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「グラフトン公爵夫妻に子供が一人しかいないのは、俺のせいだと知っているか?」
地下の鉄格子の前に置かれた不似合いに豪奢な椅子に座り、肘掛けに肘をつき、脚を組んで、鉄格子の中へと無機質を発するケント。
「……」
鉄格子の向こう側に後ろ手で縛られた男が無言で顔を上げる。
ケントの側近で学園の司書の男が拘禁されている王城の地下牢を訪れたケントは開口一番そう言ったのだ。
「俺を預かる際、我が子と同じように接すると決めたとグラフトンの父と母は言っていた。そしてこれは当人からは何も聞いてはいないが、その為に、ヒューイの弟妹の誕生を諦めた」
「……」
ケントは淡々とした口調で、男とは目を合わせずに言う。
男も黙ってケントを見つめていた。
「本当の弟妹ができれば、俺との接し方の違いがどうしても出てしまうと父母は考えた。俺にとってもヒューイは双子の兄のような存在だが、そのヒューイに実の弟妹がいれば、父母やヒューイがいくら俺に気遣っても、むしろ気遣われれば気遣われるほど、疎外感を覚えただろうな」
「……」
「あの頃のグラフトン家に預けられた事情、それが最善手だと考えたのもわかる。その時の幼い頭でもわかっていた。しかし王子としてではない、ただの子供の気持ちとなれば…どうして、どうにか家族が離れなくても済む方法を探ってくれなかったのかと思うのも、あるいは、兄上さえ快癒すれば俺はもう王宮に呼び戻される事もないのではないかと淋しく情けなく不安になるのも…無理はないと思わないか?」
ケントは男に視線をやり、初めて目を合わせる。
「……っ」
無表情なケントの瞳の中に憤りを見て、男は息を呑んだ。
「リンジーは確かに俺にとって特別な異性だ。俺を王族ではなく、幼なじみの友人として扱ってくれる唯一の女性だからな」
ケントはじっと男を見つめる。
「俺が何もかもを捨てればリンジーが手に入るなら、そうしても良いと今も思っている。だがヒューイがリンジーに気が付いたなら、それは叶わない願いだろうな」
「…気が…?」
男が言葉を発したので、ケントは片眉を上げた。
「お前がザインに協力して、ヒューイが気付かないよう計らっていたんだろう?リンジーがヒューイにとっても特別な存在だと」
「…ザイン君は…ヒューイ・グラフトンを繋ぎ止めるため…としか」
呟くように言う男。ケントは顎に手を当てて頷いた。
「ああ…そうなのか。まあザインにとっては同じ事か」
ヒューイが「自分はリンジーを好きなのだ」と気付けば、ザインとの関係は終わるのだろうから。
「お前が俺がリンジーのために何もかもを捨てるのではと危惧したのは満更見当違いではない。ただ、俺がリンジーのためではなくても、機会があれば王子の立場を捨てたいと考えていたのは知らないだろう?」
ケントは肘掛けについた手を顎に当てて男に言う。
「……」
「それはお前たちのような第二王子派の存在のせいだ」
「!」
男が目を見開いてケントを見た。
「お前たちは、第二王子派と謳いながら、当の俺の望まない事しかしないではないか」
「それは…」
「まあそれも、継承権二位の王子の責任と思い、心算を表明せず立場を甘受していた俺のせいでもあるんだろうな」
自嘲気味に笑うと、ケントは椅子から立ち上がった。
「殿下」
ケントを見上げる男に、ケントはキッパリと言った。
「俺は臣籍降下し、王位継承権を返上する。そして王宮を出る」
「殿下!」
「貴族の地位は保持するんだ。到底『何もかもを捨てる』には足りない決意だが、元々、兄上が婚姻され男子がお生まれになればと考えていた。しかし兄上の状況に関わらず学園を卒業したらそうする事にする。だがもし第二王子派が学園卒業までにそれを阻止すべく動くならば、その時は…」
ケントは男を冷たい眼で見下ろした。
「第二王子派を粛清する」
「…っ!」
男はケントの言葉と、瞳の冷徹さに言葉を失う。
「せいぜい今の内に継承権が繰り上がる王弟派にでも鞍替えする事だな。ああ、但し、俺は臣下として兄上の治世を支えて行くつもりだから、くれぐれも兄上と俺の邪魔はしないでくれ」
