21 / 36
20
しおりを挟む
20
「そもそも、王になったら嬉しいか?って言った時に」
「うん?」
「じゃあ婚約解消しなくちゃなって、すごく嬉しそうと言うか、楽しそうに笑って言ったのは何故なんですか?」
「ああ…」
今日もレオンはキャストン邸を訪れている。マルティナも一緒に来ているが、マルティナはフィオナの兄レナードと庭を散策中で、レオンはフィオナとテラスでお茶会中だ。
「あれは『やっぱりな』と言う落胆を誤魔化そうとした反動だな」
「反動であんな笑顔になる物なんですか?」
「それだけ落胆したって事だ」
「そうなんですか?」
フィオナは「納得いかないな」と呟きながら首を傾げる。
「あ、あと、トンプソン子爵家の別荘に助けに来てくれた時に『思い出した』って言ってたのは?」
「あれは…」
レオンが言い掛けた時、マルティナとレナードが戻って来た。
「フィオナが植えた薔薇を見てきたわ」
「綺麗だったでしょ?」
「ええ」
マルティナとレナードがお茶の席に着く。
「植えただけで世話は庭師がしてるけどな」
「お兄様!」
「フィオ…」
「たったまにはお世話してますよ!水とか!薔薇って育てるの難しいんだから、素人が無闇に手を出しちゃ駄目なんです!」
フィオナが必死に言っていると、テラスに慌てた様子の執事と、レオンの侍従パスカルがやって来た。
「どうした?」
レオンが素早く立ち上がる。
「レオン殿下、クレア様がお倒れに…」
「母上が!?」
「お母様?」
クレアは王太子の側妃で、レオンとマルティナの母親だ。
「ティナ、戻ろう」
「はい!」
「レオン様、馬の方が早いわ!ウチの一番速い馬を出します!」
「ああ。ありがとうフィオ」
レオンは馬で、マルティナは馬車で王宮に戻る事となり、フィオナはマルティナに付き添って馬車に乗り込んだ。
レオンとパスカルの馬はすでに見えなくなった道を馬車で走る。
「お母様…」
「ティナ、すぐに着くわ」
フィオナはマルティナの手を握る。二人で手を握り合った、その時
ガガガッ
と音がして、馬車が大きく揺れた。
「な、何!?」
「きゃあ!」
ガタガタッ
ガガッガーンッザザッ
ガツッガシャガシャンッ
馬車が横倒しになり、道から逸れて木をなぎ倒しながら川土手を滑り落ち、大きな岩に当たって、止まった。
-----
王城に着いたレオンは、クレアの居室に向かって走る。
「母上!」
クレアの寝室に入ると、ベッドの周りを医師と看護師、薬師が取り囲んでいた。
部屋の隅の長椅子に項垂れて座っていた王太子デリックがレオンの声を聞いて顔を上げる。
「レオン」
「父上、母上は…?」
レオンはデリックの前に跪いた。
「毒を…」
「毒?」
「…紅茶に毒を入れられていたようだ」
「容体は?」
「解毒はしたが、厳しい状態だ」
レオンは立ち上がると、ベッドの側に行く、看護師が後ろに下がり、枕元にいた医師と並び母の顔を見た。
クレアは青白い顔色で眉間に皺が寄っているが、規則正しく呼吸をしていた。
「…意識がないのか?」
「先程までは嘔吐と胸痛で苦しまれていたのですが、今は眠っておられます」
「そうか」
「毒味役が毒を入れた事を認めているので、すでに捕らえてある。今取り調べをしているだろう」
デリックが言う。
「一体誰が…」
「…レオン」
デリックは自身の膝の上で組んだ手を握りしめた。
「はい」
「クレアの症状が、アデラが亡くなった時と似ている」
「正妃様が?」
「あの時は心臓の病と結論付けられたが…」
「…まさか」
「判らん。確証はない。ないが…」
アデラは王太子妃でブライアンが3歳の時亡くなっている。
アデラは毒を盛られたクレアと同じように嘔吐と胸痛を訴えた。医師に心臓発作と診断され、苦しんで、そのまま亡くなった。デリックはクレアの苦しむ様子を見て、かつてアデラが苦しんでいた様が重なって見えたのだ。
…もし、正妃様が毒殺されたとして、母上を狙った者と同じ者が?
「レオン殿下、パスカル様が」
看護師の一人がパスカルが来ているとレオンに知らせて来る。
レオンがクレアの寝室を出ると、パスカルが足早に近寄って来る。
「ノエル殿から急告が」
「ノエル?」
まさか、フィオとティナに何かあったのか?
