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馬車が着いたのは、グラフトン公爵家の王都屋敷だ。
リンジーを抱いたまま、屋敷に入ると、駆けるようにして階段を上がるヒューイ。
自分の部屋の寝室に入ると、リンジーをベッドへ放り投げた。
ボスンッとリンジーの身体がベッドの上で弾む。
「きゃっ!」
ザインが掛けてくれた上着はベッドの下へ落ちてしまった。
引き裂かれたブラウスがはだけて、リンジーは慌てて起き上がると、ブラウスの前を合わせて握る。
ヒューイはベッドの傍に立ったままだ。
リンジーが怖々ヒューイを見上げると、無表情のヒューイは無言でリンジーの全身を一瞥する。
「…な…に…?」
ヒューイ、何か…怒ってる?
何で?
こんな表情初めて見た。怖い。
「リンジー」
ヒューイが口を開く。
感情の籠らない声に、リンジーは背筋に冷たいものが走るをのを感じた。
怖い。
ヒューイが怖い。
「まさか、あれは合意だったのか?」
「…え…?」
「本気で俺との婚約を解消するためにあの男と…」
「…何…言ってるの…?」
怒気を孕んだヒューイの視線がリンジーを射抜く。
「…っ」
思わず息を飲む。
硬直したように固まるリンジーを鋭い視線で見据えながら、ヒューイはベッドに片膝を乗り上げた。
「俺は許さないからな…」
「な…何?」
リンジーがベッドの上で後退りすると、ヒューイは片手を伸ばしてリンジーの肩を押す。
「きゃあ!」
後ろ向きに倒れたリンジーの肩を押さえてベッドに押し付けた。
「ヒューイ…?」
肩を押され眉を寄せる。
すると、ヒューイは肩を押さえている反対の手で、リンジーの顎を掴んだ。
「いっ」
ルイスに強く掴まれていたせいで赤くなっていた所、そこをまた上から掴まれ、リンジーは痛みに顔を歪める。
「……」
リンジーの身体をまたぐように両膝をついたヒューイ。
表面上は無表情なのに、眼を見ればヒューイが怒っている事がリンジーにはヒシヒシと伝って来た。
なに…?
ヒューイは何に怒ってるの?
「こうされて、泣いているように見えたのは気のせいか?」
顎を掴む手にますます力が入る。
「ぃ…」
ギリギリと締め付けられて声も出せないリンジーをヒューイは無表情で見下ろす。
「あの男に純潔を捧げるつもりだったのか?」
違う。
違う。
首を横に振ろうとするが動かない。
「…ちが…」
怖い。
「脱げ」
平坦な声でヒューイは言う。
「…?」
「こんな服、いつまで着ているつもりだ!」
無表情だったヒューイの表情が忿怒に変わる。
怒鳴られ、ビクリと震えたリンジーの顎と肩から手を離すと、切り裂かれたピンクのブラウスを掴み、更に左右に引き裂いた。
「!」
胸当てが露わになり、リンジーは身を捩る。が、ヒューイはブラウスを引っ張り、乱暴にリンジーの腕から引き抜いた。
「いやぁ!」
袖口のボタンが飛び、リンジーは胸の前で手首を押さえて身体を丸める。
怖い。
スカートにも手を伸ばすヒューイに、リンジーはますます身体を丸めた。
「や…」
怖い。
怖い。
怖い。
何で?
ヒューイは何でこんな事するの?
私が似合わない格好してるのが気に入らないの?だからってこんなのってない。
「リンジー」
ヒューイはリンジーの肩を掴もうとするが、リンジーは必死で手を振り払い、身を捩ってそれから逃れようとする。
「やめて!」
「何故そんなに婚約を解消したい?リンジーは俺を好きなんだろう?」
「好きじゃない!ずっとそう言ってるじゃない」
「嘘だ」
「嘘じゃないわ」
私がヒューイを好きでも、ヒューイが私を好きじゃないなら、そんな結婚はしたくない。
ベッドの隅に追い詰められたリンジーは、ボロボロと涙を流しながらヒューイを睨んだ。
「触らないで!」
「っ…」
睨まれて少し怯んだヒューイはリンジーの方に伸ばし掛けた手をぎゅっと握る。
「リンジー…」
「私…私は好きな人と幸せになりたいだけ。何がいけないの?ヒューイは他の『契約結婚』に同意してくれる女性を探せば良いじゃない」
うずくまって、泣きながらリンジーは訴える。
他の女性…?
確かに、貴族の結婚に「愛」などは必要ではない。後継ぎの血筋さえ確かならば「恋愛」は他所でする夫婦も多いと聞く。
俺だってリンジーへ契約結婚の条件として後継ぎを生んだ後の自由を保障したじゃないか。
ズキンッ。
ヒューイの頭に殴られたような痛みが走る。
そのような貴族的な結婚はリンジーは嫌だと言う。
好きな相手と幸せになりたい。リンジーが望むのはそういう結婚で…
ズキンッ。
好きな相手…?
ズキンッ。
リンジーの好きな相手は俺だろう?
ズキンッ。
いやでもリンジーは俺を好きじゃない、と…
ズキンッ。
ヒューイは痛む頭を押さえてベッドから降りると、リンジーを置いたまま寝室を出て行った。
馬車が着いたのは、グラフトン公爵家の王都屋敷だ。
リンジーを抱いたまま、屋敷に入ると、駆けるようにして階段を上がるヒューイ。
自分の部屋の寝室に入ると、リンジーをベッドへ放り投げた。
ボスンッとリンジーの身体がベッドの上で弾む。
「きゃっ!」
ザインが掛けてくれた上着はベッドの下へ落ちてしまった。
引き裂かれたブラウスがはだけて、リンジーは慌てて起き上がると、ブラウスの前を合わせて握る。
ヒューイはベッドの傍に立ったままだ。
リンジーが怖々ヒューイを見上げると、無表情のヒューイは無言でリンジーの全身を一瞥する。
「…な…に…?」
ヒューイ、何か…怒ってる?
何で?
こんな表情初めて見た。怖い。
「リンジー」
ヒューイが口を開く。
感情の籠らない声に、リンジーは背筋に冷たいものが走るをのを感じた。
怖い。
ヒューイが怖い。
「まさか、あれは合意だったのか?」
「…え…?」
「本気で俺との婚約を解消するためにあの男と…」
「…何…言ってるの…?」
怒気を孕んだヒューイの視線がリンジーを射抜く。
「…っ」
思わず息を飲む。
硬直したように固まるリンジーを鋭い視線で見据えながら、ヒューイはベッドに片膝を乗り上げた。
「俺は許さないからな…」
「な…何?」
リンジーがベッドの上で後退りすると、ヒューイは片手を伸ばしてリンジーの肩を押す。
「きゃあ!」
後ろ向きに倒れたリンジーの肩を押さえてベッドに押し付けた。
「ヒューイ…?」
肩を押され眉を寄せる。
すると、ヒューイは肩を押さえている反対の手で、リンジーの顎を掴んだ。
「いっ」
ルイスに強く掴まれていたせいで赤くなっていた所、そこをまた上から掴まれ、リンジーは痛みに顔を歪める。
「……」
リンジーの身体をまたぐように両膝をついたヒューイ。
表面上は無表情なのに、眼を見ればヒューイが怒っている事がリンジーにはヒシヒシと伝って来た。
なに…?
ヒューイは何に怒ってるの?
「こうされて、泣いているように見えたのは気のせいか?」
顎を掴む手にますます力が入る。
「ぃ…」
ギリギリと締め付けられて声も出せないリンジーをヒューイは無表情で見下ろす。
「あの男に純潔を捧げるつもりだったのか?」
違う。
違う。
首を横に振ろうとするが動かない。
「…ちが…」
怖い。
「脱げ」
平坦な声でヒューイは言う。
「…?」
「こんな服、いつまで着ているつもりだ!」
無表情だったヒューイの表情が忿怒に変わる。
怒鳴られ、ビクリと震えたリンジーの顎と肩から手を離すと、切り裂かれたピンクのブラウスを掴み、更に左右に引き裂いた。
「!」
胸当てが露わになり、リンジーは身を捩る。が、ヒューイはブラウスを引っ張り、乱暴にリンジーの腕から引き抜いた。
「いやぁ!」
袖口のボタンが飛び、リンジーは胸の前で手首を押さえて身体を丸める。
怖い。
スカートにも手を伸ばすヒューイに、リンジーはますます身体を丸めた。
「や…」
怖い。
怖い。
怖い。
何で?
ヒューイは何でこんな事するの?
私が似合わない格好してるのが気に入らないの?だからってこんなのってない。
「リンジー」
ヒューイはリンジーの肩を掴もうとするが、リンジーは必死で手を振り払い、身を捩ってそれから逃れようとする。
「やめて!」
「何故そんなに婚約を解消したい?リンジーは俺を好きなんだろう?」
「好きじゃない!ずっとそう言ってるじゃない」
「嘘だ」
「嘘じゃないわ」
私がヒューイを好きでも、ヒューイが私を好きじゃないなら、そんな結婚はしたくない。
ベッドの隅に追い詰められたリンジーは、ボロボロと涙を流しながらヒューイを睨んだ。
「触らないで!」
「っ…」
睨まれて少し怯んだヒューイはリンジーの方に伸ばし掛けた手をぎゅっと握る。
「リンジー…」
「私…私は好きな人と幸せになりたいだけ。何がいけないの?ヒューイは他の『契約結婚』に同意してくれる女性を探せば良いじゃない」
うずくまって、泣きながらリンジーは訴える。
他の女性…?
確かに、貴族の結婚に「愛」などは必要ではない。後継ぎの血筋さえ確かならば「恋愛」は他所でする夫婦も多いと聞く。
俺だってリンジーへ契約結婚の条件として後継ぎを生んだ後の自由を保障したじゃないか。
ズキンッ。
ヒューイの頭に殴られたような痛みが走る。
そのような貴族的な結婚はリンジーは嫌だと言う。
好きな相手と幸せになりたい。リンジーが望むのはそういう結婚で…
ズキンッ。
好きな相手…?
ズキンッ。
リンジーの好きな相手は俺だろう?
ズキンッ。
いやでもリンジーは俺を好きじゃない、と…
ズキンッ。
ヒューイは痛む頭を押さえてベッドから降りると、リンジーを置いたまま寝室を出て行った。
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