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「こっちは伯爵家の次男、こっちは子爵家の三男、こっちは商家の長男、か」
リンジーはテーブルの上に男性からの手紙を三通並べて置くと、ソファの背もたれにもたれて腕を組んだ。
近隣の夜会やサロンなどに出席し、知り合った三人の男性。
「一番脈がありそうなのは商家の長男だけど…」
貴族社会と接点を持ちたい商家。その長男。だけど、それだと私のために「何もかもを捨てる」なんて事する訳がないわ。
伯爵家の次男は堅実そうな人だったな。
まあだからこそ、我が家の財政状態知ったらすぐ逃げそうだけど。
子爵家の三男はボンボンっぽかったから、上手くいけば駆け落ちとかしてくれそうだけど…
ヒューイとの婚約を解消するためには、私を好きになってもらわなくちゃいけない。私もその人を好きにならないといけない。
「…うーん」
リンジーは三通の封筒を纏めて持つと、立ち上がって部屋の隅にあるライティングデスクの引き出しを開ける。
そこにはクリーム色の封筒が何枚も入っていた。
これはヒューイからの手紙。
手紙と言っても書いてあるのは大体いつも一言だけ。「今日は暑かった」とか「雨が降った」とか。
書く事がないなら、書かなくて良いのに。
要するに「婚約者から週に一度は手紙が届く」って事実が大切で、ヒューイにとっては義務なんだってわかってるのに、こんなものが領地まで届くから…どうしても待ってしまう。
「あーやだやだ」
クリーム色の封筒の上に、リンジーは手に持っていた封筒を乗せて引き出しを閉めた。
-----
夏期休暇も終わりに近付き、明日にはオルディス家四人も王都への帰途につくと言う日にオルディス家の領地屋敷を訪れた人物を見て、リンジーはあんぐりと口を開けた。
「やあ。リンジー」
乗馬服に帽子を深く被り、薄く色の付いた眼鏡を掛けた男性がリンジーに向かって手を上げる。
「ケント!?」
「久しぶりだね」
色付き眼鏡と帽子を取ると、紫の髪と瞳が露わになった。
「久しぶり…だけど、どうしてケントがこんな所に?」
王都からここまで馬車で一週間以上かかるのに。
「長期休暇を利用した視察だよ。西の港町まで行って、帰る途中だ」
「視察なの?一人で?」
「さすがに一人じゃないな。従者を一人連れている」
「そっか」
従者は今、厩舎で乗って来た馬を休ませているそうだ。
「お忍びだから、俺がここに来たのは内緒な」
ケントはニッコリ笑って唇の前に人差し指を立てた。
「ヒューイの誕生パーティーでリンジーが倒れたって聞いて、あれから会ってなかっただろう?どうしてるのか気になって」
応接室に移動して、紅茶のカップを手にしたケントが言った。
「ケントにも心配掛けてたのね。ごめんなさい」
ケントの向かい側に座るリンジーは少し頭を下げる。
「いや。元気そうで良かった。安心したよ」
ニッコリと笑うケント。
「ありがとう」
リンジーもニッコリと笑った。
「ところで」
笑顔のまま、カップを置いたケント。
「?」
リンジーもカップをソーサーに置こうと手を伸ばす。
「あのまま、ヒューイの部屋に泊まったんだって?」
ガチャンッ。
カップを取り落とすリンジー。
「リンジーがよく眠っていたから起こすに忍びなかった。自分が隣の部屋のソファで寝た。とヒューイは言っていたが」
「え?あ、そう。そうなの!」
ヒューイがソファで寝た事になってるのね。
ヒューイの私室は、ソファや机のある部屋から、隣の寝室へ繋がっており、廊下に出なくても寝室と行き来できるようになっている貴族屋敷によくある構造だ。更にヒューイの部屋には専用の風呂や洗面台もあるのだ。
でも間に扉と壁があるって言っても、私がヒューイの部屋に泊まって、ヒューイも自分の部屋にいたなら世間的には何もなかった事にはならないわ。
まあヒューイの言う通り、ヒューイの部屋で目が覚めた時、既に夜中だった時点で何かあったもなかったも側から見れば同じ事なんだけど。
ケントはリンジーを見て、意味深な笑顔を浮かべた。
「本当は同じベッドで朝まで過ごしたんだってな」
「…!」
目を見開いてリンジーはケントを見る。
「ヒューイが勝ち誇った顔で言っていた」
なっ。何で?勝ち誇るって何?