「マルティナ殿下とフィオナ様の乗った馬車が、川に転落し…大破した、と」
「そもそも、王になったら嬉しいか?って言った時に」
「うん?」
「じゃあ婚約解消しなくちゃなって、すごく嬉しそうと言うか、楽しそうに笑って言ったのは何故なんですか?」
「ああ…」
今日もレオンはキャストン邸を訪れている。マルティナも一緒に来ているが、マルティナはフィオナの兄レナードと庭を散策中で、レオンはフィオナとテラスでお茶会中だ。
「あれは『やっぱりな』と言う落胆を誤魔化そうとした反動だな」
「反動であんな笑顔になる物なんですか?」
「それだけ落胆したって事だ」
「そうなんですか?」
フィオナは「納得いかないな」と呟きながら首を傾げる。
「あ、あと、トンプソン子爵家の別荘に助けに来てくれた時に『思い出した』って言ってたのは?」
「あれは…」
レオンが言い掛けた時、マルティナとレナードが戻って来た。
「フィオナが植えた薔薇を見てきたわ」
「綺麗だったでしょ?」
「ええ」
マルティナとレナードがお茶の席に着く。
「植えただけで世話は庭師がしてるけどな」
「お兄様!」
「フィオ…」
「たったまにはお世話してますよ!水とか!薔薇って育てるの難しいんだから、素人が無闇に手を出しちゃ駄目なんです!」
フィオナが必死に言っていると、テラスに慌てた様子の執事と、レオンの侍従パスカルがやって来た。
「どうした?」
レオンが素早く立ち上がる。
「レオン殿下、クレア様がお倒れに…」
「母上が!?」
「お母様?」
クレアは王太子の側妃で、レオンとマルティナの母親だ。
「ティナ、戻ろう」
「はい!」
「レオン様、馬の方が早いわ!ウチの一番速い馬を出します!」
「ああ。ありがとうフィオ」
レオンは馬で、マルティナは馬車で王宮に戻る事となり、フィオナはマルティナに付き添って馬車に乗り込んだ。
レオンとパスカルの馬はすでに見えなくなった道を馬車で走る。
「お母様…」
「ティナ、すぐに着くわ」
フィオナはマルティナの手を握る。二人で手を握り合った、その時
ガガガッ
と音がして、馬車が大きく揺れた。
「な、何!?」
「きゃあ!」
ガタガタッ
ガガッガーンッザザッ
ガツッガシャガシャンッ
馬車が横倒しになり、道から逸れて木をなぎ倒しながら川土手を滑り落ち、大きな岩に当たって、止まった。
-----
王城に着いたレオンは、クレアの居室に向かって走る。
「母上!」
クレアの寝室に入ると、ベッドの周りを医師と看護師、薬師が取り囲んでいた。
部屋の隅の長椅子に項垂れて座っていた王太子デリックがレオンの声を聞いて顔を上げる。
「レオン」
「父上、母上は…?」
レオンはデリックの前に跪いた。
「毒を…」
「毒?」
「…紅茶に毒を入れられていたようだ」
「容体は?」
「解毒はしたが、厳しい状態だ」
レオンは立ち上がると、ベッドの側に行く、看護師が後ろに下がり、枕元にいた医師と並び母の顔を見た。
クレアは青白い顔色で眉間に皺が寄っているが、規則正しく呼吸をしていた。
「…意識がないのか?」
「先程までは嘔吐と胸痛で苦しまれていたのですが、今は眠っておられます」
「そうか」
「毒味役が毒を入れた事を認めているので、すでに捕らえてある。今取り調べをしているだろう」
デリックが言う。
「一体誰が…」
「…レオン」
デリックは自身の膝の上で組んだ手を握りしめた。
「はい」
「クレアの症状が、アデラが亡くなった時と似ている」
「正妃様が?」
「あの時は心臓の病と結論付けられたが…」
「…まさか」
「判らん。確証はない。ないが…」
アデラは王太子妃でブライアンが3歳の時亡くなっている。
アデラは毒を盛られたクレアと同じように嘔吐と胸痛を訴えた。医師に心臓発作と診断され、苦しんで、そのまま亡くなった。デリックはクレアの苦しむ様子を見て、かつてアデラが苦しんでいた様が重なって見えたのだ。
…もし、正妃様が毒殺されたとして、母上を狙った者と同じ者が?
「レオン殿下、パスカル様が」
看護師の一人がパスカルが来ているとレオンに知らせて来る。
レオンがクレアの寝室を出ると、パスカルが足早に近寄って来る。
「ノエル殿から急告が」
「ノエル?」
まさか、フィオとティナに何かあったのか?
「マルティナ殿下とフィオナ様の乗った馬車が、川に転落し…大破した、と」
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
悪役令嬢と十三霊の神々
冴條玲
恋愛
★ 悲劇の悪役令嬢に転生してしまった少女はうっかり、町人Sに恋をした。
お人好しな性格ゆえに、足を引っ張られて雲上から真っ逆さまに転落、ひきこもりライフを自由気ままに過ごしていた雪乃。
ある日、友人の京奈と行った怪しい神社の古井戸にのみ込まれ、そこで出会った神様との交渉の後、京奈のための乙女ゲーの世界に転送されてしまう。
悪役令嬢デゼルとして転生した雪乃は、闇の聖女の力を解放するための洗礼を受けた七歳の日に、前世(死んでない)の記憶を思い出し、七歳では理解できなかった、ゲーム的には無名の町人サイファの立ち居振る舞いに惚れ込むが、このままでは悪役令嬢の故郷は三年後には滅ぼされてしまう。
悪役令嬢は主役じゃないから、悲劇を回避できるような年齢設定になっていないのだ。
いくらゲームのシナリオを知っていたって、十歳になる前にこの流れを止めるなんてことができるのか――!?
何を隠そう、こんな展開、神様だって想定外。
悪役令嬢がよもや十歳で戦争の阻止に動くなんて思いもよらなかった神様の本命は、実は、京奈ではなく雪乃。
二万年前に主神と魔神、二柱の神が始めた賭けの決着をつけるべく、雪乃に白羽の矢が立てられたのだ。
だがしかし、お人好しな雪乃は故国の人々も敵国の人々も守ろうと、ナイトメアモードに突入してしまう。
神様は、一人の少女を徹底的に破壊し尽くす残酷物語になんてしたくないのに――
【表紙】なかいのぶ様
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる