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「レナードもなかなかやるわね」
フィオナの姉パトリシアが目をキラキラさせながら言う。
「面白がってるわね。お姉様」
テラスでお茶を飲みながらフィオナが言うと
「あら。妹が王太子になりそうな王子の婚約者で、弟が王女を妻に迎える気なのよ。むしろ私だけ兄妹の中で何もなく平凡でごめんなさいって感じじゃない?」
「お姉様はずっと想い合ってた方と結婚したじゃないですか」
「そうね。平凡万歳だわ」
パトリシアは隣の領地の伯爵家の次男と結婚している。相手はパトリシアの幼馴染で、恋愛結婚だ。
「それで?それで?マルティナ殿下、落ちそうなの?」
「王女殿下に『落ちそう』とか、不敬ですよ。姉上」
レナードが苦笑いしながらテラスに出てくる。
「あら、レナード。それでどうなの?」
「マルティナ殿下はまだ学園の二年生ですから、卒業までは…まあ長い目で見てください」
「まあこれから戴冠式もあるし、立太子も…まだ情勢もわからないものね。で、そのレオン殿下とお父様は?」
「父上がまだ話があるってさ」
今日、レオンは先日の誘拐事件と、フィオナとの婚約解消をなかった事にする件をフィオナの父へ説明するためにキャストン邸を秘密裏に訪れている。
「さて、レオン殿下。どういう事なのか、よーく説明していただきましょうか」
先程、レオンを執務室に迎えた父は口角を上げてそう言った。
うわあ。お父様すごく怒ってる…まあ無理もないけど…
その後、レオンとレナードを残して執務室を出たフィオナはレオンが来ていると聞いてやってきたパトリシアとお茶を飲みながらレオンを待っているのだ。
しばらくして、レオンがテラスにやって来た。
「フィオ」
「お話終わりました?」
「ああ。ものすごく笑顔で、ものすごく叱られたがな」
お茶の席に着いたレオンはフィオナに言う。
「レオン様も笑いながら怒りますよね」
「そうか?ああ、そう言えばヘンリー・トンプソンにもそう言われたな」
「あの男が何か話したんですか?黙秘していたんでしょう?」
レナードが言うと
「だから俺が直に話を聞いた。フィオを傷付けようとしておいて黙秘などと舐めた真似…許す訳がないだろ?」
そう言ってレオンはにっこりと笑った。
-----
ヘンリーは第一王子ブライアンの婚約者であるスーザンと学園の同じで、スーザンの信奉者だった。
レオンはヘンリーを捕らえてある王宮の一室へ入ると、跪くヘンリーの前に立った。
ヘンリーは両手の親指同士と両手首を縛られている。
「何故、こんな事をした?」
レオンの問いにもヘンリーは黙って俯いたままだ。
「スーザン・キッシンジャー侯爵令嬢に頼まれたのか?」
ヘンリーは顔を上げると、レオンを睨む。
「……」
「お前が勝手にやったのか?」
「……」
「黙秘か」
レオンは傍に控えた見張りの騎士の腰から素早く剣を抜いた。
「殿下!」
騎士が慌てた様子で言うが、レオンは意に介さず、ヘンリーの鼻先へと剣を突き付けた。
「ひっ」
怯むヘンリーに、レオンはニッコリと笑う。
「まあ、もしもあの時フィオナに暴行していたら、その場で私に殺されていたんだ。お前の証言が取れなくても一向にかまわん」
レオンは笑顔で剣先をヘンリーの喉元へと動かす。
「ひいっ…」
「お前がフィオナにした事を思えば、怒りで私の手元が狂うかもなあ」
剣先でヘンリーの顎へ下から触れる。切れ味鋭い剣で顎の下が薄く切れて喉を血が伝った。
「…スーザン・キッシンジャー侯爵令嬢に頼まれたのか?」
口角を上げたまま問うレオン。ヘンリーはガタガタと震え出した。
「ちっ、違う!俺が、勝手に…」
「何故だ?」
「…ス、スーザン様は王妃になるべきお方だ。あの素晴らしいお方の立場を脅かす貴様が許せなかった」
「殿下に向かって『貴様』などと…」
控えていた騎士の一人がヘンリーを咎める声を上げるが、レオンはそれを手をかざして止める。
「かまわん。それで何故マルティナを?」
「何でも、誰でも良かったんだ。貴様が王太子になるのを止める事ができれば!」
そう叫んでヘンリーはレオンを睨みつけた。
「そうか。ではお前が知らない情報を一つやろう」
レオンは剣を引くと、ヘンリーの胸倉を掴んで引き寄せ、耳元に顔を寄せる。
「兄上は、私が王太子となる事を了承している」
ヘンリーにしか聞こえないように、そう言った。
「レナードもなかなかやるわね」
