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「え?リンジーはヒューイの事好きだよね?昔から」
 ザインが意外そうな表情で言う。
「なっ!何言ってるの!?ザイン」
「そうだったろ?」
 何その「悪気は全くありません」って表情!
「昔よ昔!今は違うわ」
「そうなの?」
「そうだよなあ。リンジーは俺を好きだよな?」
 何その「当たり前だろ」って表情!
「昔だから!今は好きじゃない!」
 あああ~こう言うのってムキになって言えば言うほど逆に思われるのよ~
 ほら、ヒューイがニヤニヤしてる!
 わかってるけど、今もだって思われるのは嫌なんだもの。否定しちゃうわよ、そりゃあ。

「まあ、俺は別に今リンジーが俺を好きでも、好きじゃなくても、どっちでも良いんだ。リンジーだって貴族令嬢なんだから普通は結婚は親が決めて、それに異を唱える事はできないだろ?どこの誰とも知れない男に嫁がされるより、俺の方が良くないか?」
 ヒューイが脚を組み替えながら言う。

「…どっちでも…か」
 私にとってはどこの誰とも知れない男の方がマシだけど。
「それに、俺は跡取りをもうける義務さえ果たす事ができれば、後はリンジーを自由にしてやりたいと思ってるんだ」
「…は?」
 自由にしてやりたい、とは?
「離婚はしないが…恋人とか、愛人とか、自由に…」
「はあ!?」
 子供さえ産めば、妻はもう要らないって事?
 自由にって言えば聞こえは良いけど、離婚はしないって飼い殺しじゃない。
 それに、ヒューイは…
 ヒューイは、最初から妻を愛する気はないって事じゃないの。

「つまり『契約結婚』だ。実家への資金援助は惜しまないし、何不自由ない生活を確約する。代わりにリンジーにはグラフトン家の後継ぎを産んでもらいたいんだ」
 笑顔で言うヒューイ。
 ザインは少し眉を寄せてヒューイとリンジーを心配そうに見ている。

 我が家の財政がかなり逼迫しているのは確か。お父様が私をできるだけ裕福な家に嫁がせたいと思っているのも確か。ヒューイの家以上に私を高く買ってくれる家はないだろうと言うのも確か。
 だけど。

「…条件があるわ」
 リンジーは低い声で言った。
「条件?」
 ヒューイは少し首を傾げる。
「学園を卒業するまでに、私がヒューイより良い条件の結婚相手を見つけたら婚約はなかった事にして」
「俺より良い条件の相手?そんな奴いるか?」
「きっといるわよ。私の求める条件を満たす人」
「リンジーの求める条件?」
「そうよ」
「それは狡くないか?リンジー自身が条件を設定するなら、どんな相手でもアリにできるだろう?」
「それじゃあ便箋と封筒を貸して。私の求める条件を書いて封をしてヒューイに預けるわ。後で変える事ができないように」
「なるほど」
「但し卒業パーティーの日までその封筒は開けないで。ヒューイが条件を知って私の邪魔をしないとも限らないし」
「邪魔ねぇ」
 ヒューイは口角を上げる。
 邪魔なんかする気はないって言いたいのね。
「では白紙を封筒に入れられても困るし、その条件が確かに書かれているという確認をしたい」
「それはそうね」
「ザインに見てもらうか?」
 隣のザインの方を見るヒューイ。
「俺はかまわないよ」
 ザインは頷くが、リンジーは首を振る。
「いいえ」
「リンジー、俺じゃ駄目なの?」
「ヒューイや私の関係者じゃ駄目よ。内容を教えるかも知れないし、いざと言う時嘘を吐くかも知れないわ」
「じゃあ誰に?」
 ザインが首を傾げた。
「そうだ。ケントが良いわ」
 リンジーがポンと手を叩いて言う。
「ケント!?ケント殿下!?」
「…リンジー、第二王子をこんな個人的な案件の証人にしようなんて、さすがに大胆すぎないか?」
 驚くザイン。ヒューイも驚いた表情だ。
「そうかしら?適任だと思うけど。あ、そうだ、ついでに王家かケントの印璽で封緘してもらいましょう」
 蝋封すれば開ければわかるし、グラフトン家の印璽なら封筒を変えてやり直しても私にはわからないけど、王子の印璽ならそうそうもらいに行く訳にはいかないもの。

 ケント・ルーセントはこの国の第二王子。
 リンジー、ヒューイ、ザインと同じ歳で、四歳から七歳までグラフトン公爵家に預けられていたので、ヒューイとは兄弟同然、リンジーにとってはヒューイと同じ幼なじみだ。
 ザインは幼い頃は領地で生活していて、七歳で王都に来てからヒューイと仲良くなり、その縁でリンジーとも親しくなった。ケントはその頃に王宮へ戻っていたので、ザインとケントはそんなに親しくはないのだ。
「…ケントか」
 ヒューイは顎に手を当てて、リンジーを見た。
「何?」
「いや、じゃあケントに頼んでみよう」
 ヒューイはそう言うと、リンジーから目を逸らした。



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