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 ドレスと靴と宝飾品のデザインを決めた後、ヒューイとお茶を飲んでいるリンジーは、会話が途切れると途端に居心地の悪さを感じた。
 そっか。いつもヒューイと会う時はザインも居るのが普通だからか。二人きりって本当に子供の頃以来かも。
「今日、ザインは?」
「……」
 ヒューイは視線を上げると、リンジーをじっと見た。
「何?」
 リンジーが首を傾げると、ヒューイは唇をへの字にして呟く。
「……だ」
 うわ。ヒューイったら拗ねてる?こんな表情かおを見るのも子供の頃以来だわ。
「え?何?」
 聞き返すと、リンジーを睨むようにして言った。
「み、あ、い、だ!」
 
「みあい?…お見合い!?」
 リンジーが驚いて言うと、ますますへの字の角度を鋭角にするヒューイ。
「そうだ」
 なるほど。ザインが今日ここにいないのはお見合いだからか。それでヒューイも機嫌が悪いの?
「あれ?でもザインのお兄様って去年結婚したばかりよね?」
 ザインのお兄様は確か八歳上で、昨年の春結婚したばかりで、普通なら次男のザインはまだ学園生だし、まして長期休暇でもない今お見合いするような理由はない筈だけどな。
「…離婚したんだ」
 苦虫を噛み潰したような表情で言うヒューイ。
「え?ザインのお兄様が?」
「ああ」
 去年結婚してもう離婚?
 それでもまだザインのお兄様って二十五歳よね?ザインがお見合いするよりお兄様がお見合いして再婚する方が現実的なんじゃ…?
 まあでもハウザント家の事情はわからないから、関係ない私が疑問に思っても仕方ないのか…
「…そう」
 リンジーは短くそう言うと、紅茶を一口飲む。
「ああ」
 ヒューイもそう言うと、紅茶を飲んだ。

「……」
「……」
 二人でただ黙って紅茶を飲んでいると、リンジーのカップはとうとう空になってしまった。
 気まずいな…
 ヒューイはザインの話しをしてからずっと不機嫌そうな顔だし。もうドレスの話しは終わったんだし、帰っても良いかしら?

「あの、私、帰るわね」
 リンジーが立ち上がりながら言うと、ヒューイは眉を顰めたままで「ああ」と言う。

 ヒューイを残して部屋を出ると、リンジーはホッと息を吐いた。
 普通、よっぽど忙しいのでもなければ、ただの幼なじみでも玄関まで、婚約者なら馬車に乗るまで見送るわよね?
 まあ話す事もなくて気まずいだけだし、送ってくれなくて全然良いんだけど…もしかして、ヒューイと結婚したらいつもこんな感じなのかしら?
 ああ…嫌だな。

「リンジー」
 部屋から出て来たヒューイが、階段に差し掛かっていたリンジーを追って来た。
「…何?」
 振り向いたリンジーに、ヒューイは真剣な…憤怒とも言えるような表情で言う。
「ユーニス・マクドネルだ」
「え?」
 ユーニス?
「ザインの見合い相手はユーニス・マクドネルだ」
「…は?」
 ザインのお見合いの相手がユーニス?
「伯爵家の次男のザインがわざわざ見合いなどをするのは、メイナード兄さんの失敗を繰り返さないためだ」
 メイナードはザインの兄の名前だ。
「失敗?」
 貴族の結婚でお見合いという手順を踏むのは確かに珍しい。通常は家長同士で結婚を決めてしまうからだ。
 ハウザント家の嫡男メイナードの結婚も家長同士で決めたが、結婚から一年足らずで離婚した。
 と、言う事は、ザインのお兄様夫婦には何か決定的に折り合わない理由があったからって事よね?仮面夫婦になったとしても普通は一年で離婚しないから。
 その理由は何だかわからないけど、とにかくザインも同じ轍を踏まないように、お見合いで相手との相性を見てから婚約しようって事なのかしら?

「ザインはこの見合いを断らない。ユーニス・マクドネルにも『白の貴公子』との結婚を断る理由はないだろう」
「……」
 確かに同じ伯爵家でもユーニスの家よりザインの家の方が格上で資産家だし、ザイン自身も見目麗しく頭脳明晰、ユーニスの方から断る理由はないとは思う。
 まあそれでユーニスが幸せになるなら、全然構わないけど…
「リンジーもザインの結婚相手がユーニス・マクドネルなら、俺と結婚した後も交流しやすくて良いだろう?」
 ヒューイは眉を顰めたまま口角を上げた。



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