24 / 84
23
しおりを挟む
23
昼休憩の中庭でベンチに座っているリンジーとユーニス。ケントは今日は来ていない。
「デート?」
「うん。領地で知り合った子爵家の三男。王都に来るから会わないかって」
リンジーがそう言うと、ユーニスは頷く。
「ボンボンだって言ってた男性だっけ?もう一人の伯爵家の次男って人は王都には来ないの?」
「陛下の誕生パーティーの時期にお父様だけ王都に来て、本人は領地で留守を任されてるそうで、基本的に王都にはあまり来ないらしいわ」
「そうなんだ。でもデートって大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
リンジーは不思議そうにユーニスを見た。
「だって二人きりでしょ?それにヒューイ様の婚約者が他の男性と会ってる所を知り合いに見られたら…」
「うーん、そうよね。変装でもしようかしら?」
リンジーが顎に手を当てて考えている時、ベンチの後ろの大きな木の幹の影から、一人の女生徒が立ち去って行った。
-----
「デート?リンジーが?」
食堂にいるヒューイの前には、木の影から立ち去った女生徒が座っている。
「はい。子爵家の三男と。変装して行くって言ってました」
「子爵家?」
「はい。あと伯爵家の次男とも繋がりがあるようでした」
「……」
ヒューイが眉を顰めるのを見て、女生徒は満足そうに笑った。
そして、声を顰めて言う。
「オルディスさんは黒の貴公子様とご婚約されているのに、他の男性と逢瀬だなんて…不誠実です」
逢瀬。
「いえ、もうこれは密会と言っても過言ではないかも知れませんわ」
密会…?
「ヒューイ」
ヒューイの隣に座っていたザインが、心配そうにヒューイの腕に触れた。
「ザイン…」
「ねぇ君、さすがに密会は過言だろう?」
ザインはヒューイの腕に触れたまま、女生徒ににっこりと笑って言う。
「はっはい!白の貴公子様!か、過言でした」
女生徒が焦って言うと、ザインは笑顔のまま
「うん。情報をありがとう」
と言った。
「はい!ありがとうございます」
女生徒は「ここから去れ」と云うザインの言外の意図を察し、慌てて立ち上がると、頭を下げてその場を去って行った。
「ヒューイ、リンジーは『条件』を満たす男を探しているんだろう。他の男性と会ったとしても不思議ではないよ」
ヒューイの腕に触れた手を、撫でるように動かす。
「そうだな」
リンジーは本気で俺との婚約を解消したいと思って、行動をしているのか。
「ヒューイはリンジーのその行動の邪魔はしないって言ったよね?」
「ああ、言った」
確かに。俺はそう言った。
「もちろん、自分の婚約者が浮気をしようとしているのだから、気になるのも嫌なのも当然だけど、口出しも邪魔も不要だよ?」
そうか。
婚約者が浮気しているのが気になるのも嫌なのも当然。そうだよな。
リンジーは俺の婚約者だから不愉快なのも当然なんだ。
「ザイン」
腕に置かれたザインの白くて長い指。
「ん?」
微笑む薄桃色の唇。青灰色の瞳。
俺が好きなのはザインだ。リンジーが浮気しようと婚約解消を企もうと関係ない。
関係ない。が。
「…リンジーの相手がどんな男か見たい。もちろん邪魔などしない。俺より良い男なのか確認したいだけだ」
リンジーの決めた「条件」がどんなものかわからないが、この俺との婚約を解消する程の相手なのか、気になるのは当然だろう。
「リンジーのデートを見に行くって事?」
ザインが目を見開いて言った。
「…確認だ」
ヒューイは自分の腕に置かれたザインの白くて綺麗な手を、反対の手でぎゅっと握る。
「いいよ。俺も一緒に行く」
ザインは口角を上げてそう言った。
放課後、ザインは借りていた本を返却しに図書室へと向かう。
「やっぱり手強いな…」
誰にも聞こえない、小さな声で呟いた。
図書室に入ると、他の本を手に取ると受付台の前に立つ。
「ああ、ザイン君」
受付の奥から司書の男が顔を出した。
伸ばしたと言うより伸びてしまったと言うような整えていない黒髪を後ろで束ねた眼鏡の男は、ザインを見て嬉しそうに笑う。
「返却と、貸出を」
ザインが二冊の本を差し出すと、男は受付台の向こうの椅子に腰掛けると、本のタイトルを書類へサラサラと書き込んだ。
「…もう少し強いものはないのか?」
ザインが小声で言うと、男はザインを見上げる。
「ありますが、駄目です」
そう小声で言うと、受付台の上に置いたザインの手の甲に顔を近付けて、チュッと音を立ててキスをした。