フィオナの姉パトリシアが目をキラキラさせながら言う。
「面白がってるわね。お姉様」
テラスでお茶を飲みながらフィオナが言うと
「あら。妹が王太子になりそうな王子の婚約者で、弟が王女を妻に迎える気なのよ。むしろ私だけ兄妹の中で何もなく平凡でごめんなさいって感じじゃない?」
「お姉様はずっと想い合ってた方と結婚したじゃないですか」
「そうね。平凡万歳だわ」
パトリシアは隣の領地の伯爵家の次男と結婚している。相手はパトリシアの幼馴染で、恋愛結婚だ。
「それで?それで?マルティナ殿下、落ちそうなの?」
「王女殿下に『落ちそう』とか、不敬ですよ。姉上」
レナードが苦笑いしながらテラスに出てくる。
「あら、レナード。それでどうなの?」
「マルティナ殿下はまだ学園の二年生ですから、卒業までは…まあ長い目で見てください」
「まあこれから戴冠式もあるし、立太子も…まだ情勢もわからないものね。で、そのレオン殿下とお父様は?」
「父上がまだ話があるってさ」
今日、レオンは先日の誘拐事件と、フィオナとの婚約解消をなかった事にする件をフィオナの父へ説明するためにキャストン邸を秘密裏に訪れている。
「さて、レオン殿下。どういう事なのか、よーく説明していただきましょうか」
先程、レオンを執務室に迎えた父は口角を上げてそう言った。
うわあ。お父様すごく怒ってる…まあ無理もないけど…
その後、レオンとレナードを残して執務室を出たフィオナはレオンが来ていると聞いてやってきたパトリシアとお茶を飲みながらレオンを待っているのだ。
しばらくして、レオンがテラスにやって来た。
「フィオ」
「お話終わりました?」
「ああ。ものすごく笑顔で、ものすごく叱られたがな」
お茶の席に着いたレオンはフィオナに言う。
「レオン様も笑いながら怒りますよね」
「そうか?ああ、そう言えばヘンリー・トンプソンにもそう言われたな」
「あの男が何か話したんですか?黙秘していたんでしょう?」
レナードが言うと
「だから俺が直に話を聞いた。フィオを傷付けようとしておいて黙秘などと舐めた真似…許す訳がないだろ?」
そう言ってレオンはにっこりと笑った。
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ヘンリーは第一王子ブライアンの婚約者であるスーザンと学園の同じで、スーザンの信奉者だった。
レオンはヘンリーを捕らえてある王宮の一室へ入ると、跪くヘンリーの前に立った。
ヘンリーは両手の親指同士と両手首を縛られている。
「何故、こんな事をした?」
レオンの問いにもヘンリーは黙って俯いたままだ。
「スーザン・キッシンジャー侯爵令嬢に頼まれたのか?」
ヘンリーは顔を上げると、レオンを睨む。
「……」
「お前が勝手にやったのか?」
「……」
「黙秘か」
レオンは傍に控えた見張りの騎士の腰から素早く剣を抜いた。
「殿下!」
騎士が慌てた様子で言うが、レオンは意に介さず、ヘンリーの鼻先へと剣を突き付けた。
「ひっ」
怯むヘンリーに、レオンはニッコリと笑う。
「まあ、もしもあの時フィオナに暴行していたら、その場で私に殺されていたんだ。お前の証言が取れなくても一向にかまわん」
レオンは笑顔で剣先をヘンリーの喉元へと動かす。
「ひいっ…」
「お前がフィオナにした事を思えば、怒りで私の手元が狂うかもなあ」
剣先でヘンリーの顎へ下から触れる。切れ味鋭い剣で顎の下が薄く切れて喉を血が伝った。
「…スーザン・キッシンジャー侯爵令嬢に頼まれたのか?」
口角を上げたまま問うレオン。ヘンリーはガタガタと震え出した。
「ちっ、違う!俺が、勝手に…」
「何故だ?」
「…ス、スーザン様は王妃になるべきお方だ。あの素晴らしいお方の立場を脅かす貴様が許せなかった」
「殿下に向かって『貴様』などと…」
控えていた騎士の一人がヘンリーを咎める声を上げるが、レオンはそれを手をかざして止める。
「かまわん。それで何故マルティナを?」
「何でも、誰でも良かったんだ。貴様が王太子になるのを止める事ができれば!」
そう叫んでヘンリーはレオンを睨みつけた。
「そうか。ではお前が知らない情報を一つやろう」
レオンは剣を引くと、ヘンリーの胸倉を掴んで引き寄せ、耳元に顔を寄せる。
「兄上は、私が王太子となる事を了承している」
ヘンリーにしか聞こえないように、そう言った。
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