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ヒューイの家に行った日の夜、寮に戻ったリンジーはユーニスの部屋を訪れた。
「私、そもそもお見合いの話も聞いてなくて、お父様に連れて行かれた先がハウザント伯爵家だったの。『観劇に行こう』なんて珍しい事言うなーとは思ったけど、まさかお見合いさせられるとは思わなかったわ」
ユーニスはうんざりした様子で言う。
「そうだったの」
「出て来たお見合い相手がザイン様なのにも驚いたわ」
「そうよね」
リンジーはうんうんと頷く。
「ザイン様、私とあまりお話もなさらなかったし、お断わりされるんじゃないかしら?」
顎に人差し指を当ててユーニスは言う。
「ザインって割と人見知りする処があるから、初対面とか二人きりとかだと誰とでもそうよ?」
「そうなの?まあ私は断られても全然構わないんだけど」
ヒューイは「ザインはこの話しを断らない」って言ってたけど、それが本当なら…
「ごめんなさい。ユーニス」
「え?何?」
「ヒューイが、ザインとユーニスと結婚すれば、私がヒューイと結婚した後も会ったりしやすいだろうって言ってて…だからヒューイとザインは話し合ってユーニスをお見合い相手に選んだんだと思うの。だからザインの方からは断らないと思う…」
言いながら俯くリンジー。
確かに家の事情とかでザインはお見合いをしなきゃいけなかったんだろうけど、何だかユーニスを選んだ理由が私の友達だからってだけみたいで、ユーニスにも失礼な話しだわ。
「ああ…」
ユーニスは口元に手を当てて考える。
「なるほど、だから私が相手なのかって納得したわ。でもリンジーが謝る事じゃないし。それにしてもヒューイ様って自分がリンジーと結婚するって信じて疑ってないのね」
あっけらかんとユーニスは言った。
「え?」
「だって、私がザイン様と婚約したとして、リンジーが条件を満たしてヒューイ様との婚約を解消したら意味なくなるじゃない?ヒューイ様たちはそれはないって思ってるって事でしょ?」
本当だわ。
ヒューイは私が結局条件を達成できないと思ってるのね。もしくはどんな条件の男でも自分の方が上だって思ってる。
リンジーは膝の上に置いた自分の手を握りしめる。
「…本当に自信過剰だわ。ヒューイは」
私だって、特別綺麗でもない、頭が飛び抜けて良い訳でも、性格がとびきり良い訳でもない、実家に格がある訳でもないしお金もない、そんな私のために「何もかもを捨てる」男性なんていないってわかってる。
たった二年弱でそんな男性に出会う機会だってないし、何もかもを捨てるほどの愛を育むのは不可能だろう事もわかってる。
それでも私があの便箋にそう書いたのは、何より、何もかも捨てられる程、私の事を好きな人と結婚したいと思ってるって事をわかって欲しかったから。
でも、きっとあの便箋を見たらヒューイは鼻で笑うだろうな。
「どちらにしても、私の方にはお断りする理由もないのよね。親は乗り気だし」
ため息混じりにユーニスは言った。
-----
「ザインと見合いを?」
昼休憩の中庭で、いつものベンチで昼食を摂りながらケントが驚いて言う。
「ケント…殿下、もう少し小声で」
リンジーが口の前に人差し指を立てて言うと、ケントは「すまん」と小声で言って肩を竦めた。
周り中が三人の会話に聞き耳を立てているのだ。
「ユーニスがザインとお見合いをしたのか?」
小声で言うと、ユーニスは頷く。
「はい。この間のお休みの日に」
「何故ユーニスと?家同士に繋がりがあるのか?」
「それがどうやらザインとヒューイが話し合ってユーニスをお見合い相手に選んだみたいで…」
リンジーがそう言うとケントは眉を顰めた。
「ザインとヒューイが?と言う事はリンジーの友人だから、という理由なのか?」
「そうみたいです」
ザワッ。
中庭に居た生徒たちが騒めく。
「?」
生徒たちの視線が一斉に校舎の方へ向いたので、リンジーもその方向を見ると、校舎からヒューイとザインが出て来て、こちらへ歩いて来ているのが目に入った。
「やあ、ケント。最近中庭で昼食を摂ってるんだな」
歩きながら笑顔で言うヒューイ。
ケントも口角を上げてヒューイを見た。
「やあ、ヒューイ。中庭に来るなんて珍しいな」
何?この牽制し合ってるような空気。
笑顔のヒューイと、笑顔のケント。なのに二人の間に火花が見えた気がした。
ヒューイの家に行った日の夜、寮に戻ったリンジーはユーニスの部屋を訪れた。
「私、そもそもお見合いの話も聞いてなくて、お父様に連れて行かれた先がハウザント伯爵家だったの。『観劇に行こう』なんて珍しい事言うなーとは思ったけど、まさかお見合いさせられるとは思わなかったわ」
ユーニスはうんざりした様子で言う。
「そうだったの」
「出て来たお見合い相手がザイン様なのにも驚いたわ」
「そうよね」
リンジーはうんうんと頷く。
「ザイン様、私とあまりお話もなさらなかったし、お断わりされるんじゃないかしら?」
顎に人差し指を当ててユーニスは言う。
「ザインって割と人見知りする処があるから、初対面とか二人きりとかだと誰とでもそうよ?」
「そうなの?まあ私は断られても全然構わないんだけど」
ヒューイは「ザインはこの話しを断らない」って言ってたけど、それが本当なら…
「ごめんなさい。ユーニス」
「え?何?」
「ヒューイが、ザインとユーニスと結婚すれば、私がヒューイと結婚した後も会ったりしやすいだろうって言ってて…だからヒューイとザインは話し合ってユーニスをお見合い相手に選んだんだと思うの。だからザインの方からは断らないと思う…」
言いながら俯くリンジー。
確かに家の事情とかでザインはお見合いをしなきゃいけなかったんだろうけど、何だかユーニスを選んだ理由が私の友達だからってだけみたいで、ユーニスにも失礼な話しだわ。
「ああ…」
ユーニスは口元に手を当てて考える。
「なるほど、だから私が相手なのかって納得したわ。でもリンジーが謝る事じゃないし。それにしてもヒューイ様って自分がリンジーと結婚するって信じて疑ってないのね」
あっけらかんとユーニスは言った。
「え?」
「だって、私がザイン様と婚約したとして、リンジーが条件を満たしてヒューイ様との婚約を解消したら意味なくなるじゃない?ヒューイ様たちはそれはないって思ってるって事でしょ?」
本当だわ。
ヒューイは私が結局条件を達成できないと思ってるのね。もしくはどんな条件の男でも自分の方が上だって思ってる。
リンジーは膝の上に置いた自分の手を握りしめる。
「…本当に自信過剰だわ。ヒューイは」
私だって、特別綺麗でもない、頭が飛び抜けて良い訳でも、性格がとびきり良い訳でもない、実家に格がある訳でもないしお金もない、そんな私のために「何もかもを捨てる」男性なんていないってわかってる。
たった二年弱でそんな男性に出会う機会だってないし、何もかもを捨てるほどの愛を育むのは不可能だろう事もわかってる。
それでも私があの便箋にそう書いたのは、何より、何もかも捨てられる程、私の事を好きな人と結婚したいと思ってるって事をわかって欲しかったから。
でも、きっとあの便箋を見たらヒューイは鼻で笑うだろうな。
「どちらにしても、私の方にはお断りする理由もないのよね。親は乗り気だし」
ため息混じりにユーニスは言った。
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「ザインと見合いを?」
昼休憩の中庭で、いつものベンチで昼食を摂りながらケントが驚いて言う。
「ケント…殿下、もう少し小声で」
リンジーが口の前に人差し指を立てて言うと、ケントは「すまん」と小声で言って肩を竦めた。
周り中が三人の会話に聞き耳を立てているのだ。
「ユーニスがザインとお見合いをしたのか?」
小声で言うと、ユーニスは頷く。
「はい。この間のお休みの日に」
「何故ユーニスと?家同士に繋がりがあるのか?」
「それがどうやらザインとヒューイが話し合ってユーニスをお見合い相手に選んだみたいで…」
リンジーがそう言うとケントは眉を顰めた。
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「そうみたいです」
ザワッ。
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「?」
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歩きながら笑顔で言うヒューイ。
ケントも口角を上げてヒューイを見た。
「やあ、ヒューイ。中庭に来るなんて珍しいな」
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