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 学園は十五歳になる年に入学し、四年間学び十八歳で卒業する。貴族の令息令嬢は幼い頃より家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により五歳から十歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが学園へと入学する。
 全寮制で、いかに高位の貴族でも侍女や侍女、メイドなどを伴う事はできない決まりだ。もちろん王族でも。

 学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の冬期休暇、春期休暇がある。

「それで女生徒たちの視線が厳しいのね」
 学園の中庭のベンチでサンドイッチを食べながらリンジーの友人ユーニスが言った。
 ユーニス・マクドネルは学園一年生の時隣の席になったのがきっかけでリンジーと友達になった伯爵家の次女だ。
「そうなの。とても食堂になんて行けないわ」
 リンジーもサンドイッチを手にため息を吐く。
 今も、ベンチのリンジーたちを遠巻きに見ている女生徒たちが居る。こちらをチラチラ見ながら何かを話している。
 どうせいつもの「何故あんな平凡な女が」よね。今まではその後に続くのが「黒の貴公子と白の貴公子と親しくしてるのよ」だったのが「黒の貴公子の婚約者なのよ」になっただけ。
 ああ、更に「玉の輿狙い」「お金目当て」も加わったかしら。
「刺さるものね。視線が。でも春だし中庭で昼食も悪くないわよ」
 笑って言うユーニス。
 自分が見られてる訳じゃなくても、こんなに見られてるの嫌に決まってるのに。
「ありがとユーニス」

「それにしても『契約結婚』だなんて酷い話しね」
 ユーニスが小声で言う。
「でしょ?ヒューイったら女性を何だと思ってるのかしら」
「本当ね。それでリンジーの条件って言うのは達成できそうなの?」
「…さあ?」
 サンドイッチを齧りながら肩を竦めた。
「さあって、勝算がありそうだからその条件にしたんじゃないの?」
 ユーニスが不思議そうに首を傾げる。
 ユーニスにもリンジーが決めた条件は教えてはいない。
「ううん。条件は私の理想だから。勝算とかじゃないのよね」
「じゃあ達成できなかったら、大人しく女性を軽視しているヒューイ様と結婚するの?」
「そうなるわ。でも達成できなかったんだから諦めが付くと思う」
 多分ね。とリンジーは笑った。
「…友達が諦めて結婚するとか、嫌なんですけど」
 唇を尖らせてユーニスは言う。
「ありがとうユーニス。でもそれは結局親の決めた人と結婚するのと一緒だと思えば…ねえ?」
「うーん」
「ユーニスだって、お父様から『結婚が決まった』って言われたら受け入れるでしょ?私は抗う機会があるだけ幸運だと思うわ」
「うーん、まあそうか。そうよね。でもなあ…うーん…」
 腕を組んで唸るユーニス。

「そう言うユーニスは?婚約の話しとかはないの?」
「私?今のところ何も聞いてないわ。お姉様の婚約が決まったばかりだから、私も卒業後なんじゃないかしら?」
 マクドネル伯爵家の三姉妹の長女であるユーニスの姉は、ついこの間学園を卒業したばかりだ。
「でもユーニスのお姉様はお婿さんを迎えるんでしょう?ユーニスはお嫁に行くんだからもっと早く決まるんじゃないかしら?」
「そうかしら?でもまあお父様が決める事だから…あ、そうか。こうやってお父様が決めた事を受け入れる気持ちでヒューイ様との婚約を受け入れるつもりなのか…」
 ユーニスが顎に手を当てて考えながら言う。
 そう。私だって、相手がヒューイじゃなければ大人しく婚約を受け入れたわ。
「そうよ」
「まああくまで条件を達成できなかった場合には、よね?」
 人差し指を立てて笑ってそう言うユーニス。
「そうそう。そう言う事。あくまでも達成できなかったら、ね」
 リンジーも同じように人差し指を立てて言った。



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