ケントはそう言うと、地下牢を出て行った。
「グラフトン公爵夫妻に子供が一人しかいないのは、俺のせいだと知っているか?」
地下の鉄格子の前に置かれた不似合いに豪奢な椅子に座り、肘掛けに肘をつき、脚を組んで、鉄格子の中へと無機質を発するケント。
「……」
鉄格子の向こう側に後ろ手で縛られた男が無言で顔を上げる。
ケントの側近で学園の司書の男が拘禁されている王城の地下牢を訪れたケントは開口一番そう言ったのだ。
「俺を預かる際、我が子と同じように接すると決めたとグラフトンの父と母は言っていた。そしてこれは当人からは何も聞いてはいないが、その為に、ヒューイの弟妹の誕生を諦めた」
「……」
ケントは淡々とした口調で、男とは目を合わせずに言う。
男も黙ってケントを見つめていた。
「本当の弟妹ができれば、俺との接し方の違いがどうしても出てしまうと父母は考えた。俺にとってもヒューイは双子の兄のような存在だが、そのヒューイに実の弟妹がいれば、父母やヒューイがいくら俺に気遣っても、むしろ気遣われれば気遣われるほど、疎外感を覚えただろうな」
「……」
「あの頃のグラフトン家に預けられた事情、それが最善手だと考えたのもわかる。その時の幼い頭でもわかっていた。しかし王子としてではない、ただの子供の気持ちとなれば…どうして、どうにか家族が離れなくても済む方法を探ってくれなかったのかと思うのも、あるいは、兄上さえ快癒すれば俺はもう王宮に呼び戻される事もないのではないかと淋しく情けなく不安になるのも…無理はないと思わないか?」
ケントは男に視線をやり、初めて目を合わせる。
「……っ」
無表情なケントの瞳の中に憤りを見て、男は息を呑んだ。
「リンジーは確かに俺にとって特別な異性だ。俺を王族ではなく、幼なじみの友人として扱ってくれる唯一の女性だからな」
ケントはじっと男を見つめる。
「俺が何もかもを捨てればリンジーが手に入るなら、そうしても良いと今も思っている。だがヒューイがリンジーに気が付いたなら、それは叶わない願いだろうな」
「…気が…?」
男が言葉を発したので、ケントは片眉を上げた。
「お前がザインに協力して、ヒューイが気付かないよう計らっていたんだろう?リンジーがヒューイにとっても特別な存在だと」
「…ザイン君は…ヒューイ・グラフトンを繋ぎ止めるため…としか」
呟くように言う男。ケントは顎に手を当てて頷いた。
「ああ…そうなのか。まあザインにとっては同じ事か」
ヒューイが「自分はリンジーを好きなのだ」と気付けば、ザインとの関係は終わるのだろうから。
「お前が俺がリンジーのために何もかもを捨てるのではと危惧したのは満更見当違いではない。ただ、俺がリンジーのためではなくても、機会があれば王子の立場を捨てたいと考えていたのは知らないだろう?」
ケントは肘掛けについた手を顎に当てて男に言う。
「……」
「それはお前たちのような第二王子派の存在のせいだ」
「!」
男が目を見開いてケントを見た。
「お前たちは、第二王子派と謳いながら、当の俺の望まない事しかしないではないか」
「それは…」
「まあそれも、継承権二位の王子の責任と思い、心算を表明せず立場を甘受していた俺のせいでもあるんだろうな」
自嘲気味に笑うと、ケントは椅子から立ち上がった。
「殿下」
ケントを見上げる男に、ケントはキッパリと言った。
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「殿下!」
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ケントは男を冷たい眼で見下ろした。
「第二王子派を粛清する」
「…っ!」
男はケントの言葉と、瞳の冷徹さに言葉を失う。
「せいぜい今の内に継承権が繰り上がる王弟派にでも鞍替えする事だな。ああ、但し、俺は臣下として兄上の治世を支えて行くつもりだから、くれぐれも兄上と俺の邪魔はしないでくれ」
ケントはそう言うと、地下牢を出て行った。
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