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トンプソン家の別荘で、助け出したフィオを抱きしめた。
「フィオが好きだ」
ようやく告げた。もう絶対に離さない。
それにしても、離れた場所で死んだ事を知った「彼女」とは誰なのだろう?
自慢ではないが、俺はフィオが初恋だ。心当たりはない。
離れては駄目だ、後悔するぞ、と強く背中を押してくれたのは、自分であって自分でないような…
「もしかして『前世』とか…そういう物なのか?」
母が倒れたとの報に王宮へ戻り、フィオとティナの乗った馬車が川に転落したと聞く。
意識のないフィオの顔を見ると、脳に映像が浮かび上がった。
テレビの画面。夕方のニュース。
大学近くの交差点で車同士の衝突事故が起き、一台の車が歩道に飛び込んだ。
あ、彼女の行った大学の近くだ。
ニュースに意識が向いた。
飛び込んだ車の運転手と歩道にいた歩行者が二人亡くなり、もう一台の車の運転手と歩行者三人が怪我を負ったとアナウンサーが言う。
そして、死傷者の氏名のテロップが出た。
彼女の名前。その前に「死亡」の文字。
高校三年の時、告白して付き合った彼女。
すごく好きだった。付き合って幸せだった。
別の大学へ進むとなかなか会えなくなった。すれ違いが続く。そもそも自分から告白したから、好かれている自信がなくなった。
「同じ大学に好きな人ができた」
そうメッセージを送って、終わらせた。
いつか、同窓会ででも会ったら、思い出話でもできるといい。
そんな事を考えていた自分を激しく後悔した。
離れた自分に悲しむ資格もない気がした。
好きなのに、離れてはいけなかったんだ。
-----
「レオン様、その『彼女』私です。多分」
「…は?」
「二十歳の大学二回生で、高三の時告白されて付き合った彼氏がいて、別の大学に行ったら向こうに好きな人ができて別れて、交差点で衝動した車が飛び込んで来て…」
「フィオが『彼女』…?」
「ああ、だからなのね」
フィオナはゆっくり起き上がる。
レオンは枕やクッションを寄り掛かれるよう、フィオナの背中の後ろに入れた。
「だから?」
「レオン様、私が前世の事を思い出したのは、レオン様に初めて会った時なんです」
「あの時に?」
「レオン様を見て、目眩がして、気付いたら『あれ?私二十歳の女子大生じゃなかったっけ?』って」
「こんな事…あるのか…」
レオンは片手で口元を覆う。
「んー、つまり、こう言うのを『運命』とか、言うんじゃありませんか?」
自分で言っといて、ちょっと恥ずかしい…
「なん…」
フィオナは照れ隠しに「なんてね」と言おうとしたが、レオンに唇を奪われて途中までしか言えなかった。
「済まない。フィオはまだ安静にしておかないといけないのに、感極まってつい…」
「『つい』の割には、な、長かったです…よ」
フィオナは赤くなりながらレオンを睨む。
「ふっ。フィオは正直な処がかわいいな」
レオンは笑いながらフィオナを抱きしめた。
「それにしても、私てっきり『転生したら悪役令嬢で、婚約者とヒロインが惹かれ合って、ヒロインを苛めて婚約破棄される』ストーリーだと思ってたんですけど、どうやら違うみたいですよね?」
フィオナはレオンの背中に手を回しながら言う。
「何だそれは」
「乙女ゲームやライトノベルやコミックです」
「ああ…あったな。ん?まさかフィオ、それでノエルが俺の恋人じゃないかと言ったのか?」
「…何しろノエル様が超絶かわいいので、これはBLモノかと」
「……」
「うーん、ストーリーとかなくて、ただ単に生まれ変わっただけなのかしら?確かに、ヒロインを苛めてないのに婚約解消になった時点で、何か違うな、とは思ったんですけど」
「生まれ変わりを『ただ単に』と言うのも…まあ、でも、フィオが悪役令嬢で、俺がヒロインに惹かれる展開は絶対にないな」
レオンはフィオナの髪を撫でる。
「絶対ですか?」
「絶対だ」
「…レオン様」
「ん?」
「好きです」
レオンは目を見開いてフィオナの顔を覗き込む。
「…言った事なかったと思って」
頬を染めて言うフィオナにレオンは破顔する。
「判ってはいたが、言葉で聞くと嬉しいな」
「…レオン様」
「ん?」
「お父様には、内緒にします」
「フィオ…」
レオンはフィオナの頬を両手で包むと顔を近付ける。フィオナはそっと眼を閉じた。
トンプソン家の別荘で、助け出したフィオを抱きしめた。
「フィオが好きだ」
ようやく告げた。もう絶対に離さない。
それにしても、離れた場所で死んだ事を知った「彼女」とは誰なのだろう?
自慢ではないが、俺はフィオが初恋だ。心当たりはない。
離れては駄目だ、後悔するぞ、と強く背中を押してくれたのは、自分であって自分でないような…
「もしかして『前世』とか…そういう物なのか?」
母が倒れたとの報に王宮へ戻り、フィオとティナの乗った馬車が川に転落したと聞く。
意識のないフィオの顔を見ると、脳に映像が浮かび上がった。
テレビの画面。夕方のニュース。
大学近くの交差点で車同士の衝突事故が起き、一台の車が歩道に飛び込んだ。
あ、彼女の行った大学の近くだ。
ニュースに意識が向いた。
飛び込んだ車の運転手と歩道にいた歩行者が二人亡くなり、もう一台の車の運転手と歩行者三人が怪我を負ったとアナウンサーが言う。
そして、死傷者の氏名のテロップが出た。
彼女の名前。その前に「死亡」の文字。
高校三年の時、告白して付き合った彼女。
すごく好きだった。付き合って幸せだった。
別の大学へ進むとなかなか会えなくなった。すれ違いが続く。そもそも自分から告白したから、好かれている自信がなくなった。
「同じ大学に好きな人ができた」
そうメッセージを送って、終わらせた。
いつか、同窓会ででも会ったら、思い出話でもできるといい。
そんな事を考えていた自分を激しく後悔した。
離れた自分に悲しむ資格もない気がした。
好きなのに、離れてはいけなかったんだ。
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「レオン様、その『彼女』私です。多分」
「…は?」
「二十歳の大学二回生で、高三の時告白されて付き合った彼氏がいて、別の大学に行ったら向こうに好きな人ができて別れて、交差点で衝動した車が飛び込んで来て…」
「フィオが『彼女』…?」
「ああ、だからなのね」
フィオナはゆっくり起き上がる。
レオンは枕やクッションを寄り掛かれるよう、フィオナの背中の後ろに入れた。
「だから?」
「レオン様、私が前世の事を思い出したのは、レオン様に初めて会った時なんです」
「あの時に?」
「レオン様を見て、目眩がして、気付いたら『あれ?私二十歳の女子大生じゃなかったっけ?』って」
「こんな事…あるのか…」
レオンは片手で口元を覆う。
「んー、つまり、こう言うのを『運命』とか、言うんじゃありませんか?」
自分で言っといて、ちょっと恥ずかしい…
「なん…」
フィオナは照れ隠しに「なんてね」と言おうとしたが、レオンに唇を奪われて途中までしか言えなかった。
「済まない。フィオはまだ安静にしておかないといけないのに、感極まってつい…」
「『つい』の割には、な、長かったです…よ」
フィオナは赤くなりながらレオンを睨む。
「ふっ。フィオは正直な処がかわいいな」
レオンは笑いながらフィオナを抱きしめた。
「それにしても、私てっきり『転生したら悪役令嬢で、婚約者とヒロインが惹かれ合って、ヒロインを苛めて婚約破棄される』ストーリーだと思ってたんですけど、どうやら違うみたいですよね?」
フィオナはレオンの背中に手を回しながら言う。
「何だそれは」
「乙女ゲームやライトノベルやコミックです」
「ああ…あったな。ん?まさかフィオ、それでノエルが俺の恋人じゃないかと言ったのか?」
「…何しろノエル様が超絶かわいいので、これはBLモノかと」
「……」
「うーん、ストーリーとかなくて、ただ単に生まれ変わっただけなのかしら?確かに、ヒロインを苛めてないのに婚約解消になった時点で、何か違うな、とは思ったんですけど」
「生まれ変わりを『ただ単に』と言うのも…まあ、でも、フィオが悪役令嬢で、俺がヒロインに惹かれる展開は絶対にないな」
レオンはフィオナの髪を撫でる。
「絶対ですか?」
「絶対だ」
「…レオン様」
「ん?」
「好きです」
レオンは目を見開いてフィオナの顔を覗き込む。
「…言った事なかったと思って」
頬を染めて言うフィオナにレオンは破顔する。
「判ってはいたが、言葉で聞くと嬉しいな」
「…レオン様」
「ん?」
「お父様には、内緒にします」
「フィオ…」
レオンはフィオナの頬を両手で包むと顔を近付ける。フィオナはそっと眼を閉じた。
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