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 図書室に残ったリンジーとヒューイは、並んで座ったまま押し黙っていた。
「……」
「……」
 さっき、ヒューイも私とユーニスに「すまなかった」と頭を下げてくれて…あれから俯いて黙ったままだわ。
 私から何か言えば良いんだろうけど…何を言えば……

「リン」
 俯いたままでヒューイが言う。
「はいぃ!?」
 お…思わず声が裏返っちゃった。
 顔を上げたヒューイが、リンジーの「しまった」という表情を見て相好を崩した。
 あ、笑った。
 
「「…かわいいな」」
 リンジーとヒューイが同時に呟く。
「は?」
 ヒューイが目を見開いた。
「かわいい?誰の事だ?ちなみに俺はリンがかわいいと言ったんだが、リンは自分の事を言ったのか?」
「自分の事『かわいい』なんて呟く訳ないでしょ!?ヒューイの事よ」
 頬を少し赤くしてヒューイを上目遣いで見る。
「俺?俺がかわいい?」
 意外そうに言うと、リンジーは頷いた。
 ヒューイみたいな割と俺様気質な男性が「かわいい」訳はないのよ。それでもふとした時にかわいく見えちゃうんだから、つまりそれは惚れた弱味とか、欲目とか、とにかく、私がヒューイを好きだから。
 どこを取っても十人並みの私がかわいく見えるなら、それはヒューイが私の事を好きだから。
 改めてそう思うと…かわいいなんて呟くの、とてつもなく恥ずかしい…

「俺がかわいいねぇ。それはもしかして愛おしいとかと言う気持ちに似ているか?」
 顎に手を当てながら言う。
「……まあ…似てるかも、ね」
 照れた様子で言うリンジーの腕を引き、ヒューイはリンジーを抱きしめた。

「…ヒューイ、ここ図書室よ?」
「誰もいない」
 そういう問題じゃないんだけど…でも、ザインの話を聞いてヒューイも何か思う所があったみたいだし、本当に誰もいないなら…まあ、いいか。
「リン」
「ん?」
「ザインの話を聞いて…俺はリンとユーニスに本当に酷い事をしようとしていたんだと再認識した」
「…うん。そんな事ないって言ってあげたいけど…言えないわ」
「ああ」
 リンジーの背中に回った腕にぎゅうっと力が入る。
 リンジーもヒューイの背中に手を回して、ヒューイの背中を撫でた。
「ザインのお母様…大丈夫かしら?」
「ああ…心配だな…」
「ザインはお父様が…なのを知っていたの?」
「いや。知らなかっただろう」
「それじゃあお父様はずっと隠していくつもりだったのね。お母様を傷付けるつもりなんかなくて…」
 お母様も、お父様も、辛いだろうな…
「ザインも大丈夫かしら?もしかしてユーニスと結婚できるかも知れないって、ザインにとってもある意味希望だったんじゃ…」
 同性愛に対する偏見や差別もある世の中で「普通」になれるチャンスだったのかも。

「…リン」
 ヒューイが少し腕を緩めてリンジーの顔を覗き込む。
「ん?」
「ザインの話は後で」
 ヒューイ、何となく不機嫌そう?
 …あれ?少し耳が赤い?
 も、もしかして、ザインに、妬いてるの?
 そう気付いたら胸がキュンと疼いた。
 ああ…かわいい。ヒューイがすごくかわいく見える。
「……」
「何だ?」
 リンジーがじっとヒューイを見ていると、ヒューイが少し首を傾げた。
 なるほど。この気持ちは「愛おしい」だわ。確かに。
「何でも」
 ないわ。
 と言おうとするリンジーの唇に、ヒューイが軽く触れるだけのキスをする。

「…図書室」
「誰もいない」
 照れて上目遣いでヒューイを見ると、ヒューイはリンジーの額に自分の額をこつんとぶつけると、またリンジーを抱きしめた。

「もしも、契約結婚をリンがオルディス家のために何も言わず受け入れていたらと思うと…ゾッとする」
「うん」
「リン、俺がリンを好きな事に気付かないまま、リンに取り返しのつかない傷を付けてしまうのを…防いでくれてありがとう」
「…お礼を言われるのも、変よ?」
 リンジーがくすりと笑う。
「私は契約結婚なんて絶対したくなかっただけだもん」
「そうだな。契約契約を嫌がってくれてありがとう」
「そこに『ありがとう』も変じゃない?」
「いいんだ」
 ヒューイは、クスクスと笑うリンジーをますます強く抱きしめた。


















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