「まあでも何もなかったんだろ?」
リンジーはブンブンと首を縦に振った。
「ない!ないない!」
ふっと息を吐くケント。
「ケント?」
「……」
急に真顔になって、ケントはリンジーを真っ直ぐに見ながら、言った。
「リンジー、俺と結婚しないか?」
「こっちは伯爵家の次男、こっちは子爵家の三男、こっちは商家の長男、か」
リンジーはテーブルの上に男性からの手紙を三通並べて置くと、ソファの背もたれにもたれて腕を組んだ。
近隣の夜会やサロンなどに出席し、知り合った三人の男性。
「一番脈がありそうなのは商家の長男だけど…」
貴族社会と接点を持ちたい商家。その長男。だけど、それだと私のために「何もかもを捨てる」なんて事する訳がないわ。
伯爵家の次男は堅実そうな人だったな。
まあだからこそ、我が家の財政状態知ったらすぐ逃げそうだけど。
子爵家の三男はボンボンっぽかったから、上手くいけば駆け落ちとかしてくれそうだけど…
ヒューイとの婚約を解消するためには、私を好きになってもらわなくちゃいけない。私もその人を好きにならないといけない。
「…うーん」
リンジーは三通の封筒を纏めて持つと、立ち上がって部屋の隅にあるライティングデスクの引き出しを開ける。
そこにはクリーム色の封筒が何枚も入っていた。
これはヒューイからの手紙。
手紙と言っても書いてあるのは大体いつも一言だけ。「今日は暑かった」とか「雨が降った」とか。
書く事がないなら、書かなくて良いのに。
要するに「婚約者から週に一度は手紙が届く」って事実が大切で、ヒューイにとっては義務なんだってわかってるのに、こんなものが領地まで届くから…どうしても待ってしまう。
「あーやだやだ」
クリーム色の封筒の上に、リンジーは手に持っていた封筒を乗せて引き出しを閉めた。
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夏期休暇も終わりに近付き、明日にはオルディス家四人も王都への帰途につくと言う日にオルディス家の領地屋敷を訪れた人物を見て、リンジーはあんぐりと口を開けた。
「やあ。リンジー」
乗馬服に帽子を深く被り、薄く色の付いた眼鏡を掛けた男性がリンジーに向かって手を上げる。
「ケント!?」
「久しぶりだね」
色付き眼鏡と帽子を取ると、紫の髪と瞳が露わになった。
「久しぶり…だけど、どうしてケントがこんな所に?」
王都からここまで馬車で一週間以上かかるのに。
「長期休暇を利用した視察だよ。西の港町まで行って、帰る途中だ」
「視察なの?一人で?」
「さすがに一人じゃないな。従者を一人連れている」
「そっか」
従者は今、厩舎で乗って来た馬を休ませているそうだ。
「お忍びだから、俺がここに来たのは内緒な」
ケントはニッコリ笑って唇の前に人差し指を立てた。
「ヒューイの誕生パーティーでリンジーが倒れたって聞いて、あれから会ってなかっただろう?どうしてるのか気になって」
応接室に移動して、紅茶のカップを手にしたケントが言った。
「ケントにも心配掛けてたのね。ごめんなさい」
ケントの向かい側に座るリンジーは少し頭を下げる。
「いや。元気そうで良かった。安心したよ」
ニッコリと笑うケント。
「ありがとう」
リンジーもニッコリと笑った。
「ところで」
笑顔のまま、カップを置いたケント。
「?」
リンジーもカップをソーサーに置こうと手を伸ばす。
「あのまま、ヒューイの部屋に泊まったんだって?」
ガチャンッ。
カップを取り落とすリンジー。
「リンジーがよく眠っていたから起こすに忍びなかった。自分が隣の部屋のソファで寝た。とヒューイは言っていたが」
「え?あ、そう。そうなの!」
ヒューイがソファで寝た事になってるのね。
ヒューイの私室は、ソファや机のある部屋から、隣の寝室へ繋がっており、廊下に出なくても寝室と行き来できるようになっている貴族屋敷によくある構造だ。更にヒューイの部屋には専用の風呂や洗面台もあるのだ。
でも間に扉と壁があるって言っても、私がヒューイの部屋に泊まって、ヒューイも自分の部屋にいたなら世間的には何もなかった事にはならないわ。
まあヒューイの言う通り、ヒューイの部屋で目が覚めた時、既に夜中だった時点で何かあったもなかったも側から見れば同じ事なんだけど。
ケントはリンジーを見て、意味深な笑顔を浮かべた。
「本当は同じベッドで朝まで過ごしたんだってな」
「…!」
目を見開いてリンジーはケントを見る。
「ヒューイが勝ち誇った顔で言っていた」
なっ。何で?勝ち誇るって何?
「まあでも何もなかったんだろ?」
リンジーはブンブンと首を縦に振った。
「ない!ないない!」
ふっと息を吐くケント。
「ケント?」
「……」
急に真顔になって、ケントはリンジーを真っ直ぐに見ながら、言った。
「リンジー、俺と結婚しないか?」
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