「こんな所で」
咎めるように言い、ザインが手を引こうとすると、男はすかさず手を伸ばし、ザインの手を握った。
「対価を」
男は、上目遣いでザインを見る。
「今?」
「誰も居ません」
男はザインの手を握ったまま、立ち上がった。
昼休憩の中庭でベンチに座っているリンジーとユーニス。ケントは今日は来ていない。
「デート?」
「うん。領地で知り合った子爵家の三男。王都に来るから会わないかって」
リンジーがそう言うと、ユーニスは頷く。
「ボンボンだって言ってた男性だっけ?もう一人の伯爵家の次男って人は王都には来ないの?」
「陛下の誕生パーティーの時期にお父様だけ王都に来て、本人は領地で留守を任されてるそうで、基本的に王都にはあまり来ないらしいわ」
「そうなんだ。でもデートって大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
リンジーは不思議そうにユーニスを見た。
「だって二人きりでしょ?それにヒューイ様の婚約者が他の男性と会ってる所を知り合いに見られたら…」
「うーん、そうよね。変装でもしようかしら?」
リンジーが顎に手を当てて考えている時、ベンチの後ろの大きな木の幹の影から、一人の女生徒が立ち去って行った。
-----
「デート?リンジーが?」
食堂にいるヒューイの前には、木の影から立ち去った女生徒が座っている。
「はい。子爵家の三男と。変装して行くって言ってました」
「子爵家?」
「はい。あと伯爵家の次男とも繋がりがあるようでした」
「……」
ヒューイが眉を顰めるのを見て、女生徒は満足そうに笑った。
そして、声を顰めて言う。
「オルディスさんは黒の貴公子様とご婚約されているのに、他の男性と逢瀬だなんて…不誠実です」
逢瀬。
「いえ、もうこれは密会と言っても過言ではないかも知れませんわ」
密会…?
「ヒューイ」
ヒューイの隣に座っていたザインが、心配そうにヒューイの腕に触れた。
「ザイン…」
「ねぇ君、さすがに密会は過言だろう?」
ザインはヒューイの腕に触れたまま、女生徒ににっこりと笑って言う。
「はっはい!白の貴公子様!か、過言でした」
女生徒が焦って言うと、ザインは笑顔のまま
「うん。情報をありがとう」
と言った。
「はい!ありがとうございます」
女生徒は「ここから去れ」と云うザインの言外の意図を察し、慌てて立ち上がると、頭を下げてその場を去って行った。
「ヒューイ、リンジーは『条件』を満たす男を探しているんだろう。他の男性と会ったとしても不思議ではないよ」
ヒューイの腕に触れた手を、撫でるように動かす。
「そうだな」
リンジーは本気で俺との婚約を解消したいと思って、行動をしているのか。
「ヒューイはリンジーのその行動の邪魔はしないって言ったよね?」
「ああ、言った」
確かに。俺はそう言った。
「もちろん、自分の婚約者が浮気をしようとしているのだから、気になるのも嫌なのも当然だけど、口出しも邪魔も不要だよ?」
そうか。
婚約者が浮気しているのが気になるのも嫌なのも当然。そうだよな。
リンジーは俺の婚約者だから不愉快なのも当然なんだ。
「ザイン」
腕に置かれたザインの白くて長い指。
「ん?」
微笑む薄桃色の唇。青灰色の瞳。
俺が好きなのはザインだ。リンジーが浮気しようと婚約解消を企もうと関係ない。
関係ない。が。
「…リンジーの相手がどんな男か見たい。もちろん邪魔などしない。俺より良い男なのか確認したいだけだ」
リンジーの決めた「条件」がどんなものかわからないが、この俺との婚約を解消する程の相手なのか、気になるのは当然だろう。
「リンジーのデートを見に行くって事?」
ザインが目を見開いて言った。
「…確認だ」
ヒューイは自分の腕に置かれたザインの白くて綺麗な手を、反対の手でぎゅっと握る。
「いいよ。俺も一緒に行く」
ザインは口角を上げてそう言った。
放課後、ザインは借りていた本を返却しに図書室へと向かう。
「やっぱり手強いな…」
誰にも聞こえない、小さな声で呟いた。
図書室に入ると、他の本を手に取ると受付台の前に立つ。
「ああ、ザイン君」
受付の奥から司書の男が顔を出した。
伸ばしたと言うより伸びてしまったと言うような整えていない黒髪を後ろで束ねた眼鏡の男は、ザインを見て嬉しそうに笑う。
「返却と、貸出を」
ザインが二冊の本を差し出すと、男は受付台の向こうの椅子に腰掛けると、本のタイトルを書類へサラサラと書き込んだ。
「…もう少し強いものはないのか?」
ザインが小声で言うと、男はザインを見上げる。
「ありますが、駄目です」
そう小声で言うと、受付台の上に置いたザインの手の甲に顔を近付けて、チュッと音を立ててキスをした。
「こんな所で」
咎めるように言い、ザインが手を引こうとすると、男はすかさず手を伸ばし、ザインの手を握った。
「対価を」
男は、上目遣いでザインを見る。
「今?」
「誰も居ません」
男はザインの手を握ったまま、立ち上がった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】冒険者PTを追放されたポーターの僕、チートスキルに目覚めて世界最強に。美少女たちにもモテまくりで、別の意味でツッコミが追いつかない
岡崎 剛柔
ファンタジー
「カンサイ、君は今日限りでポーターをクビだ。さっさと出て行ってくれ」
ポーターとして日々の仕事を頑張っていたカンサイは、自身が所属していた冒険者パーティーのリーダーから給料日前にそう宣告された。
しかもリーダーのクビの理由はあまりにも身勝手で理不尽だったことに加えて、働きぶりが無能だから給料を支払わないとも告げてきたのだ。
もちろん納得がいかなかったカンサイは、リーダーに掴みかかりながら抗議して給料の支払いを求めた。
しかし、リーダーは給料の支払いどころか「無能が俺に触れるな」と平手打ちをしてきた。
パンッ!
その瞬間、カンサイは世界最強かつ空前絶後の超絶スキル――【ツッコミ】スキルに目覚める。
そして心身ともに生まれ変わったカンサイは、この【ツッコミ】スキルを使ってリーダーとその仲間を瞬殺ざまぁした(ざまぁしたのは男だけで女魔法使いは仲間にした)。
やがてカンサイはロリっ子神様(?)と出会うことで、自分の真の正体がわかるどころか【ツッコミ】スキルが【神のツッコミ】スキルへと変化する。
その後、カンサイは女魔法使い、ロリっ子神様(?)、第三王女たちと独自のハーレムを築いたり、魔人を倒して国王に力を認められて領地をもらったり、少し変な少女に振り回されたりしながらも何やかんやと〝ツッコミ〟をしながら成り上がっていく。
平手打ちから始まったポーターのツッコミ無双ファンタジー、ここに大開幕!!
【完結】地味顔令嬢は平穏に暮らしたい
入魚ひえん
恋愛
地味で無難な顔立ちの令嬢ティサリアは、よく人違いにあう。
隣国に住む親戚が主催する夜会に参加すると、久々に会う従兄たちとの再会もそこそこに人違いをされ、注目の的となってしまった。
慌てて会場を去ろうとするティサリアだったが、今度は一度見たら忘れるとは思えない、目を見張るような美形の男性に声をかけられて、まさかのプロポーズを受ける。
でも知らない人。
「ごめんなさい! 今のことは誰にも言いませんから気づいて下さい! 本当に人違いなんです!!」
これは平穏に暮らしたいけれどうっかり巻き込まれがちな、だけど事情を知ると放っておけずに助けてしまう令嬢のお話。
***
閲覧ありがとうございます、完結しました!
コメディとシリアス混在+恋愛+わりとほのぼの。他にも仲良し家族等、色々な要素が混ざってます。
人格に難のある方がうろついていますので、苦手な方はご注意ください。
設定はゆるゆるのご都合主義です。R15は念のため。
よろしければどうぞ~。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!
アトハ
恋愛
「フィーネ・アレイドル公爵令嬢! 私は、貴様との婚約を破棄することをここに宣言する!」
王子に婚約破棄された私(フィーネ・アレイドル)は、無実の罪で魔族の支配する魔族領に追放されてしまいました。
魔族領に降りた私を待っていたのは、幼い頃に助けた猫でした。
魔族にすら見えない猫ですが、魔族領では魔王の右腕として有名な魔族だったのです。
驚いた私に、猫はこう告げました。
「魔王様が待っています」
魔王様が待ってるって何、生贄にでもされちゃうの? と戦々恐々とする私でしたが、お城で待っていたのは私を迎えるための大規模な歓迎パーティ。
こうして私の新天地での幸せな生活が始まったのでした。
※ 他の小説サイト様にも投稿しています
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる