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「こんな短剣もので儂を止められると思うな!」
 レオナルドは自身の腰に短剣を押し込むスーザンの手首を掴むと、勢い良く横に払った。
 バンッと音を立ててスーザンが処置室の扉にぶつかる。扉が外れ、隙間が開いた。
「うう…」
 背中を打ち付けたスーザンはその場に倒れ込んだ。
「スーザン!」
 ブライアンは音のした方へ駆け寄ると、スーザンの側にしゃがみ込んだ。
「…殿下…本当に…見えないんですね…」
 スーザンは自分の前に差し出されふらふらと彷徨うブライアンの手をギュッと握った。
「キッシンジャーの小娘、何のつもりだ?」
 レオナルドがふらりとスーザンとブライアンの前に立つ。腰に剣が刺さって血が流れているが、気にする様子もない。
「…いくら…関心がないとは言え…元婚約者として…殿下の望まない方向へ…行くのを…阻止したい位の…情はあるのよ」
「お美しいねぇ」
 そう言ってニヤリと笑ったレオナルドの身体が、ぐらりと揺らぐ。
「…!?」
「公爵のように…毒は用意できなかったけど…痺れ薬よ」
 ブライアンに掴まり、身を起こしながらスーザンは笑った。
「このっ小娘!」
 ふらつく足取りでスーザンに近付こうとするレオナルド。

 その後ろから、レオンが体当たりするようにしながら身体に刺さった短剣の柄を掴んだ。
 そして、抉るように手首を返しながら短剣を抜いた。
「ぐあっ」
 身を捩ったレオナルドは、レオンに手を伸ばす。
 レオンは後ろに飛んでレオナルドの手を避け、身体の前で短剣を構えた。
「言ったろう?そんな短剣で儂は止められんと」
 ふらつきながらも笑みを浮かべてジリジリとレオンに近付くレオナルド。
「レオン!」
 名を呼ばれてハッとするレオンに何かが飛んで来た。
 俺の、剣!
 レオンは剣の柄を掴むと、剣が飛んで来た方へ視線を向ける。
 スーザンがぶつけられ開いた処置室の扉の隙間から、剣の鞘を抱え持つフィオナが見えた。
 レオンは剣を構えると、レオナルドを見据えて口角を上げる。
 フィオが、目を覚ましたなら、もう怖い物などない。

 レオンは剣を振り上げた。

-----

 ドサリ、と倒れたレオナルドを横目に、レオンはフィオナに向かって駆け出した。
「フィオ!」
 鞘を抱いたまま床にへたり込むフィオナを抱きしめる。
「いたた…レオン様」
「ああ。済まん。大丈夫か?頭を打ってるんだ。医師を呼んで来よう」
 レオンはフィオナを抱き上げると、処置室のベッドに座らせる。
「何でこんなに人がいないんですか?」
「オズバーン卿が人払いをしていたんだろう」
「あの…オズバーン公爵は…」
「死んではいないぞ。早く処置しなければ出血多量になるかも知れんが」

 医師たちがやって来て、レオナルドを運んで行く。
 背中を打ったスーザンも診察へと運ばれて、ブライアンが付き添って行った。
「もう大丈夫でしょうが、何分頭なので急変も有り得ます。暫くは安静にして様子を見てください」
 フィオナを診た医師がそう言うと、「分かった」と言い、レオンはフィオナを抱き上げた。
「レオン様!?」
「俺の部屋で寝かせる」

「ティナは?無事ですか?」
 揺らさないようにゆっくりと歩くレオンにフィオナは問う。
「ああ。フィオが庇ってくれたおかげで足の骨折だけで済んだ」
「そうですか…骨折…」
「頭部打撲のフィオの方が重傷だからな。言っておくが」
「そうですか?」
「…あのまま、目覚めなかったらどうしようかと思った」
 レオンはフィオナの頭の包帯の上に口付ける。
「レオン様、頭に血が昇るような事しないでください…」
 フィオナの頬が赤く染まる。
「ふっ。そうだな。済まん」
 レオンの私室に近付くと、侍従のパスカルが歩み寄って来る。
「レオン殿下」
「母上はどうだ?」
「解毒剤が効いて恐らくもう大丈夫だろうと。王太子殿下が付いておられます」
「そうか…」
 ほっとレオンは息を吐く。
 パスカルが扉を開けて、部屋へと入ると、フィオナをベッドに降ろした。
「母上とティナの所へ行って来るから、大人しく寝ておけよ」
「うん」
 傷のない頬を撫でて、レオンは部屋を出て行く。
 …まさかスーザン様がブライアン殿下のためにあんな事するなんて。
 やはり長年婚約してると情って湧くのね。






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