのを聞きながら、リザは冷静に考えた。
…これは、悪役令嬢の断罪イベント?
「ステラ、ありがとう。行って弁明して来るわ」
リザはステラの肩を叩く。
「でも…」
「…ここで言い合うのも他の生徒が聞いてるし」
沢山の生徒が既に「不正行為」という言葉を聞いているのだ。
「そうだけど、じゃあ私も一緒に行く」
「いや、リザ・クロフォード一人で来てくれ」
「…分かりました」
ゴヴァンはわざと他の生徒たちに「不正行為を認めた」と聞かせたのだ。これからこの話はまことしやかに生徒間に広がっていくだろう。
ますます悪役令嬢として外堀が埋まって来たわ…
リザは覚悟を決めながらゴヴァンに付いて歩き出した。
「今日ローズ様とリザ様の言い合いを見た侍女に聞いた処、リザ様はローズ様を嗜めただけで、言い方も冷たくも何ともなかったそうですよ」
侍従アベルが言うと、ロイドは執務机に突っ伏したまま
「そうだろうな」
と答える。リザがローズに冷たく酷い事を言ったなどと、ロイドは端から信じていなかった。
ローズは王宮を訪れてもロイドに会えない日は素直に帰っていたのに、以前リザとのお茶会に乱入してからは、毎日の様にロイドに会いに王宮へ来、アベルや侍女などからロイドの行事や予定を聞き出そうとしたり、執務室へ無理矢理入ろうとしたりするようになり、その傍若無人なふるまいに王宮の使用人からの評判は急激に悪化しているのだ。
「…殿下、そろそろ動かないと本当にリザ様に嫌われますよ?」
アベルは冷たく言う。
「動く?」
「ローズ様を諦めさせる。せめて王宮に押し掛けるのをやめさせないと。それからリザ様に『好きだ』ときちんと告げてください」
「す!?」
ロイドは慌てて顔を上げた。
「ロイド殿下の方から婚約を申し込んだくらいですから、リザ様をお好きなんだと思っていましたが…違うんですか?」
「…婚約を申し込んだのは、好きだからではない」
「そうなんですか?では、お茶会で会えなくても落ち込む必要ないですよね?」
アベルは意外そうに言う。
「それは…」
確かに、何故こんなに落ち込む?
ロイドは顎に手を当てて考え込む。
ただ、俺はあの子に…
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「リザ、考査の結果貼り出されてたわよ!リザが一位だったわ」
「ステラ」
昼休憩に図書室に行った帰りにステラと会った。
「最近すごく勉強してるもんね」
「婚約破棄に備えて手に職を付けようと思って」
「侯爵家の令嬢なのに?」
「第二王子に婚約破棄された令嬢に簡単に次の縁談が来るとも思えないし」
「まあね…」
話しながら歩いていると、教員室の前に考査の順位を貼り出した紙が見えた。生徒がざわざわと順位を見ている。
「四年生はいつも通り生徒会長のリード様が一位で、ロイド殿下が二位だったらしいわよ」
リザは自分の名前が一番上に書かれているのを眺める。
「今回ジェイクは何位?」
「見て、五位よ」
ステラが紙を指さす。リザは自分の名前から下に視線を動かした。確かに五位にジェイクの名前がある。
「すごいじゃない!春期の期末考査では三十位くらいだったのに」
「三十ニ位よ。まあ今回は頑張ったんじゃないかしら?」
「ステラが舞踏会で発破を掛けたからでしょ?ジェイクはステラのお婿さんになるために頑張ってるんだわ」
「…この成績を維持できるなら、考えても良いわ」
「ステラったら、余裕ねぇ」
リザとステラの後で人の気配がした。
「リザ・クロフォード」
「は…?」
呼び捨て?
リザが振り向くと、そこにはゴヴァンが立っていた。
「ニューマン先生?」
ゴヴァン・ニューマンは学園の教師で生徒会の顧問でもある。いつも朗らかで人好きする人物で、生徒を等しく「さん」付けで呼んでいる。
「…考査において君の不正行為を認めた。生徒会室へ来なさい」
ゴヴァンは低い声で言った。
生徒たちが一斉に騒めく。
「え?」
「不正行為とは?」
リザが驚いていると、ステラがリザの前に出てゴヴァンに問う。
「詳しい事は生徒会室で話す」
「リザはそんな事しないわ。リザは元々頭が良いし、最近すごく勉強していたんです!」
ステラが言い返すのを聞きながら、リザは冷静に考えた。
…これは、悪役令嬢の断罪イベント?
「ステラ、ありがとう。行って弁明して来るわ」
リザはステラの肩を叩く。
「でも…」
「…ここで言い合うのも他の生徒が聞いてるし」
沢山の生徒が既に「不正行為」という言葉を聞いているのだ。
「そうだけど、じゃあ私も一緒に行く」
「いや、リザ・クロフォード一人で来てくれ」
「…分かりました」
ゴヴァンはわざと他の生徒たちに「不正行為を認めた」と聞かせたのだ。これからこの話はまことしやかに生徒間に広がっていくだろう。
ますます悪役令嬢として外堀が埋まって来たわ…
リザは覚悟を決めながらゴヴァンに付いて歩き出した。
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