3 / 84
2
しおりを挟む
2
リンジーの手を取って応接室を出たヒューイは、廊下に出るとリンジーの手をぱっと離すと、ザインと並んで歩き出した。
…こういう処よね。
「ヒューイ、私はこの婚約承諾していないわよ」
二人の後をついて歩きながらリンジーは無表情で言う。
「何故?グラフトン家と縁続きになる事を国中の貴族が狙っているじゃないか」
そりゃそうだけど、自分で言うなんてね。それに振り向きもしない。
「それに俺は、家柄だけではなく『黒の貴公子』として令嬢たちに大人気だし」
だから自分で言うなっての。
「自分で『黒の貴公子』だなんて、恥ずかし気もなくよく言うわ」
「そう呼ばれてるのは本当だからな。な、『白の貴公子』」
ポンッとザインの肩を叩くヒューイ。
リンジーから見えるヒューイの口元が笑っている。
「いや俺はそう呼ばれるのは恥ずかしいよ」
ザインもヒューイに笑顔を向けている。リンジーには後ろからの角度で少ししか見えないけれど。
ヒューイは黒髪の短髪に緑の瞳、端正な顔立ちの長身の男前。ザインは真っ直ぐな銀の長髪、青灰色の瞳に美麗な顔立ちの美男子。
まだ学園三年生の二人は社交界には出ていないが、学園でも人気ナンバーワンツーを占め、社交界でも話題で、デビューを待ち兼ねている令嬢が沢山いるのだ。
ヒューイの部屋に入ると、リンジーを長ソファに座らせ、一人掛けのソファにヒューイとザインがそれぞれ座った。
「で?リンジーは俺と婚約するのを承諾してないって?」
笑いながら言うヒューイ。
「そうよ」
「オルディス伯爵は二つ返事で承諾してくださったが?」
お~と~う~さ~ま~
確かに「婚約が決まったから」って言ってたから、承諾したのは知ってたけど、二つ返事って何よ。二つ返事って。
「…お父様は承諾したかも知れないけど、私はしてないわ」
ヒューイを睨むように見る。
ヒューイは笑顔で眉を上げた。
「オルディス家、一昨年の豪雨、昨年の台風と長雨で領地の作物が壊滅的な被害を受けて収入激減らしいじゃないか。資金援助を申し出たら大変喜ばれたぞ」
「まさかお父様、資金援助と引き換えに私をヒューイに押し付けたの?」
いやでも、それはまったく等価じゃないし…
「いや、俺が資金援助をする代わりにリンジーを嫁にくれと言った」
「…は?」
お父様が「財政支援を持ち掛けて来たのも、リンジーを嫁に欲しいと言い出したのも、ヒューイ君だ」って言ってたの、全然信じてなかったのに…まさか本当だったの?
「何で私?」
眉を顰めて言うリンジーに、ヒューイは笑顔で言う。
「リンジーなら幼なじみで気心知れてるし、父上や母上とも上手くやれるし、ザインも気を使わなくて済むだろ?」
…ああ。なるほど。ザインか。
ヒューイとザインは昔から仲が良いものね。私は女子だから年齢が高くなるにつれ二人とはそんなに会わなくなったけど、ヒューイとザインはこうして学園の二日しかない週末にもいつも一緒に居るもの。
人当たりは良いけど人見知り気味のザイン。彼と仲良くできるのがヒューイの配偶者の条件って訳か。
リンジーがチラッとザインを見ると、ザインもニコリと笑顔を返す。
綺麗なザイン。そして格好良いヒューイ。
幼なじみの華やかな二人に比べて、私は、容姿は十人並み、中肉中背、髪はゴワゴワしたウェーブで結わえてないと収拾がつかないし、色も金髪と言えば聞こえは良いけど、ただの燻んだ黄色だ。瞳もありふれた薄茶色。要するに、何と言うか、あまり特徴がない平凡女子なのだ。
「それにグラフトン家の嫡男が十七歳になるのにまだ婚約もしていないなど、遅いくらいだろ?父上からも母上からもせっつかれてさ、山のような縁談の中から相手を探すくらいならリンジーの方が良いじゃないか」
そう言ってヒューイはにっこりと笑う。
リンジーの方が良い。か。
リンジーが良い、じゃなくて。
まったく、悪気も邪気もなしに相手を斬り付けるのがヒューイよね。
「……」
リンジーはじっとヒューイを見た。
「何だ?」
ヒューイが眉を上げてリンジーを見る。
「…私には選ぶ権利はないのね」
ヒューイから視線を逸らして言うリンジーに、ヒューイは眉を顰めた。
「俺だぞ?何が不満だ?」
この自信過剰男め。
リンジーは俯いて言う。
「だって、私、ヒューイの事好きじゃないもの」
リンジーの手を取って応接室を出たヒューイは、廊下に出るとリンジーの手をぱっと離すと、ザインと並んで歩き出した。
…こういう処よね。
「ヒューイ、私はこの婚約承諾していないわよ」
二人の後をついて歩きながらリンジーは無表情で言う。
「何故?グラフトン家と縁続きになる事を国中の貴族が狙っているじゃないか」
そりゃそうだけど、自分で言うなんてね。それに振り向きもしない。
「それに俺は、家柄だけではなく『黒の貴公子』として令嬢たちに大人気だし」
だから自分で言うなっての。
「自分で『黒の貴公子』だなんて、恥ずかし気もなくよく言うわ」
「そう呼ばれてるのは本当だからな。な、『白の貴公子』」
ポンッとザインの肩を叩くヒューイ。
リンジーから見えるヒューイの口元が笑っている。
「いや俺はそう呼ばれるのは恥ずかしいよ」
ザインもヒューイに笑顔を向けている。リンジーには後ろからの角度で少ししか見えないけれど。
ヒューイは黒髪の短髪に緑の瞳、端正な顔立ちの長身の男前。ザインは真っ直ぐな銀の長髪、青灰色の瞳に美麗な顔立ちの美男子。
まだ学園三年生の二人は社交界には出ていないが、学園でも人気ナンバーワンツーを占め、社交界でも話題で、デビューを待ち兼ねている令嬢が沢山いるのだ。
ヒューイの部屋に入ると、リンジーを長ソファに座らせ、一人掛けのソファにヒューイとザインがそれぞれ座った。
「で?リンジーは俺と婚約するのを承諾してないって?」
笑いながら言うヒューイ。
「そうよ」
「オルディス伯爵は二つ返事で承諾してくださったが?」
お~と~う~さ~ま~
確かに「婚約が決まったから」って言ってたから、承諾したのは知ってたけど、二つ返事って何よ。二つ返事って。
「…お父様は承諾したかも知れないけど、私はしてないわ」
ヒューイを睨むように見る。
ヒューイは笑顔で眉を上げた。
「オルディス家、一昨年の豪雨、昨年の台風と長雨で領地の作物が壊滅的な被害を受けて収入激減らしいじゃないか。資金援助を申し出たら大変喜ばれたぞ」
「まさかお父様、資金援助と引き換えに私をヒューイに押し付けたの?」
いやでも、それはまったく等価じゃないし…
「いや、俺が資金援助をする代わりにリンジーを嫁にくれと言った」
「…は?」
お父様が「財政支援を持ち掛けて来たのも、リンジーを嫁に欲しいと言い出したのも、ヒューイ君だ」って言ってたの、全然信じてなかったのに…まさか本当だったの?
「何で私?」
眉を顰めて言うリンジーに、ヒューイは笑顔で言う。
「リンジーなら幼なじみで気心知れてるし、父上や母上とも上手くやれるし、ザインも気を使わなくて済むだろ?」
…ああ。なるほど。ザインか。
ヒューイとザインは昔から仲が良いものね。私は女子だから年齢が高くなるにつれ二人とはそんなに会わなくなったけど、ヒューイとザインはこうして学園の二日しかない週末にもいつも一緒に居るもの。
人当たりは良いけど人見知り気味のザイン。彼と仲良くできるのがヒューイの配偶者の条件って訳か。
リンジーがチラッとザインを見ると、ザインもニコリと笑顔を返す。
綺麗なザイン。そして格好良いヒューイ。
幼なじみの華やかな二人に比べて、私は、容姿は十人並み、中肉中背、髪はゴワゴワしたウェーブで結わえてないと収拾がつかないし、色も金髪と言えば聞こえは良いけど、ただの燻んだ黄色だ。瞳もありふれた薄茶色。要するに、何と言うか、あまり特徴がない平凡女子なのだ。
「それにグラフトン家の嫡男が十七歳になるのにまだ婚約もしていないなど、遅いくらいだろ?父上からも母上からもせっつかれてさ、山のような縁談の中から相手を探すくらいならリンジーの方が良いじゃないか」
そう言ってヒューイはにっこりと笑う。
リンジーの方が良い。か。
リンジーが良い、じゃなくて。
まったく、悪気も邪気もなしに相手を斬り付けるのがヒューイよね。
「……」
リンジーはじっとヒューイを見た。
「何だ?」
ヒューイが眉を上げてリンジーを見る。
「…私には選ぶ権利はないのね」
ヒューイから視線を逸らして言うリンジーに、ヒューイは眉を顰めた。
「俺だぞ?何が不満だ?」
この自信過剰男め。
リンジーは俯いて言う。
「だって、私、ヒューイの事好きじゃないもの」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる